監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
K-RAS野生型大腸癌患者のQOL : 第III相ランダム化比較試験CD.20
Ringash J., et al. Cancer, 2014 ; 120 : 181-189
化学療法抵抗性で遠隔転移を有する大腸癌患者の余命は短く、治療目標はQOLをできるだけ維持することにある。CO.17はK-RAS野生型に限定しない大腸癌患者を対象にcetuximab療法とbest supportive care(BSC)単独療法を比較した第III相ランダム化比較試験であるが、BSCに比べcetuximab療法が延命効果にもQOLにも優れ、K-RAS変異状況が抗EGFR抗体の効果を予測するバイオマーカーであることを報告した。
そこで、cetuximabに、VEGFおよびEGFR阻害薬であるbrivanibを併用したらOSがさらに改善するのではないかとの期待から、国際多施設共同第III相ランダム化比較試験CD.20が行われた。今回、その最終解析から主にQOLについて報告する。
対象は、CPT-11またはL-OHPが無効/禁忌の大腸癌患者で、K-RAS野生型、PS 0〜2(ECOG基準)である。患者はcetuximab+brivanib療法(CB群)またはcetuximab+プラセボ療法(CP群)にランダムに割り付け、cetuximabは両群とも初回400mg/m2後、250mg/m2を毎週静注投与した。これに加え、CB群にはbrivanib 800mg/m2を、CP群にはプラセボを毎日経口投与した。
最終解析の主要評価項目はOSであるが、試験を通しての副次評価項目はQOLで、EORTC QLQ-C30の身体機能(PF)および全体的健康感(GHS)スケールに基づいて解析した。QOLの評価はランダム化から2、4、6、8、12、16、24週後の各時点に行った。進行癌患者においては、QOLはその改善より維持が現実的な治療ゴールであると考え、QOLの主要エンドポイントはQOL低下(PFおよびGHSが10点以上悪化)までの期間とし、CP群に比べCB群で延長がみられるとの仮説を立てた。
対象となった患者は750例でCB群376例、CP群374例であった。大半がPS 1、病変個所の中央値は3ヵ所で、肺および/または肝転移が多かった。ランダム化時点は癌の診断から平均31ヵ月経過しており、3 ラインを超える化学療法を受けていた。また患者の約3分の1は放射線療法を受けていた。追跡期間の中央値は18.7ヵ月である。
OS中央値はCB群8.8ヵ月、CP群8.1ヵ月、ハザード比(HR)は0.88(95%CI 0.74-1.03、p=0.12)で有意差はなかった。一方、PFS中央値は5.0ヵ月 vs 3.4ヵ月でCB群が有意に優れていた(HR 0.72、95%CI 0.62-0.84、両側検定p<0.0001)。
QOLのコンプライアンスは全体では差はなかったが、2〜8週ではCP群が少し高く、24週からはCB群が高かった。
ベースラインのQOLスコアは両群に差はなかった。GHSはCB群63点 vs CP群64.4点、PFは77点vs 80点でともに不良であった。症状では疲労(35点 vs 34点)が最も不良であった。
QOL悪化までの期間(中央値)はGHSがCB群1.1ヵ月 vs CP群1.6ヵ月(p=0.02)、PFが1.7ヵ月vs 5.6ヵ月(p<0.0001)で、ともにCB群が有意に短かった。
ベースラインからの全スケールについて点数の変化をみると、全時点でCP群が良好であった。PFの変化は全時点で、GHSは2、4、8、12、16週で有意差がみられた。ほかに2、4、8週における役割機能・認知機能・社会機能の変化もCP群で有意に優れていた。症状では食欲、下痢が全時点で、疲労は24週を除く全時点でCB群の悪化度が大きく、CB群では呼吸困難と疼痛の点数が2週で上昇した。
次にベースラインから10点以上低下した患者を「改善」、10点以上上昇した患者を「悪化」、その他を「変化なし」と分類したところ、悪化率はCP群のほうが低く、PF、認知機能、疲労、悪心・嘔吐、食欲、下痢で両群の有意差がみられた。6週時と8週時におけるPFの悪化率は 31% vs 17%(6週)、30% vs 20%(8週)といずれもCB群が高かったものの、GHSの悪化率に有意差はみられなかった。
医師による報告で少なくとも5%の患者に発生したGrade 3以上の非血液有害事象は、78% vs 53%とCB群で有意に高頻度であった(P<0.05)。とくに疲労、高血圧、発疹、消化管障害の頻度が高かった。医師の報告による副作用と患者自身の報告によるQOL悪化を比較すると、医師の報告における疲労25% vs 11%、呼吸困難8% vs 5%、下痢7% vs 3%、食欲不振5% vs 1%に対し、QOL悪化を報告した患者は疲労54% vs 42%、呼吸困難39% vs 32%、下痢52% vs 29%、食欲不振58% vs 34%と患者の感じるQOL悪化の度合が大きかった。
以上のように、K-RAS野生型の化学療法抵抗性進行大腸癌患者に対するcetuximab療法において、brivanibの上乗せ効果は認められなかった。brivanib が病勢進行を有意に遅延させることは明らかになっているが、それはOSの改善にはつながらず、QOLはむしろcetuximab+brivanib療法で悪化がみられた。新規の緩和的化学療法レジメンを開発する際には患者の身体機能などQOLの改善、維持が果たされているかを重要な調査項目の一つとするべきである。
進行大腸癌への分子標的治療薬のdual-blockadeはいまだ成功せず
本試験は進行大腸癌に対するcetuximabに加えてFGFR、EGFR、VEGFRなどのmulti-kinase inhibitorであるbrivanibの投与によるdual-blockadeの効果をQOLの改善という視点から見たものである。dual-blockadeはHER2陽性乳癌でtrastuzumab/lapatinibあるいはtrastuzumab/pertuzumabの有効性が示されているが、大腸癌治療ではbevacizumabへのcetuximab上乗せは生存に寄与せずむしろPFSが悪化することが報告されている。本試験でもbrivanibの上乗せはPFSを改善したがOSの延長には至らず、QOLに至っては著しく悪化させた。ORRはCB群13.6%、CP群7.2%(p=0.004)と有意に高い腫瘍縮小効果を示したにも関わらず1、CP群のPFSは3.8ヵ月、QOL低下までの期間は5.6ヵ月(PF)と治療効果が身体機能維持につながっているのとは対照的にCB群のPFS 5ヵ月に対してPFの悪化までの期間は1.7ヵ月と治療自体による身体機能の低下を思わせる結果となっている。有害事象(全身倦怠、肝機能異常、呼吸苦)による治療中止がCB群で22%、CP群では3%であったことも見逃せない事実である1。Brivanibは進行肝細胞がんのsorafenibをコントロールアームとした第III相試験でもsorafenibと同等のORRを示したが非劣性を示すことができず、この際にも全身倦怠感などの有害事象が強く出ることが指摘されている2。分子標的治療薬であっても有害事象の支持療法開発が重要であると同時に、QOLの維持が可能な薬物治療こそが生存期間を延長させることを示した報告である。
監訳・コメント:横浜市立大学大学院医学研究科がん総合医科学講座 市川 靖史(教授)
1. Siu LL et al. J Clin Oncol. 2013 Jul 1;31(19):2477-84.
2. Johnson PJ et al. J Clin Oncol. 2013 Oct 1;31(28):3517-24.
GI cancer-net
消化器癌治療の広場