論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

12月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

切除不能・再発大腸癌患者の1st-line治療としてのFOLFOXIRI+Bevacizumab vs. FOLFIRI+Bevacizumab : 第III相オープンラベルTRIBE試験のOS最新結果および分子レベルでのサブグループ解析

Cremolini C, et al. Lancet Oncol, 2015 ; 16(13) : 1306-1315

 TRIBE試験では、切除不能・再発大腸癌に対する1st-line治療について、FOLFOXIRI+Bevacizumab(Bev)療法のPFSおよび奏効率はFOLFIRI+Bevacizumab療法と比較して良好であったと報告されているが、一方でOSについては明確な結果は出なかった。近年、OSにかわりPFSを有効なendpointとしてきたものの、FOLFOXIRI+Bev療法が他の標準的な1st-line治療の中でどのような位置を占めるのか正しく把握するにはOSをendpointとする必要がある。また、RAS変異とBRAF変異の予後予測における役割は確立されており、これに基づいて患者をサブグループに分けることは、試験の結果を適確に解釈するうえで重要である。そこで、TRIBE試験の副次評価項目であるOSについての追加解析とRAS変異・BRAF変異状態による治療効果について解析した。
 対象は18〜75歳(70歳まではECOG PS 2以下、71歳以上はPS 0)、組織学的に結腸/直腸の腺癌と診断され、切除不能な転移を有する患者である。転移に対する治療歴は不適格としたが、L-OHPを含む術後補助化学療法歴は再発前12ヵ月以内に完了していれば適格とした。
 対象患者はFOLFIRI+Bev療法(1群)またはFOLFOXIRI+Bev療法(2群)に無作為に割り付けた。治療は14日ごとに繰り返し、最長12コースまで続けた。その後、両群に維持療法として5-FU、Leucovorin、Bevを病勢進行または忍容不能の有害事象がみられるまで投与した。原発巣または転移巣から採取した組織標本についてKRAS codon 12、13、61およびBRAF codon 600変異をパイロシークエンス法にて解析した。変異が認められない場合はMassARRAYにて追加解析した。
 主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、分子的サブグループの奏効率、2次切除率、安全性である。
 2008年7月から2011年5月に登録された508例を1群256例、2群252例に無作為化した。データカットオフは2014年7月、追跡期間の中央値は48.1ヵ月である。
 全例の74%(1群78%、2群69%)が死亡した。OS中央値は1群25.8ヵ月、2群29.8ヵ月で、2群で有意な延長が認められた(HR=0.80,95%CI:0.65-0.98,p=0.03)。病勢進行は全例の92%(1群263例、2群232例)にみられた。PFSの中央値は1群9.7ヵ月、2群12.3ヵ月(HR=0.77,95%CI:0.65-0.93、p=0.006)であった。
 2nd-line治療は1群、2群とも76%が受けた。L-OHPベースの2nd-line治療を受けたのは1群67%、2群29%、CPT-11ベースは31%、63%で、病勢進行後もBev投与を受けたのは31%、32%であった。
 KRASBRAF変異は391例で評価可能で、KRAS変異は198例、BRAF変異は28例に認められた。KRASBRAF野生型の評価可能131例について拡大解析を行った結果、BRAF変異型群は28例と変わらず(1群12例、2群16例)、RAS変異型群は236例(1群119例、2群117例)、RAS/BRAF野生型群は93例(1群45例、2群48例)となった。以下に、これらの症例に関する解析結果を示す。
 追跡期間中にRAS/BRAF野生型群の60例(1群32例、2群28例)、RAS変異型群の181例(1群93例、2群88例)、BRAF変異型群の25例(1群11例、2群14例)が死亡した。1群・2群を合せたOS中央値はRAS/BRAF野生型群37.1ヵ月、RAS変異型群25.6ヵ月(HR=1.49)、BRAF変異型群13.4ヵ月(HR 2.79、p<0.0001:likelihood ratio test)であった。病勢進行は野生型群の84例(1群41例、2群43例)、RAS変異群の219例(1群110例、2群109例)、BRAF変異群では全例にみられた。PFS中央値はRAS/BRAF野生型群12.8ヵ月、RAS変異群10.9ヵ月(HR=1.23)、BRAF変異群7.0ヵ月(HR=2.27,p=0.002 : likelihood ratio test)であった。
 遺伝子変異別サブグループ解析では、RAS/BRAF野生型群に比べBRAF変異群はOS(HR=2.24,95%CI:1.32-3.81,p=0.003)もPFS(HR=1.88,95%CI:1.14-3.09,p=0.013)も有意に不良であったが、RAS変異群はOS(HR= 1.30,95%CI:0.94-1.79,p=0.11)、PFS (HR=1.16,95%CI:0.88-1.53,p=0.30)ともに有意差は認められなかった。
 OS中央値は、RAS/BRAF野生型群では1群33.5ヵ月 vs. 2群41.7ヵ月(HR=0.77)、RAS変異型群は23.9ヵ月vs. 27.3ヵ月(HR=0.88)、BRAF変異型群は10.7ヵ月 vs. 19.0ヵ月(HR=0.54)で、どのサブグループにおいてもOS の予測能力に関してRAS/BRAF変異状況による差はなく(Pinteracton=0.52)、PFSの予測能力についても同様であった(Pinteraction=0.68)。安全性のプロフィルもRAS/BRAF変異状況による有意差はなかった。
 以上の解析結果に示されるように、切除不能・再発大腸癌の1st-line治療においてFOLFOXIRI+Bev療法はFOLFIRI+Bev療法に比べOSを改善した。遺伝子変異状況別のサブグループ解析ではBRAF変異型群はRAS/BRAF野生型群に比べOSが有意に不良であったものの、FOLFOXIRI+Bev療法のOSに関する優位性の傾向はすべてのサブグループで認められた。

監訳者コメント

1st-line治療としてのFOLFOXIRI+ Bev療法によりOS延長

 TRIBE試験の主要評価項目であるPFSにおいては、FOLFOXIRI+Bev療法が標準治療であるFOLFIRI+Bev療法と比較して優越性が示されたことは既に報告されている。今回アップデートした結果が報告され、最も重要なエンドポイントとしてのOSに関してもFOLFOXIRI+Bev療法の優越性が示され、ガイドラインにも記載される重要なレジメンであると思われる。遺伝子レベルの予後解析ではRAS/BRAF野生型群に比べ、RAS変異型群、BRAF変異型群の順に予後不良で、特にBRAF変異型群はOS、PFS共に有意に不良であることが示された。FOLFOXIRI+Bev療法はこれらどの遺伝子変異型群でもFOLFIRI+Bev療法よりOSが優る傾向が示されたことから、どのような症例においても有効性が期待できるレジメンである。特にBRAF変異型群ではOS中央値でFOLFOXIRI+Bev療法がFOLFIRI+Bev療法より8.3ヵ月(HR=0.54)も優ることから、現時点で有効な薬剤がないBRAF変異型群ではFOLFOXIRI+Bev療法は特に期待されるレジメンであると考える。

監訳・コメント:岐阜大学医学部 腫瘍外科 髙橋 孝夫(講師)

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