監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
遠隔転移を有する大腸癌患者に対するleucovorin+fluorouracil+oxaliplatin+bevacizumab療法 vs S-1+oxaliplatin+bevacizumab療法(SOFT):第III相オープンラベル非劣性ランダム化比較試験
Yamada Y. et al. Lancet Oncol, 2013 ; 14(13) : 1278-1286
遠隔転移を有する大腸癌では、NO16966試験にてcapecitabine+oxaliplatin(L-OHP)+bevacizumab療法のFOLFOX+bevacizumab療法に対するPFSの非劣性が示されて以来、経口抗癌剤の有用性が確立している。一方でS-1については遠隔転移を有する大腸癌のsecond-line治療においてirrinotecan(CPT-11)との併用療法のFOLFIRIに対する非劣性、また進行/再発大腸癌のfirst-line治療においてL-OHPとの併用(SOX)療法のcapecitabine+L-OHPに対する非劣性が示され、期待が高まっている。これまでの各試験の結果をさらに強固なものにするために、SOX+bevacizumabおよびmFOLFOX6+bevacizumab療法を比較する第III相オープンラベルランダム化非劣性試験を行った。
20〜80歳で治癒的切除不能、ECOG PS 0/1、化学療法歴・放射線療法歴のない進行/再発大腸癌患者を日本国内82施設から登録した。なおL-OHPベースの術後補助化学療法歴のある患者などは不適格とした。
適格患者はmFOLFOX6+bevacizumab療法(FOLFOX群)またはSOX+bevacizumab療法(SOX群)にランダムに割り付けた。FOLFOX群はbevacizumab 5mg/kg静注にmFOLFOX6療法(day 1にL-OHP 85 mg/m2、l-leucovorin[l-LV]200 mg/m2、fluorouracil[5-FU]400 mg/m2急速静注、day1-2に5-FU 2,400 mg/m2を46時間持続静注)を2週ごとに実施した。SOX群にはbevacizumab 7.5mg/kg静注後にL-OHP 130mg/m2静注(day 1)を3週ごとに行い、S-1はday1の夕食後からday 15の朝食後まで毎日経口投与し、7日間の休薬期間を置いた。S-1の用量は体表面積1.25m2未満の症例は80mg/日、1.25〜1.5m2の場合は100mg/日、1.5m2を超える場合は120mg/日とした。治療は各患者において中止条件に適合するまで繰り返した。
主要評価項目はprogression-free survival(PFS、ベースラインより標的病変の長径和が20%以上増大した場合をPDと定義)、副次的評価項目はoverall survival(OS)、time to treatment failure (TTF)、奏効率、疾患コントロール率(CR+PR+SD)、R0切除率、副作用である。なお、PFSの非劣性の限界値はHR 1.33とした。
2009年2月〜2011年3月に512例をランダム化したが、FOLFOX群の1例はランダム化後に大腸癌でないことが判明し、解析から除外したため、FOLFOX群255例、SOX群256例となった。両群の患者背景は、男性62%、66%、年齢中央値63歳、63歳、術後補助化学療法歴ありは85%、85%などで、背景因子は同等であった。
L-OHPの相対的dose intensityはFOLFOX群62.7%、SOX群75.5%でFOLFOX群のほうが低かった。治療中断・遅延・用量減量などは主に副作用のためにFOLFOX群では3284コース中51%、SOX群では2183コース中56%で起きた。
PFSの追跡期間中央値18.4ヵ月だった。baseline PD までのPFS中央値はFOLFOX群11.5ヵ月(95%CI 10.7-13.2)、SOX群11.7ヵ月(95%CI 10.7-12.9)で、HR 1.04(95%CI 0.86-1.27)と非劣性限界値を下回ったことから、FOLFOX群に対するSOX群の非劣性が認められた(非劣性検定p=0.014)。またRECISTに基づくPFS中央値も、FOLFOX群10.2ヵ月(95%CI 9.5-11.3)、SOX群10.2ヵ月(95%CI 9.4-11.1)でSOX群の非劣性が確認された。サブグループ解析においてレジメンと有意な相互関係を示す因子はなかった。
OSの追跡期間中央値は23.4ヵ月で、FOLFOX群41%、SOX群43%が死亡した。OS中央値は30.9ヵ月 vs 29.6ヵ月で両群に有意差はみられなかった。
TTF中央値は6.7ヵ月 vs 6.2ヵ月であった。
奏効率はFOLFOX群63%、SOX群62%、疾患コントロール率はそれぞれ89%、89%で、治療完了後R0切除術を受けたのは各群9%で有意差はなかった。
Grade 3以上の副作用についてみると、白血球減少(8% vs 2%、P=0.0029)と好中球減少(34% vs 9%、p<0.0001)はFOLFOX群で、食欲不振(1% vs 5%、p=0.019)と下痢(3% vs 9%、p=0.0040)はSOX群で高頻度に発生した。感覚神経障害、手足症候群は両群同等であった。治療関連死はFOLFOX群3例、SOX群4例にみられた。
遠隔転移を有する大腸癌に対するfirst-line治療としてのSOX+bevacizumab療法はmFOLFOX6療法に対しPFSは非劣性であった。Grade 3以上の下痢や食欲不振がmFOLFOX6療法に比べ高頻度であったものの血液毒性は有意に少なく、忍容性にも優れていた。しかし易感染性の腎不全患者ではS-1クリアランスの低下により5-FUの血中濃度が上昇し、副作用のリスクが高まるため、S-1の開始用量を患者の状態に合わせて決定すべきだと考える。SOX+bevacizumab療法はmFOLFOX6+bevacizumab療法に比べ投与が簡便であり患者への負担も少ない。本試験から得られた治療効果からも本療法はmFOLFOX+bevacizumabに代わるfirst-line治療法となりうるであろう。そして、患者教育、副作用に関する適切な管理、外来での支援体制の確立、易感染性腎不全患者治療の個別化など様々な要素を考慮すれば、本療法の治療効果はさらに改善されるものと期待する。
進行再発大腸癌におけるS-1の役割
mFOLFOX6、CapeOX(XELOX)に分子標的薬を併用することが、切除不能進行・再発大腸癌におけるfirst-line薬物療法の一つとされる。経口薬のS-1とL-OHPを併用するSOX療法に分子標的薬を併用した治療方法と、点滴薬のmFOLFOX6に分子標的薬とを併用した療法との直接比較により、非劣性を証明したことは意義深いものである。
本試験の主要評価項目が通常の非劣性試験のOSではなくPFSであること、またOSの評価においてのcensored caseが多くみられること、増悪の定義が通常のRECISTの判定基準と異なり、ベースラインを基準としたPD判定としていることなどが問題はあるが、今後の追跡によりOSでも非劣性が証明されることに期待が持てる。
わが国で行われた、Second-lineでのS-1を使用したIRIS療法のFOLFIRI療法に対する非劣性を証明したFIRIS試験の成績を加味すると、本邦の切除不能進行・再発大腸癌治療における経口剤のS-1の役割は大きいとみなしてよさそうである。
監訳・コメント:帝京大学ちば総合医療センター 外科 小杉 千弘(講師)
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