論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

6月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

大腸癌に対するFluorouracil+Leucovorin+Irrinotecan+Cetuximab療法とRAS変異

Van Cutsem E., et al. J Clin Oncol, 2015 ; 33(7) : 692-700

 切除不能進行・再発大腸癌に対する抗EGFR抗体の上乗せ効果はCRYSTAL試験、OPUS試験、PRIME試験などから報告されているが、その効果はKRAS exon 2野生型患者に限られている。PRIME試験の後ろ向き解析では、KRAS exon 2(codon 12,13)以外のRAS変異がFOLFOX4+Panitumumabの効果にネガティブな影響を与えていることが明らかにされた。
 本研究はCRYSTAL試験のサブグループ解析であり、KRAS exon 2以外のRAS変異を有する大腸癌患者においてFOLFILI+Cetuximab併用療法の有効性をFOLFOLI療法単独と比較した(主要評価項目)。また、すべてのRAS領域で野生型と認められた患者の治療効果についても評価した。
 CRYSTAL試験の対象患者のうちKRAS exon 2野生型と評価された666例に関し、BEAMing法にてKRAS exon 2(codon 12,13)以外の変異(「その他のRAS変異」: KRAS exon 3,4,NRAS exon 2,3,4)があるかどうか測定した。変異型/野生型のカットオフ値は5%とした。
 RAS変異状況は430例で評価可能で、RAS野生型例は367例、KRAS exon 2以外のRAS変異を有する「その他のRAS変異」例は63例(14.7%)に認められた。「その他のRAS変異」とすでにKRAS exon 2(codon 12,13)変異と認められている397例を加えた「何らかのRAS変異 を有する症例は460例となった。「その他のRAS変異」で最も高頻度に認められたのはKRAS exon 4(63例中38.1%)であった。
 RAS/BRAFは422例で評価可能で、46例(10.9%)でBRAF変異が認められ、そのうち1例のみにRAS変異が認められた。315例(74.6%)はRAS/BRAFとも野生型であった。
 患者背景にばらつきはなかったが、RAS変異例のほうがRAS野生型例に比べて術後補助化学療法を受けた率が低かった(14.8% vs. 22.3%)。
 KRAS exon 2野生型666例では、併用療法群のOSのハザード比が0.80(95%CI:0.67-0.95)、PFSのハザード比が0.70(95%CI:0.56-0.87)とOS、PFSとも併用療法が単独療法に比べて有意に優れていた。一方、「その他のRAS変異」群63例ではOS中央値が18.2ヵ月 vs 20.7ヵ月(HR=1.22,95%CI:0.69-2.16)、PFS中央値が7.2ヵ月 vs 6.9ヵ月(HR=0.81,95%CI:0.39-1.67)で、Cetuximabの上乗せ効果はみられなかった。
 「すべてのRAS野生型」群367例ではOS中央値28.4ヵ月 vs. 20.2ヵ月(HR=0.69,95%CI:0.54-0.88)、PFS中央値11.4ヵ月 vs. 8.4ヵ月(HR=0.56,95%CI:0.41-0.76)でCetuximabの上乗せ効果が認められたが、「何らかのRAS変異」群460例ではOS中央値16.4ヵ月 vs. 17.7ヵ月(HR=1.10,95%CI:0.85-1.42)、PFS中央値7.4ヵ月 vs. 7.5ヵ月(HR=1.10,95%CI:0.85-1.42)で上乗せ効果があるともないとも判断できなかった。
 変異型/野生型のカットオフ値を0.1%に下げてみると、5%をカットオフ値としたときに野生型と評価された症例のうち23例がRAS変異型と評価が変わり、RAS野生型は367例から344例、「その他のRAS変異」例は86例となった。RAS野生型群ではカットオフ値0.1%でも5%の場合と同様Cetuximabの上乗せ効果が認められ、「その他のRAS変異」例では上乗せ効果がやや改善した。また「その他のRAS変異」例についてカットオフ値を20%、10%、5%、1%、0.1%とさまざまに設定して奏効率、OS、PFSをみたところ、カットオフ値を高く設定するほどCetuximabへの抵抗性が強くなった。
 Grade 3/4の有害事象はKRASRAS変異状況による違いはみられなかった。また、高頻度に発生した有害事象で予想以外のものはなかった。
 以上のように、切除不能進行・再発大腸癌の1st-line治療で、RAS野生型患者のFOLFIRI+Cetuximabの有意な効果が認められた。一方で、「その他のRAS変異」を有する患者ではCetuximabの上乗せ効果は認められなかった。しかし、「その他のRAS変異」例は少数であることから、「その他のRAS変異 がネガティブな予後予測因子と断定することはできなかった。また、「その他のRAS変異」にKRAS exon 2変異を合わせた「何らかのRAS変異」例についてもCetuximabの上乗せ効果が認められるとも認められないとも判断できなかった。しかし、RAS野生型患者のCetuximabの上乗せ効果を考えると、抗EGFR療法を行う際には、最もbenefitを受ける患者を評価すべくKRASおよびNRASのすべての変異を検査する必要があるだろう。

監訳者コメント

KRASNRAS変異がある患者にCetuximabの上乗せ効果は期待できない

  本論文は、FOLFIRI+Cetuximab併用療法とFOLFIRI単独療法をCRYSTAL試験のサブグループで比較検討したものである。すべてのRAS野生型(どのRAS変異もない)、KRAS exon2野生型の患者においては、OS、PFSのいずれにおいても併用療法が単独療法より優れていた。一方で、KRAS exon 2以外の変異(「その他のRAS変異」)のある患者では、OS、PFSともにCetuximabの上乗せ効果はなかった。このことから、FOLFIRI+Cetuximab併用療法を1st-lineで用いる場合は、現行の測定系により抽出されるKRAS exon 2野生型の患者群から、一定頻度存在するその他のRAS変異の患者群を治療対象から外すことが肝要であろう。本論文においても、抗EGFR療法を行う際はKRASNRASのすべての変異を検査すべきであると結論している。切除不能再発大腸癌の治療においては、今後も患者QOLと治療効果のベストバランスを目指して、Cetuximab併用療法の最も効果的な対象を見極める研究が続くことになる。

監訳・コメント:北九州市立八幡病院 伊藤 重彦(副院長) 

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