監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
大腸癌の転移パターンは組織学的サブタイプの影響を強く受ける
Hugen N., et al. Ann Oncol., 2014 ; 25 : 651-657
癌の転移部位や転移の頻度には原発部位によって差があることが大規模な解剖試験により知られている。大腸癌では20%くらいまでの患者が診断時すでに遠隔転移を有しており、肝臓、肺、腹膜への転移が最も高頻度にみられる。またいくつかの臨床試験からは、一般的な腺癌(AC)、粘液癌(MC)、印環細胞癌(SRCC)などの組織学的なサブタイプによって大腸癌転移のパターンが異なることが指摘されている。解剖から得られた知見は究極のendpointであるが、腫瘍の組織学的サブタイプ別の特徴は解明されていない。そこで、オランダの大腸癌患者の解剖から、組織学的サブタイプと転移の関連を全国規模で評価する研究を行い、得られた知見が臨床とどのように関係するかを前向きな多施設共同ランダム化比較試験にて解析した。
大腸癌と診断され最終的には解剖に付された5930例について、1991年〜2010年にDutch pathology registry(PALGA)から抽出した。適格基準は、病状に関する情報を得るため、または正確な死因を決定するために家族や主治医の要望を受けて病理学者の手で解剖が施行された症例とした。また解析対象はMC、AC、SRCCに限定した。術後6ヵ月以内にみられた転移は同時性重複癌と判断した。解剖結果と臨床との関連はTotal Mesorectal Excision(TME)試験の患者を対象として調べた。
本解析の対象となったのは5930例中5817例で、ACは4941例(84.9%)、MCは809例(13.9%)、SRCCは67例(1.2%)であった。全例の死亡時の年齢中央値は76歳であった。転移は1679例(28.9%)で認められ、AC群27.6%、MC群33.9%、SRCC群61.2%とSRCC群で有意に多かった(p<0.0001)。転移がみられた患者では、AC群3.2%、MC群1.1%が初回にI期と診断されたが、SRCC群でI期と診断された例はなかった。
組織型別に転移部位をみると、肝臓はAC群73.0%、MC群52.2%、SRCC群31.7%で、AC群において有意に多発していた(p<0.0001)。一方、腹膜播種はMC群とSRCC群でそれぞれ48.2%、51.2%と多くみられたが、AC群では20.1%と低頻度であった(p<0.0001)。遠隔リンパ節転移はAC群19.9%、MC群22.3%に対し、SRCC群では43.9%と多発していた(p=0.001)。肺転移については3群間で差はなかった。心臓、骨、膵臓などへの転移はまれであったが、MC群、AC群に比べてSRCC群では3倍の高頻度でみられた。
次に、原発部位別に転移部位を調べると、肝転移には結腸と直腸による差は認められなかった。結腸原発では腹膜(28.8% vs 16.1%、p<0.0001)、大網(9.1% vs 2.9%、p<0.0001)、卵巣(3.2% vs 1.1%、p=0.019)など腹腔内転移が多く、直腸原発では肺(42.0% vs 30.7%、p<0.0001)、脳(5.0% vs 2.6%、p=0.014)のように腹腔外転移が多かった。この差は主にAC群とMC群でみられたものであるが、どの転移部位についても統計学的有意差はなかった。SRCC群では原発部位による差は認められなかった。
多くの患者は複数の転移を有していた。肝転移が最も高頻度であったAC群では肝転移のみ35%、肝+肺・その他の部位への転移38%(肝転移なし27%)と複数転移は比較的少なかったが、MC群、SRCC群では複数転移が多くみられた。とくにSRCC群では肝転移のみ2%、肝+肺・その他の部位への転移30%(肝転移なし68%)と複数転移が圧倒的に多かった。肺転移については、3群間の差はみられなかった。腹膜転移はAC群では腹膜転移のみ6%、腹膜+その他の部位14%、MC群ではそれぞれ15%、33%、SRCC群では15%、36%と、転移の頻度に差はあったものの、各群内での単独転移と複数転移の比率に差はなかった。
最後に1530例を対象としたTME試験に基づいて、以上の知見と臨床との関連を解析した。TME試験では、追跡期間中央値11.6年間でAC群31.1%、MC群32.7%で転移を生じた。肝転移はAC群(59.6% vs 36.0%、p=0.002)、腹膜転移はMC群(14.0% vs 4.5%、p=0.005)に有意に多発していた。この結果は解剖の解析から得られた知見と一致していたが、その他の部位についてはTME試験では有意差はみられなかった。
以上のように、ACでは肝転移が多く、MCとSRCCでは腹膜播種が、またSRCCでは遠隔リンパ節転移も多くみられ、MCとSRCCでは複数転移が高頻度であるというように組織学的サブタイプによって転移パターンには違いが認められた。さらに原発部位の違いによる転移パターンの差も明らかになった。大腸癌の組織学的サブタイプと原発部位は転移パターンの重要な予測因子であると言え、これらの因子を術前検査に組み込むことによって、追跡期間中の転移の把握に役立てることができるであろう。
全大腸癌症例に占める粘液癌の頻度は、本邦における報告では3〜6.9%であり、オランダにおける頻度3.9%と大きな差はなく、一方、本稿の印環細胞癌の頻度1.2%は、いくつかの本邦報告例を単純集計した頻度0.3%(29例/7664例)と比べると、やや頻度が高い。
本邦においても、分化型腺癌に比べ、粘液癌、印環細胞癌ともにリンパ節転移が多く、腹膜播種が多いこと、また、粘液癌では右側結腸に多く、腫瘍径が大きいこと、印環細胞癌では肝転移は少ないこと、そして総じて予後が不良であることが報告されている。
本稿は1991年−2010年の約20年間、5817例に及ぶ剖検に基づくものであり、組織学的なサブタイプ、あるいは原発部位による転移の傾向が示されている。
ともすれば、肝、肺、リンパ節などの、中〜高分化型腺癌における転移好発部位の画像評価に、重点を置きがちである日常臨床において、原発巣の組織型、部位を意識し、その多様性に則したフォローアップを付加していくことへの動機付けとなりうる報告である。
監訳・コメント:中濃厚生病院 外科 仲田 和彦(消化器外科部長)
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