論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

11月
2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

Stage III結腸癌患者に対するOxaliplatin+Fluorouracil+Leucovorin±Cetuximab療法(PETACC-8):第III相オープンラベル無作為化比較試験

Taieb, J., et al, Lancet Oncol, 2014 ; 15(8) : 862-873

 Stage III結腸癌患者においては、5-FUをベースとした術後補助化学療法が適用されるようになった1990年代以降、再発のリスクが低下している。また遠隔転移を有する大腸癌患者の1st-line治療では、標準的な化学療法に抗VEGF/EGFR抗体薬を追加することにより、臨床成績も大きく改善した。またOPUS試験やPRIME試験といった抗EGFR抗体+FOLFOX4の効果はKRAS exon 2野生型の患者に限定されることが明らかにされている。一方で、切除可能なstage III結腸癌患者の術後補助療法を検討したNCCTG N0147試験では抗EGFR抗体の上乗せ効果は認められていない。
 本試験は治癒的切除を受けたstage III結腸癌患者を対象にCetuximabの上乗せ効果を検討した多施設共同第III相オープンラベル無作為化比較試験であり、FOLFOX4とCetuximabの併用療法の有望性を報告した第II相試験1を受けて計画された。今回は中間成績を報告する。
 対象は18〜75歳、KRAS exon 2野生型(2008年6月17日にプロトコルを改訂し、野生型に限定した)、R0切除後28日以内、WHO PS 0または1、余命5年以上の結腸癌患者で、化学療法歴、腹部/骨盤内照射歴、治療開始前28日以内の手術歴は不可とした。
 適格患者はFOLFOX4+Cetuximab療法(併用群)またはFOLFOX4単独療法(単独群)のいずれかに無作為に割り付けられた。Cetuximabは第1週はday 1に400mg/m2(2時間で静注)、2週以降は250mg/m2(1時間で静注)を投与した。治療は1コース2週で、原則として12コース実施した。
 主要評価項目はKRAS exon 2野生型患者のDFS、副次評価項目は治療コンプライアンス、OS、再発およびまたは治療効果の予後予測因子、安全性である。
 2005年12月〜2009年11月に登録された2559例中KRAS exon 2野生型患者は1602例で、うち791例が併用群に、811例が単独群に無作為化された。治療成績の評価はこの1602例について(ITT集団)、また安全性は併用群785例、単独群805例について(安全性集団)評価した。
 ITT集団におけるにおけるデータカットオフは2011年6月30日、追跡期間中央値は3.3年であった。併用群 vs. 単独群の主な患者背景は、男性59% vs. 58%、年齢中央値60.0歳vs. 60.0歳、BRAFに関しては、野生型62% vs. 61%、変異型10% vs. 9%、不明28% vs. 30%、EGFR は49% vs. 50%で過剰発現していた。
 ITT集団の中でプロトコル治療が施行された集団において、併用群におけるCetuximabの投与回数中央値は23回、78%の患者が予定量の80%以上の投与を受けた。また、L-OHP、5-FUについても併用群、単独群とも予定量の80%以上の投与を受けていた。
 ITT集団の3年DFSは併用群75.1% vs. 単独群78.0%(HR=1.05, 95%CI:0.85-1.29, p=0.66)、3年OSは88.3% vs. 90.5%(HR=1.09, 95%CI:0.81-1.47, p=0.56)で、ともに有意差はなかった。サブグループ解析を行ったところ、DFSとOSはKRAS exon2/BRAF野生型例においても併用療法と単独療法による差は認められなかった。また、2008年6月17日のプロトコル改訂前に参加したKRAS exon 2変異例に対する解析でも併用療法と単独療法による差は認められなかった。また、DFSに対しては、EGFR過剰発現の有無の2群で比較しても差は認められなかったが、女性(p=0.023)、右側結腸(p=0.032)では単独群のほうが優れ、pT4およびpT4/N2例では併用群のほうが優れていた(p=0.028)。
 Grade 3/4の血液学的副作用の発生頻度は両群ともほぼ同様であったが、非血液学的副作用は併用群でより高頻度に発生した。主な副作用は下痢(15% vs. 9%)、ざ瘡様皮疹(27% vs. 0.5%)、粘膜炎(8% vs. 1%)、infusion reaction(7% vs. 4%)などで、grade 5の副作用は併用群7例、単独群3例でみられた。死亡は各群1例であった。
 なお、KRAS exon 2変異例でも併用・単独によるDFSの差はなく、安全性のプロフィルも野生型群と同様であった。治療関連死は併用群3例、単独群1例で生じた。
 以上、今回の試験結果では、KRAS exon 2野生型のstage III結腸癌術後補助化学療法におけるCetuximabの上乗せ効果は認められなかった。この結果はOPUS試験やPRIME試験と相反しているだけでなくKRAS exon 2変異例についても両試験とは異なる。すなわち遠隔転移を有する患者を対象としたOPUS試験とPRIME試験(抗EGFR抗体+FOLFOX4療法 vs. FOLFOX4単独療法)はKRAS exon 2変異例の治療成績を悪化させたが、本試験ではFOLFOX4単独療法とCetuximab併用療法に差はなく、治療成績の改善は望めないものの悪化させることはなかった。この知見はNCCTG N0147試験と同様である。標的病変を有する切除不能進進行・再発大腸癌に対する治療と標的病変を有さない術後補助化学療法で、なぜこのような差が生じるのかは不明であるが、微小転移の生物学的な違いによるものではないかと考えられる。なお本試験では、より進行した患者(pT4やpT4+pN2症例)では、抗EGFR抗体を併用した群に有望な成績が得られていることから、今後は本試験や他の術後補助療法の試験から得られる血液/組織標本を用い大規模な共同研究を行い臨床成績の改善につなげることが求められる。

1. Tabemero J., et al. J Clin Oncol, 2007 ; 25(33) : 5225-5232

監訳者コメント

Stage III 結腸癌術後補助化学療法における抗EGFR抗体の上乗せ効果

  本試験は治癒切除後Stage III結腸癌の術後補助化学療法のFOLFOX4に対するCetuximabの上乗せ効果をみた無作為化第III相臨床試験である。KRAS野生型ITT集団だけでなく、KRAS変異型Efficacy population群においても DFS、OSともに有意差は認められなかった。DFSに対するサブグループ解析では、女性、右側結腸癌例ではFOLFOX4単独群が優れ、pT4およびpT4/N2症例では抗EGFR抗体併用群が優れていた。特にpT4/N2症例に対しては、抗EGFR抗体併用群のFOLFOX4単独群に対するハザード比は0.56(95%CI:0.35-0.89)と、サブグループ解析結果ではあるが、Cetuximabの上乗せ効果が示唆されている。すなわち、より再発リスクの高い(標的病変を有する可能性の高い)群に対しては抗EGFR抗体の上乗せ効果が得られる可能性がある。分子標的薬は現在まで、標的病変を有する場合についてのみ、その上乗せ効果を示してきたともいえ、この点においては再現性があるとも考えられる。今後は本試験から得られる血液/組織標本を用いたバイオマーカー解析による補助化学療法における個別化への応用が期待される。

監訳・コメント:岡山大学病院 消化管外科 永坂 岳司(講師)

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