監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
Stage II結腸癌に対する術後補助化学療法の使用とその成績 : high-risk患者 vs. low-risk患者
Kumar A., et al. Cancer, 2015 ; 121(4) : 527-534
結腸癌に対する術後補助化学療法(AC)の効果はMOSAIC試験などで認められているが、benefitを受けるのはstage IIIの患者に限られる。Stage IIの患者においても治療成績は改善傾向にあるものの統計学的有意差には至っていない。ASCOやNCCN、ESMOのガイドラインではstage IIで特定のhigh-risk患者に対する術後補助療法が推奨されているが、根拠となる強固なデータはなく、延命効果については議論がある。またstage II結腸癌患者に関して得られたこれまでの知見は、一般住民を正確には反映しない試験参加者に基づくことから、対象となる全症例ベースでの解析を行い、AC使用の特徴と治療成績をhigh-risk患者とlow-risk患者とで比較した。解析にあたり、著者らは、high-riskのstage II結腸癌患者の相当数が術後補助療法の提案を受け、T4や腸閉塞、穿孔など特定のhigh-risk因子を有する患者で治療効果が顕著であるという仮説を立てた。
British Colombia Cancer Agency(BCCA) のデータから、1999〜2008年に病理学的にstage IIと診断され、治癒的切除後に5-FUまたはCapecitabine±L-OHP投与を受けた結腸癌患者を抽出した。同時性または結腸癌先行例、術前補助療法を受けた患者、腺癌以外の診断を受けた患者は除外した。
High-riskはstage IIで腸閉塞、穿孔、T4、suboptimalなリンパ節標本(<12個)、脈管または神経周囲浸潤、低分化のいずれかがみられるものとし、これらのいずれもがまったくみられないものをlow-riskとした。術後補助化学療法を受けた症例をAC群、受けなかった症例をNAC群とした。
主要評価項目は無再発生存期間(RFS)、死亡率(死因問わず)、新規原発大腸癌診断率、副次評価項目はDSS(結腸癌診断から結腸癌死までの期間)、OSである。
解析対象1,697例のうち1,286例(76%)はhigh-risk、411例(24%)はlow-riskであった。追跡期間の中央値は5.3年である。High-risk患者ではsuboptimalなリンパ節標本が64%、閉塞または穿孔が30%、T4分類が27%、脈管浸潤が23%、低分化が18%にみられた。
High-risk患者373例(29%)、low-risk患者51例(12%)がACを受けた。AC群をNAC群と比べると、high-risk患者では若年(62歳 vs. 72歳、p<0.001)、ECOG PS良好(0/1は47% vs. 33%,p=0.001)、予後不良(穿孔15% vs. 5%,p<0.001 ; T4 46% vs. 19%など)という特徴がみられた。low-risk患者でも若年(57歳vs. 69歳、p<0.001)、ECOG PSは良好(0/1は49% vs. 37%,p=0.09)であった。
OSについて単変量解析を行ったところ、high-risk患者では、AC群はNAC群に比べて有意に優れていた(5年OS 75.3% vs. 69.3%,p<0.001)。しかし、3年RFSは78.5% vs. 80.4%(p=0.92)、5年DSSは79.5% vs. 79.7%(p=0.52)と有意差はみられなかった。low-risk患者ではAC実施の有無にかかわらず3年RFS(84.1% vs. 92.5%,p=0.12)、5年DSS(87.1% vs. 92.0%,p=0.18)、5年OS(82.9% vs. 83.3%,p=0.56)とも同等の成績であった。
多変量Cox回帰モデルを用いた解析では、high-riskのAC群はOSの有意な改善(HR=0.65,95%CI:0.50-0.8,p=0.001)に加え、RFS(HR=0.76,95%CI:0.58-0.99,p=0.05)、DSS(HR=0.73,95%CI:0.53-0.99,p=0.05)にも改善傾向が認められた。
一方、low-riskのAC群ではNAC群に比べRFS(HR=2.18,95%CI:1.00-4.97,p=0.05)もDSS(HR=3.01,95%CI:1.10-8.23,p=0.03)も劣っていた。
予後不良因子に基づくサブグループ解析では、T4の症例のみでAC実施によってOS(HR=0.50,95%CI:0.33-0.77,p=0.002)、RFS(HR=0.63,95%CI:0.42-0.95,p=0.03)、DSS(HR=0.59,95%CI:0.37-0.93,p=0.02)のすべてが有意に改善していた。
次に、high-risk患者の70歳以上を高齢者(624例、49%)、70歳未満(662例、51%)を若年群として年齢別の解析を行った。ACは高齢者85例(14%)、若年者288例(44%)が受けていた。多変量解析の結果、高齢者(HR=0.57,0.38-0.86,p=0.007)、若年者(HR=0.70,95%CI:0.51-0.97,p=0.03)ともに、ACによってOSが改善していたが、RFSとDSSには有意な改善は認められなかった。OS、RFS、DSSと年齢の間に相互関係はなかった。
本解析でみられたように、stage IIのhigh-risk結腸癌患者のうち29%が術後補助化学療法を受けていた。術後補助化学療法の効果は、high-riskの中でもT4分類の腫瘍を有する患者において優れており、OS、RFS、DSSを有意に改善した。一方でその他の予後不良因子(閉塞、穿孔、2つ以上のhigh-risk因子)と術後補助化学療法のbenefitとの関連は認められなかった。ASCO、NCCN、ESMOのガイドラインは、本試験で検討した因子と同じ臨床的・病理学的因子に基づいてhigh-riskとlow-riskを分類しているが、もっと適切な予後予測因子が早急に求められる。現在、結腸癌再発リスクと術後補助化学療法の効果を予測する分子テスト、多重遺伝子解析の開発研究が行われており、今後は様々な因子を組み合わせることによってリスクの層別化が可能になるであろう。
High-risk Stage II結腸癌に対する術後補助化学療法
Stage II結腸癌に対する術後補助化学療法の効果は認められていないが、ASCOやNCCN、ESMOのガイドラインではstage IIで特定のhigh-risk患者に対する術後補助療法が推奨されている。本試験では対象となる全症例ベースでの解析を行い、術後補助化学療法の特徴と治療成績をhigh-risk患者とlow-risk患者とで比較したものである。結果、T4症例でOS、RFS、DSSの改善が見られたが、その他の予後不良因子(閉塞、穿孔、2つ以上のhigh-risk因子)と術後補助化学療法のbenefitとの関連は認められなかった。ガイドラインによってstage IIの再発高危険因子が異なるため、臨床現場では、確立された因子がなく術後補助化学療法の適応の判断に困るという現状がある。今後、stage II結腸癌の適切な予後予測因子(臨床病理学的因子やMSIなどのバイオマーカー)を明らかにするとともに、それに対する術後補助化学療法の上乗せを明らかにしていくことが課題である。現在本邦では、再発危険因子を有するStage II大腸癌に対するUFT/LV療法の臨床的有用性に関する研究(JFMC46-1201)が進行中であり、その結果が待たれるところである。
監訳・コメント:国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院 渡邉 純(外科医長)
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