論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

3月
2015年

監修:東海中央病院 坂本 純一(病院長)

切除不能進行・再発RAS野生型大腸癌患者に対する1st-line治療としてのPanitumumab+mFOLFOX6療法とBevacizumab+mFOLFOX6療法の費用対効果比較解析

Graham CN., et al. EJC, 2014 ; 50(16) : 2791-2801

 Panitumumab+mFOLFOX6療法とBevacizumab+mFOLOFX6療法を比較した第II相PEAK試験では、拡大RAS解析でRAS野生型大腸癌患者に絞り込みを行うとPanitumumabによるPFSの有意な延長を認め、OSの延長効果も示唆されるということが報告された。本研究ではPEAK試験をもとに、Bevacizumabとの比較の中でPanitumumabの費用対効果について解析、報告を行った。
 対象はPEAK試験で1st-line治療としてPanitumumab+mFOLFOX6またはBevacizumab+mFOLFOX6療法を受けた18歳以上、RASKRAS exon 2,3,4,NRAS)野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者とした。解析にはsemi-Markovと呼ばれるシミュレーションモデルを用いた。モデルの分析期間は治療開始から死亡するまでと設定し、シミュレーションのサイクル期間を2週間とした。モデルによる解析に必要な病勢進行と死亡の推移確率(ある状態から別の状態へ移行する確率)はPEAK試験のPFS、OSに基づいた。切除への推移確率もPEAK試験に基づき、根治的切除後の無再発生存期間やOSに関しては他の研究からのデータを参考にした。使用薬剤、治療期間、2次治療実施状況、安全性のデータをPEAK試験から入手し、各薬剤の入手価格、治療コース数、重篤な副作用の発生頻度、2nd-line以降の治療内容、期間、切除計画率、切除成功率などを治療群固有のパラメータとして設定し、諸検査や重篤な有害事象対策にかかる費用等を両群の共通パラメータとして設定した。なお薬剤の入手価格は2013年のFrench Health National Insuranceに基づいた。効用値に関しては1st-line治療、2nd-line治療 、3rd-line治療に関する3つの異なる試験におけるEQ-5Dの回答に基づいて設定した。これらすべてのパラメータをモデルに組み込み、患者の生存年、質調整生存年 (QALY: quality-adjusted life-years)、そして医療費を算出した。
 結果、モデルにより算出された生存年はPanitumumab+mFOLFOX6(P群)が3.58年、Bevacizumab+mFOLFOX6(B)群が2.73年で、QOLで補正した質調整生存年はP群が2.68 QALY、B群が2.05 QALYであった。総費用に占めるモノクローナル抗体薬剤の投与に関する費用は40〜44%ともっとも高く、次が23〜25%のBest supportive careにかかる諸費用であった。PFSと治療期間が長いこと、および薬剤入手価格が高いことから、薬剤関連の総費用はP群のほうが大きかった(42,843ユーロ vs. 29,871ユーロ)。同様に、投薬と化学療法薬(11,336 vs. 9,507ユーロ)、BSCにかかる費用(24,418 vs. 17,140ユーロ)も、生存期間が長いことからP群のほうが大きかった。B群と比較してP群 の生存年と質調整生存年が大きいが、それにかかる費用の増大(増分費用対効果)は、生存年が1年延長するごとに26,918ユーロ、QALYが1増加するごとに36,577ユーロと算出された。一元感度分析を行ったところ、薬剤入手価格、BSCの費用、2次以降の治療にかかる費用がもっとも強力な変数と考えられた。
 支払意思額の閾値を40,000〜60,000ユーロに設定して、確率的感度分析によって10,000シミュレーションから得られたnet monetary benefitはP群が10,211〜64,176ユーロ、B群が9,106〜50,489ユーロであった(Net monetary benefitは効果を金額に換算し、実際のコストを差し引くことで算出される指標で、Net monetary benefitの高い方が、費用対効果があると判断できる)。P群の費用対効果受容曲線(増大費用対効果の支払い閾値内に収まる確率が示されている)によれば54.0%では40,000ユーロ以下に収まり、82.5%は60,000ユーロ以下に収まった。またシミュレーションの97%がPanitumumab+mFOLFOX6療法はBevacizumab+mFOLFOX6療法に比べより有効でより高価、あるいはより有効でより安価であることを示していた。
 なお、臨床試験は、対象患者が必ずしも患者の実態を反映していないこともあるため、B群の患者背景をETNA試験の患者と比較し検証を行っている。ETNA試験はBevacizumab療法のみを受けた切除不能進行・再発大腸癌患者を対象とし、RAS変異状況によって患者選択を行っていないことからフランスの患者の実態を反映していると考えられる。比較の結果、患者背景にはPEAK試験と多少の違いがあったものの、予後予測の観点からみれば大きな差はなく、PEAK試験の患者が(RAS以外の臨床的背景という観点で)フランスにおける大腸癌患者の特徴と一致すると考えられた。 以上のことをまとめると、PEAK試験における切除不能進行・再発RAS野生型大腸癌患者の1st-line治療について費用対効果をsemi-Markovモデルを用いて解析したところ、Panitumumab+mFOLFOX6療法の増大費用対効果(質調整生存年を1上昇させるのにかかる費用)が36,577ユーロであることが示された。Net monetary benefitの結果からは支払意思額を40,000から60,000ユーロと設定した場合に、費用対効果があると考えられた。本解析では、切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-line治療においてPanitumumab+mFOLFOX6療法は支払側からみて受容される治療法であると考えられた。

※一部原文に解釈と注釈を加えているため正確な記述については原文を参照してください。

監訳者コメント

切除不能進行・再発RAS野生型大腸癌患者に対する1st-line治療としてのPanitumumab+mFOLFOX6療法には費用対効果がある

 PEAK試験1ではRAS野生型患者においてPanitumumabによるPFSの有意な延長とOSの延長効果が示唆されたが、本研究ではPanitumumabの効用が費用に見合っているかどうかについて、様々な側面に配慮しつつ検討している。 重要な結果を要約すると

  1. 算出された生存年はPanitumumab+mFOLFOX6(P群)が3.58年、Bevacizumab+mFOLFOX6(B群)が2.73年であった。QOLで補正した質調整生存年はP群が2.68 QALY、B群が2.05 QALYであった。
  2. B群と比較してP群で行われた治療によって質調整生存年を1増加するのに必要な金額は36,577ユーロであった。
  3. Net monetary benefit(効用を金額に換算し、実際のコストを差し引くことで算出される指標で)は支払意思額の閾値(支払い側が、治療による効用に対して支払ってもよいと考える金額、効用を金額に変換するときにも用いる)を40,000から60,000ユーロに設定した場合にP群が10,211〜64,176ユーロ、B群が9,106〜50,489ユーロで、費用対効果がある。

 この研究はPEAK試験の結果をもとに切除不能進行・再発RAS野生型大腸癌患者の治療についての費用対効果を、semi-Markovモデルを用いて調べたところが優れている。ただし、支払意思額の閾値を40,000〜60,000ユーロに設定することが妥当かどうかについては述べられはていない。また、P群とB群の総費用(治療開始から死亡までにかかる費用)はそれぞれ、97,203ユーロと74,440ユーロとなっており非常に高額で、うち40〜44%がmonoclonal antibodyのコストであることも重要な点である。本研究で行われた手法は、様々な治療法に関する費用対効果を導き出すのに有用で、治療方針決定の一助になると考えられる。克服すべき問題点はあるものの、本解析によるとRAS野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-line治療においてPanitumumab+mFOLFOX6療法は支払側からみて受容される治療法であると考えられた。

  1. Schwartzberg LS, et al.: J Clin Oncol. 32(21): 2240-2247, 2014

監訳・コメント:高知大学医学部附属病院 がん治療センター 前田 広道(特任助教)

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