監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
Stage III結腸癌術後補助化学療法におけるCapecitabineあるいはFluorouracilに対するOxaliplatin併用療法の全生存および再発後生存に与える影響:4つの無作為化比較試験の統合解析
Schmoll H-J, et al. Lancet Oncol, 2014 ; 15(13): 1481-1492
Stage III結腸癌の術後補助化学療法における標準治療はフッ化ピリミジン製剤+Oxaliplatin(L-OHP)であるが、L-OHP不適応の患者にはLeucovorin(LV)+Fluorouracil(5-FU)あるいはCapecitabine単剤といった治療も推奨されている。しかし、Capecitabine±L-OHPと5-FU/LV±L-OHPを直接比較した試験は行われていない。そこで、Stage III結腸癌患者に対する術後補助化学療法としてのCapecitabine±L-OHPと5-FU/LV
±L-OHPの有効性と安全性、さらには術後補助化学療法におけるL-OHPの使用が再発後生存に与える影響を評価するため、4つの大規模第III相無作為化比較試験からの患者データをもとに統合解析を行った。
NSABP C-08、XELOXA、X-ACT、AVANTの4試験から、18歳以上、ECOG PS 0/1のstage III結腸癌患者8,734例を抽出した。腫瘍stageはTNM分類で統一した。対象レジメンは、XELOX(Capecitabine+L-OHP)、5-FU/LV、Capecitabine、FOLFOX4、modified FOLFOX6(mFOLFOX6)である。主要評価項目は無病生存期間(DFS)、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)、全生存期間(OS)とし、L-OHPの再発後生存に与える影響も検討した。なおAVANTおよびNSABP C-08試験でBevacizumab投与を受けていた患者は評価から除外した。
8,734例中5-FU/LV±L-OHP群は3,877例(追跡期間中央値44ヵ月)、Capecitabine±L-OHP群は1,942例(74ヵ月)であった。5年DFSは両群とも62.8%で有意差なし(補正後HR=1.02,95%CI:0.93-1.11,p=0.72。未補正HR=1.01,95%CI:0.92-1.10,p=0.86)、5年RFSもCapecitabine±L-OHP群64.6%、5-FU/LV±L-OHP群64.7%で有意差なし(補正後HR=1.02,95%CI:0.93-1.12,p=0.72。未補正HR=1.01,95%CI:0.92-1.11,p=0.86)、5年OSもCapecitabine±L-OHP群73.9%、5-FU/LV±L-OHP群75.2%で有意差は認められなかった(補正後HR=1.04,95%CI:0.93-1.15,p=0.50。未補正HR=1.02,95%CI:0.92-1.14,p=0.65)。
L-OHPとフッ化ピリミジン製剤の相互作用をCox多重回帰分析にて検討したところ、DFS(p=0.17)とRFS(p=0.15)に関しては有意な関連はみられなかったが、OSについては有意な上乗せ効果が認められた(p=0.014)。
次にXELOX群942例(追跡期間中央値80ヵ月)とCapecitabine単独群1,000例(70ヵ月)を比べてみると、DFS(HR=0.76,95%CI:0.66-0.88、Wald test p=0.0003)もRFS(HR=0.75,95%CI:0.65-0.88,p=0.0003)もOS(HR=0.77,95%CI:0.65-0.91,p=0.0025)もXELOX群が有意に優れていた。
Grade 3/4の有害事象発症は5-FU/LV±L-OHP群45%、Capecitabine±L-OHP群36%と前者が高頻度であったが、重篤な有害事象の発症頻度は16% vs. 20%で同等であった。
再発後生存についてXELOX/FOLFOX群(757例、追跡期間中央値42ヵ月)と5-FU/LV群(744例、72ヵ月)とで比較したところ、補正前(HR=0.94,95%CI:0.82-1.07,p=0.33)、補正後(HR=0.92,95%CI:0.81-1.05,p=0.23)とも両群間に有意差はみられなかった。関連因子では年齢70歳未満(vs. 70歳以上、HR=0.70,95%CI:0.60-0.81,P<0.0001)と、N1(vs. N2、HR=0.73,95%CI:0.64-0.83,P<0.0001)が再発後の延命効果に関連していた。
Capecitabine±L-OHP群(659例、追跡期間中央値74ヵ月)vs. 5-FU/LV-OHP群(1,222例、44ヵ月)でも再発後生存成績は同等であった(HR=1.07,95%CI:0.95-1.20,p=0.26)。補正後解析ではやはり年齢70歳未満(vs. 70歳以上、HR=0.72,95%CI:0.63-0.83, p=0.0001)、 N1(vs. N2、HR=0.75,95%CI:0.67-0.84, p=0.0001)の延命効果が優れていた。
以上の解析から、stage III結腸癌患者の術後補助化学療法におけるL-OHP併用療法は、ベースとなるフッ化ピリミジン製剤の種類に関わらず治療成績を改善することが示された。また再発後の生存成績も損なわれなかったことから、Capecitabine+L-OHP療法または5-FU/LV+L-OHP療法がstage III結腸癌患者の術後補助化学療法の標準治療であるというコンセンサスに、新たなエビデンスが追加された。これらの結果は、患者の状態や希望に基づいたより柔軟な治療選択の幅を治療医に提供してくれるものである。
Stage III結腸術後補助化学療法におけるL-OHP併用療法
ーフッ化ピリミジン製剤の種類によらない有効性、再発後生存にも影響なしー
Stage II、III結腸癌の術後補助化学療法におけるL-OHPの上乗せ効果はMOSAIC試験でも確認され、我が国においても標準治療として定着した感があるが、日常診療においては、ベースレジメンの選択やL-OHPの副作用対策、年齢や基礎疾患等の背景を考慮した適格症例の選別、再発後治療への影響等、懸案事項も多い。本解析ではstage III結腸癌に限定し、NSABP C-08、XELOXA、X-ACT、AVANTの4つの大きな第III相試験8,734人から5,819人を対象とした統合解析を行なっている。筆者らの検討項目は大きく以下の2つである。
1. ベースとなるフッ化ピリミジン製剤によってL-OHPの上乗せ効果に差がでるか?
2. 補助化学療法にL-OHPを使用することで、再発後生存に何らかの影響があるか?
ベースとなるフッ化ピリミジン製剤の選択に関しては、ともに標準治療であるXelodaと5-FU/LVの2剤を直接比較する新たな無作為化比較試験行なうことは困難であるが、本解析の結果から、L-OHPの有無にかかわらずDFS、RFS、OSともに両群間で差はなく、L-OHPの併用に関係なく両者の有効性は同等と考えられる結果であった。L-OHPの上乗せ効果に関しては、Cox多重回帰分析において全生存に関する有意の効果が得られており(p=0.014)、さらに注目すべきは、ハザード比がCapecitabine群では0.75(95%CI:0.63-0.88)、5-FU/LV群では0.56(95%CI:0.48-0.65)と後者でより良好であった点である。ただ、両群の直接比較ではDFS、RFS、OSともに有意差はなく、よりよいパートナー選びについての解答は得られていない。効果関連因子の解析では、年齢70歳未満(vs. 70歳以上、p=0.0001)とN1(vs. N2、p=0.0001)が予後良好因子であり、さらにリンパ節に関しては、リンパ節検索個数>12個 が有意に予後良好(vs. 12個以下、p=0.0009)であり、N1 vs. N2 におけるN1の優位性と同様の傾向が傾向が見られ、ハザード比(HR=0.70)もほぼ同じであった、との興味深い指摘があった。安全性に関しては、grade 3/4の有害事象が5-FU/LV群に多く(45% vs. 36%)、好中球減少は5-FU/LV群に、手足症候群はCapecitabine群に多いというプロファイルの違いには注意が必要だが、より重篤な有害事象は両群間で差がない結果であった(16% vs. 20%)。
また、再発後生存に関する検討では、L-OHP併用療法における再発後生存率の低下は認められず、この結果はCapecitabineあるいは5-FU/LV、いずれのフッ化ピリミジン製剤をベースに選んでも変わることはなく、これら補助化学療法の違いが、転移再発癌を治療する際の層別因子とはならないことが示された。
本解析の結果は術後補助化学療法におけるレジメン選択だけでなく、再発後も含めたトータルなstageIII結腸癌化学療法の戦略を考えるうえで興味深いものといえる。
監訳・コメント:京都桂病院消化器センター 外科 間中 大(部長)
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