監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
PEAK試験:KRAS exon 2野生型で未治療、切除不能の遠隔転移を有する大腸癌患者に対するPanitumumab+modified Fluorouracil、Leucovorin、Oxaliplatin(mFOLFOX 6)とBevacizumab+mFOLFOX6を比較した多施設共同第II相無作為化比較試験
Schwartzberg LS., et al. J Clin Oncol, 2014 20;32(21):2240-7
遠隔転移を有する大腸癌ではKRAS exon 2(codon 12, 13)変異がよくみられ、この変異があると抗EGFR療法は無効だと予測される。これ以外にもPanitumumab療法無効の予測因子とされるRAS遺伝子変異があることがわかっている。一方、PRIME試験では拡大RAS解析によってKRAS exon 2、3、4およびNRAS野生型と認められた患者においては、FOLFOX4とPanitumumabの併用療法によりFOLFOX4単独療法に比べOSが5.8ヵ月延長されると報告された。
PEAK試験は、KRAS exon 2野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者の1st-line治療において、modified FOLFOX 6(mFOLFOX 6)にPanitumumabを追加した場合とBevacizumabを追加した場合の有効性と安全性を検討した第II相オープンラベル無作為化比較試験である。
対象は、18歳以上の遠隔転移を有するKRAS exon 2野生型切除不能大腸癌患者(ECOG PS0/1)である。転移に対する化学療法、抗EGFR療法、Bevacizumab投与を受けた患者、無作為化前14日以内に放射線療法を受けた患者、無作為化前52週以内に大腸癌に対する術後補助化学療法を受けた患者は不適格とした。RAS変異についてはすでに中央研究所でKRAS exon 2野生型と認められている標本を用いて拡大RAS解析を行い、KRAS exon 2(codon 12, 13)、 exon 3(codon 59, 61)、exon 4(codon 117, 146)、NRAS exon 2(codon 12, 13)、 exon 3(codon 59, 61)、exon 4(codon 117, 146)の変異対立遺伝子を測定した。
適格患者はmFOLFOX 6+Panitumumab 6mg/kg(P群)またはmFOLFOX 6+Bevacizumab 5mg/kg(B群)に無作為に割り付けた。治療は2週間に1回、病勢進行または忍容しがたい副作用が認められるまで実施した。
2009年4月〜2011年12月に、遠隔転移を有するKRAS exon 2野生型の大腸癌患者285例が登録され、142例はP群に、143例はB群に割り付けられた(ITT集団)。
拡大RAS解析は221例で評価結果を得た。170例はすべてのRASが野生型(全RAS野生型集団:P群88例、B群82例)で、51例はKRAS exon 2以外のいずれかに変異が認められた(その他のRAS変異集団)。
主要評価項目はITT集団のPFS、副次評価項目は奏効率、OS、切除率、安全性で、拡大RAS解析による全RAS野生型集団の各成績も評価した。初回解析のデータカットオフは2012年5月30日であったが、追跡期間を延長し、2013年1月3日をカットオフとして二次解析を行った。
ITT集団のP群 vs B群の主な患者背景は、年齢中央値63歳vs 61歳、男性61% vs 67%、原発巣が結腸/直腸68%/32% vs 64%/36%、転移部位数3以上27% vs 26%で両群同等であった。全RAS野生型集団でもP群とB群に背景因子の差は認められなかった。Dose intensityはPanitumumabが83%、Bevacizumabが91%で、投与コース数の中央値はともに12コースであった。
ITT集団のPFS中央値は初回解析時P群10.9ヵ月 vs B群10.1ヵ月(HR 0.87、95%CI:0.65-1.17、p=0.353)で、有意差はみられなかった。また、二次解析の結果も同様であった。
OSについては、ITT集団で初回解析時に87例が死亡していたが、この時のOSのデータはimmatureであった。二次解析時には130例が死亡しており、OS中央値は34.2ヵ月 vs 24.3ヵ月でP群において有意な延命効果がみられた(HR 0.62、95%CI:0.44-0.89、p=0.009)。
一方、全RAS野生型集団のPFSは、初回解析時13.0ヵ月 vs 9.5ヵ月(HR 0.65、95%CI:0.44-0.96、p=0.029)、二次解析時13.0ヵ月 vs 10.1ヵ月(HR 0.66、95%CI:0.46-0.95、p=0.025)と、どちらもP群で有意な延長が認められた。なお、その他のRAS変異集団ではPFSに有意差はないものの、P群でやや不良であった(HR 1.39、p=0.318)。
全RAS野生型集団の二次解析時のOS中央値は41.3ヵ月 vs 28.9ヵ月で、P群で延長傾向にあった(HR 0.63、95%CI:0.39-1.02、p=0.058)。その他のRAS変異集団ではP群が有意に優れていた(HR 0.41、p=0.02)。
二次解析時、ITT集団では後治療として抗EGFR療法をP群21%、B群38%が、抗VEGF療法を40%、24%が受けていた。全RAS野生型集団では抗EGFR療法が22%、37%、抗VEGF療法が40%、33%、CPT-11/L-OHP/FUを含む化学療法63%、59%とITT集団と同様であったが、その他のRAS変異集団では抗EGFR療法を25%、44%、抗VEGF療法を50%、7%、化学療法を83%、56%が受けており、差がみられた。
安全性については、ITT解析集団の278例(各群139例)のうち、P群91%、B群83%でgrade 3以上の有害事象が発生した。P群では皮膚障害(32% vs 1%)、低Mg血症(6% vs 0%)、B群では高血圧(0% vs 7%)の頻度が高かった。治療期間中、P群5%(7例)、B群6%(9例)で致死的有害事象が発生し、P群の2%(3例)、B群の1%(2例)は治療関連であると判断された。Infusion reactionはgrade 3がP群で2%、B群で5%にみられたが、grade 4以上のinfusion reactionは起こらなかった。全RAS野生型集団、その他のRAS変異集団における有害事象もITT集団と同様であった。
遠隔転移を有するKRAS exon 2野生型大腸癌の1st-line治療の効果をmFOLFOX 6+Panitumumab療法とmFOLFOX 6+Bevacizumab療法とで比較したところ、PFSは初回解析、二次解析とも同等であったが、OSは二次解析で有意に延長していた。全RAS野生型の患者に限定すると、PFS、OSともにBevacizumabに比べPanitumumabの有意な延長効果が認められた。したがって、とくに全RAS野生型の患者においては抗VEGF療法に比べ抗EGFR療法のbenefitが大きいといえよう。なおKRAS exon 2野生型でその他のRASのいずれかに変異がみられる患者でもPanitumumabによるOSの改善が示されたが、これはPanitumumab群で後療法として抗VEGF療法や化学療法を受ける人が多かったことによると考えられる。
KRAS exon 2野生型大腸癌に対する抗EGFR抗体
本試験は抗EGFR抗体と抗VEGF抗体を直接比較した初めての無作為化第II相臨床試験である。ITT集団のPFSは有意差がみられなかったもののOS中央値は34.2ヵ月 vs 24.3ヵ月でP群において有意な延命効果が認められた。気になるのは後治療についてであるが、ITT集団の2次治療移行時期はP群9.3ヵ月vs B群9.1ヵ月であり、全RAS野生型では10.5ヵ月vs 9.7ヵ月であった。KRAS exon 2以外のRAS変異集団では、P群の17%、B群の44%が一次治療で終了している点にも留意が必要である。全RAS野生型においてはPFS・OSともにP群で有意に良好であるが後ろ向きサブグループ解析であり、より多くのbenefitを得るために正式な仮説検定が必要と思われる。
監訳・コメント:福岡大学医学部 消化器外科 吉田 陽一郎(講師)
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