監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
切除不能進行・再発大腸癌に対するFOLFOXIRI+Bevacizumabによる1st-line治療
Loupakis F. et al. NEJM, 2014 ; 371(17) : 1609-1618
切除不能進行・再発大腸癌の1st-line治療ではFOLFOX療法またはFOLFIRI療法のBevacizumabとの併用が広く用いられ、同等の効果を得ている。一方、Bevacizumab導入前はFOLFOXIRI療法がFOLFIRI療法に比べ優れた効果を示していた。FOLFOXIRI療法とBevacizumabの併用については第II相試験が実施され、奏効率77%、PFS中央値13.1ヵ月、OS中央値30.9ヵ月と良好な成績をあげている。有害事象はFOLFOX/FOLFIRI+Bevacizumab療法より高頻度に発生したものの、FOLFOXIRIとFOLFIRIを比較したGONOの第III相試験と同等であった。これらの有望な試験成績を踏まえ、未治療の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象にFOLFOXIRI+Bevacizumab療法とFOLFIRI+Bevacizumab療法を比較する第III相オープンラベル無作為化比較試験(TRIBE)を行った。
対象は18〜75歳、ECOG PS 2以下(70歳以上はPS 0)、組織学的に直腸または結腸の腺癌と認められ、最初の転移が治癒的切除不能と考えられた患者である。再発の前12ヵ月以内にOxaliplatin(L-OHP)を含む術後補助化学療法を受けた患者は除外した。
対象患者はFOLFOXIRI+Bevacizumab(試験群)またはFOLFIRI+Bevacizumab療法(対照群)に無作為に割り付けられた。試験群ではFOLFOXIRIに、対照群ではFOLFIRIにBevacizumab 5mg/kg(30分でi.v.)を加えて14日ごとに最大12コースまで投与した。その後、両群とも維持療法として5-FU/LV + Bevacizumab投与を病勢進行または忍容しがたい副作用がみられるまで継続した。
主要評価項目はPFS、副次評価項目は奏効率、OS、転移部位切除率、安全性である。安全性以外はITT解析とした。
2008年7月〜2011年5月にイタリア国内34施設から508例を登録し、試験群252例(年齢中央値60.5歳、男性59.5%)対照群256例(60.0歳、60.9%)に無作為に割り付けた。データのカットオフは2013年4月26日、追跡期間の中央値は32.2ヵ月である。
両群の主な患者背景に大きな差はなかったが、右結腸の原発癌は試験群のほうが高頻度であった(34.9% vs. 23.8%、p=0.02)。KRAS変異は試験群41.3%、対照群37.5%、BRAF変異はそれぞれ6.3%、4.7%に認められた。
治療実施コース数の中央値は試験群11、対照群12であった。試験群では対照群に比べ治療遅延(16.4% vs. 6.1%、p<0.001)および用量減量(21.4% vs. 8.2%、p<0.001)が高頻度に生じた。病勢進行のために治療中止に至った症例は対照群のほうが多かった(12.8% vs. 20.1%、p=0.03)。維持療法は試験群130例、対照群114例が受けた。
PFSの中央値は試験群12.1ヵ月に対し対照群は9.7ヵ月で、試験群で有意な延長がみられた(HR=0.75,95%CI:0.62-0.90,p=0.003)。PFSのイベントは試験群84.5%、対照群88.3%と対照群で多く発生した。サブグループ解析では、術後補助化学療法歴のある患者のみ対照群が優れていたが(p=0.04)、その他のサブグループにおいては試験群が優位であった。
OSは286例(56.3%)が死亡した時点で解析した。死亡した患者数は試験群131例(52.0%)、対照群155例(60.5%)と対照群が多かった。OS中央値は31.0ヵ月 vs. 25.8ヵ月で有意差はなかったものの試験群が優れている傾向にあった(HR=0.79,95%CI:0.63-1.00,p=0.054)。
PFSとOSの予後不良因子は単変量解析にてKohne index高値、BRAF変異であることがわかった。
奏効率は試験群65.1%(うちCR 4.8%、PR 60.3%)vs. 対照群53.1%(3.1%、50.0%)、SDは24.6% vs. 32.0%、PDは6.3% vs. 10.6%で試験群が優れていた(オッズ比=1.64,95%CI:1.15-2.35,p=0.006)。
転移部位のR0切除率は試験群で15%、対照群で12%と両群に差はなかった。
Grade 3/4の治療関連副作用は、好中球減少(50.0% vs. 20.5%,p<0.001)、下痢(18.8% vs. 10.6%,p=0.01)、口内炎(8.8% vs. 4.3%,p=0.048)、末梢神経障害(5.2% vs. 0%,p<0.001)が試験群で多くみられた。Bevacizumabに関連する副作用の発生頻度については両群間に差はなかった。また重篤な副作用も20.4% vs. 19.7%と両群で同等であった。
死亡のうち試験群92.4%、対照群91.6%は病勢進行によるもので、副作用による死亡はそれぞれ2.4%、1.6%であった。
なお、2nd-line治療は試験群166例、対照群173例が受けた。Oxaliplatin投与は試験群23%、対照群64%が受けた。試験群30%、対照群31%は病勢進行後もBevacizumab投与を継続した。
以上の解析から、切除不能進行・再発大腸癌の1st-line治療では、FOLFOXIRI+Bevacizumab療法はFOLFIRI+Bevacizumab療法に比べ、奏効率、PFSを改善し、OSの改善傾向がみられることがわかった。一方でgrade 3/4の副作用のいくつかの発生頻度は高かったものの、重篤な副作用や死因となる副作用に差はなく、化学療法を強化しても安全性のプロフィルに影響を与えないと思われた。なお、術後補助化学療法歴がある患者ではFOLFOXIRI+Bevacizumab療法の効果がみられなかったことから、これらの患者は本療法に適さないと考えられる。
切除不能大腸癌1st-line治療におけるFOLFOXIRI+Bevacizumabの有用性(TRIBE試験)
本試験はイタリアで実施されたFOLFIRI+Bevacizumabに対するFOLFOXIRI+Bevacizumabの有用性を検証した第III相比較試験である。主要評価項目であるPFS、副次的評価項目の奏効率は有意差をもってFOLFOXIRI+Bevacizumab群が上回った。残念ながらOSは有意差を示せなかったが生存期間を延長する傾向がみられた。一方有害事象に関しては、好中球減少、下痢、口内炎、神経毒性などがFOLFOXIRI+Bevacizumab群で有意に多くみられ、特にgrade 3/4の好中球減少は50.0%であった。FOLFOXIRIは本邦の2014年版大腸癌治療ガイドラインで1st-line治療に推奨されてはいるものの、毒性の強さや後治療選択の困難さなどで普及しているとはいい難いレジメンである。癌腫は異なるが膵癌でのFOLFIRINOXを経験した消化器内科医にとっては、Cytotoxic tripletの治療が未知の世界ではなくなったものの(FOLFIRINOXのgrade3/4の好中球減少は
45.7%)1、FOLFOXIRI+Bevacizumabを行う際は、加えてBevacizumab特有の有害事象(高血圧、血栓塞栓症など)も含めての綿密な患者マネジメントが一層要求されるであろう。本試験の結果を契機に今後FOLFOXIRI+Bevacizumabを実地臨床で導入する可能性がでてきたといえるが、RAS 変異型や特に予後が極端に不良なBRAF変異型の症例、腫瘍量が多い症例、腫瘍切除に移行するべく高いresponseを必要とする症例で、かつPSが良好な集団に対象を絞り込む必要があると思われる。
1. Conroy T et al. N Engl J Med. 2011 ;364(19):1817-25.
監訳・コメント:厚生連高岡病院 消化器内科 小川 浩平(部長)
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