論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

1月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

切除不能進行・再発大腸癌患者の1st-line治療としてのFOLFIRI+Cetuximab vs. FOLFIRI+Bevacizumab:第III相オープンラベル無作為化比較試験(FIRE-3)

Heinemann V., et al. Lancet Oncol., 2014 ; 15 (10) : 1065-1075

 切除不能進行・再発大腸癌の標準的な1st-line治療であるFOLFIRI療法は、Cetuximabとの併用で臨床成績を改善したことがCRYSTAL試験にて報告されている。一方、IFL療法もBevacizumabとの併用により臨床成績の改善をみているが、FOLFIRIとBevacizumabの併用に延命効果があるかどうかはわかっていない。FOLFIRI+CetuximabとFOLFIRI+Bevacizumabのどちらがより有効かを比較した試験もこれまでにないため、この問題を検討する第III相オープンラベル無作為化比較試験を行った。
 対象は18〜75歳、ステージIV、ECOGのPS0-2、余命3ヵ月以上、登録前4週間以内に手術を受けていないドイツおよびオーストリアの施設で治療を受けている結腸/直腸の腺癌患者とした。当初はKRAS変異の有無に関係なく登録していたが、後に、CetuximabはKRAS exon 2(codon 12, 13)変異を有する患者には効果がないという報告を受け、対象はKRAS exon2野生型患者に限定した。
 適格患者はFOLFIRI+Cetuximab療法(C群)またはFOLFIRI+Bevacizumab療法(B群)にランダムに割り付けた。両群とも治療は14日ごと(day 1)に病勢進行または忍容しがたい副作用が認められるまで、あるいはCRに到達して手術可能となるまで続けた。併用療法ではCetuximabを初回400mg/m2、以降は250mg/m2を静注し(毎週)、Bevacizumabは5mg/kgを静注した。
 主要評価項目は主治医の評価による奏効率、副次評価項目はPFS、OS、寛解の程度(治療前と比較した腫瘍径の最大パーセント変化)、肝転移の根治的二次切除率、安全性である(ITT解析)。なお、奏効率、PFS、OSについてはKRAS exon2野生型±その他のRAS変異よるサブグループ解析も行った。
 2007年1月〜2012年9月に592例を登録し、C群297例、B群295例にランダムに割り付けられた(ITT集団)。データカットオフは2013年4月17日、追跡期間中央値はC群33.0ヵ月、B群39.0ヵ月である。C群 vs. B群の年齢中央値は64.0歳 vs. 65.0歳(70歳以上30% vs. 23%)、男性は72% vs. 66%であった。
 奏効率はC群62%に対しB群58%で有意差はなかった(OR=1.18,95%CI 0.85-1.64,p=0.18)が、CR率 は4% vs. 1%でC群が高かった。
 奏効率について、治療開始前以降1回以上の放射線学的検査を受け、3コース以上の治療を受けたC群255例、B群271例についてもper-protocol集団として解析を行ったところ、C群72%、B群63%でC群が有意に優れていた(p=0.017)。
 PFS中央値はC群10.0ヵ月 vs. B群10.3ヵ月と有意差は認められなかった(HR=1.06,95%CI:0.88-1.26,p=0.55)。しかしOS中央値は28.7ヵ月 vs. 25.0ヵ月とC群で有意な延命効果が認められた(HR=0.77,95%CI:0.62-0.96,p=0.017)。OSのサブグループ解析を行ったところ、直腸癌および白血球数8×10e9/Lの患者においてとくにCetuximabの効果がみられた。
 根治的2次切除実施による治療中止はC群12%、B群14%であった。
 安全性についてはいずれの薬剤も既知の有害事象と一致していた。Grade 3以上の有害事象の発生頻度はC群71% 、B群64%と同等で、血液毒性(C群25% vs. B群21%)、皮膚反応(26% vs. 2%)、下痢(11% vs. 14%)が高頻度にみられた。治療関連の有害事象により治療を中止したのは15% vs. 11%と群で多かった。B群では治療期間中に有害事象に関連する死亡が5例認められ、うち2例は治療薬に関連するものと考えられた。
 RASサブグループ解析はC群205例、B群202例で評価可能であった。すべてのRAS野生型は両群とも171例で、C群34例、B群31例にその他の変異が検出された。すべてのRAS野生型群もKRAS exon 2野生型+その他のRAS変異群も患者背景はITT集団と同様であった。
 すべてのRAS野生型群におけるC群 vs. B群の成績をみると、奏効率(65% vs. 60%,OR=1.28,p=0.32)、PFS中央値(10.4ヵ月 vs. 10.2ヵ月,HR=0.93,p=0.54)には有意差はなかった。しかしOS中央値は33.1ヵ月 vs. 25.6ヵ月とC群で有意な延長が認められた(HR=0.70,95%CI:0.53-0.92,p=0.011)。
 一方、KRAS exon 2野生型+その他のRAS変異群については、奏効率38% vs. 58%(OR=0.45,p=0.14)で有意差なし、PFS中央値は6.1ヵ月 vs. 12.2ヵ月(HR=2.22,95%CI:1.28-3.86,p=0.004)でB群が有意に優れ、OSは16.4ヵ月 vs. 20.6ヵ月(HR=1.20,p=0.57)でB群が優れる傾向にあるものの有意差は認められなかった。
 以上のように、切除不能進行・再発KRAS exon2野生型の大腸癌患者に対する1st-line治療ではFOLFIRI とCcetuximabまたはBevacizumabと併用したところ、CetuximabでもBevacizumabでも同等の奏効率が得られた。PFSにも有意差はみられなかったが、OSはCetuximabとの併用で優れていた。とくにすべてのRASが野生型である患者ではCetuximabの効果が顕著に認められた。したがって、すべてのRASが野生型の場合、FOLFIRI+Cetuximabによる1st-line治療がベネフィットをもたらすと考えられる。

監訳者コメント

切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-line FOLFIRI療法の併用はCetuximabかBevacizumabか

 切除不能進行・再発大腸癌の1st-line治療FOLFIRI療法における併用療法としてのCetuximabとBevacizumabを初めて直接比較した第III相試験の結果が報告された。KRAS exon 2野生型に限定し、主要評価項目の奏功率では、両群間で有意な差は認められなかった。副次評価項目のPFSも両群間に有意な差を認めなかったが、OS中央値はCetuximab群ではBevacizumab群より3.7ヵ月し、有意に良好であった。さらに全RAS野生型ではCetuximab群のOS延長効果はより顕著であった。
 一方、CALGB80405試験では、同じく1st-line治療でのFOLFOXまたはFOLFIRIにおいてCetuximabとBevacizumabを直接比較しているが、OSで2群間に有意差が示せない結果となったことより、現時点ではどちらが有用な併用療法かの結論を出すには至っていない。当試験とCALGB80405試験との間では患者背景や1st-line治療の内容の他、2nd-line以降の治療にも相違があると考えられる。全RAS 野生型の1st-line治療については、企業主導型臨床試験としてPARADIGM試験の実施が予定されており、本試験とCALGB試験の相違について、より正確な結論が得られることが期待される。また、今後は、1st line治療のみならず2nd line治療との組み合わせの治療成績での比較試験も待たれる。

監訳・コメント:市立貝塚病院消化器外科 岡野 美穂(副部長)

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