虎の巻 編集会議 大腸癌化学療法編
第2回 FOLFOX/FOLFIRIの巻
2. 実地臨床で注意すべき副作用

佐藤 次に、副作用の話題に移ります。実地臨床で気をつけたい副作用にはどんなものがありますか。

西村 FOLFOXでは神経毒性と消化器症状、好中球減少ですね。神経毒性のgradingはなかなか難しいので、外来化学療法室の看護師に細かくヒアリングしてもらい、その報告をもとにL-OHP中止の判断をします。

佐藤 自分から訴えずに我慢してしまう患者さんもいますからね。私の患者さんに神経内科医の方がいらして、しびれの実体験について詳しくお聞きする機会がありました。その先生によりますとL-OHPのしびれには急性期と慢性期の性質の異なる2種類のしびれがあり、その違いをはっきり分けて自覚できるというのです。冷たいものに触れてビリッとするのは急性期のしびれで、投与を中止すれば消失する。しかし、慢性期のしびれは蓄積性で、2年経っても治らないといいます。ですから、2種類のしびれを明確に区別して評価することが、L-OHPの中止を判断する重要なポイントです。
  しびれは客観的な数値で示せないため、なかなか評価しにくいのですが、患者さんは「ボタンがかけにくい」「猫の手のようだ」「足の裏が厚ぼったい」など、いろいろな表現をされます。先生方が注意されているポイントはありますか。

加藤 当院では、現在、がん認定看護師がL-OHPの神経毒性に関する試験を行っています。硬さの異なるプラスチックの棒を指先で順に触れてもらい、grade 2の神経障害をさらに細かく分類しようというものです。まだ結果は出ておりませんが、試験を行っている看護師によると、「順番に触っていって、棒のあるところがわからなくなったら危ない」というので、そのような場合は早い段階で中止しています。末梢神経障害にどのようなプロファイルのものがあるのか細かく見ていくことは、今後、重要になってくると思います。

吉野 私も、通院治療センターで長時間患者さんに接している看護師から、しびれのエピソードなどを教えてもらいます。しびれはこちらから介入しないと具体化しにくい副作用なので、診察時に「新聞をめくれますか」「ボタンがかけられますか」などとお尋ねしています。ただ、患者さんのなかには、治療を中止されることを心配して隠している方もいらっしゃるので、よく観察するようにしています。例えば、脱ぎ着しやすい洋服を着るようになったり、女性だったら、眉毛を描くのが下手になったり。L-OHPで効果が出ていて軽いしびれのある方には、「しびれが強くなってから中止しても、しびれが治るのに時間がかかるので、一度5-FU単剤にして、治ったらまたL-OHPを導入すればいい」と説明して、L-OHPをいったん中止する勇気をもっていただくようにしています。

佐藤 FOLFOXのもう1つの重要な有害事象として、アレルギー反応がありますが、どのように対処されていますか。

小松 ステロイド薬は前投与されているので、アレルギー反応の発現後に投与しても効かないことが多いです。ですから、投与速度を遅くしたり、症状によっては中止するしかないかと思っています。抗ヒスタミン薬などを使っても、治まらないような印象があります。

 プラチナ系薬剤のアレルギーは蓄積毒性を契機に起こるとされており、7〜8コース目ぐらいになると生じやすくなります。ですから、外来化学療法センターの看護師はそれを念頭に置いて、アレルギーに対する諸薬剤の準備などを心がけています。また、抗ヒスタミン薬で治まるようなgrade 1〜2程度の軽い発疹でも、その後1回、2回と続けると大きなショックを起こすことがあるので、そのような徴候が現れたら要注意だと思います。

佐藤 アレルギー反応は多くの先生が経験されていると思いますが、その1つ手前の投与時に何らかの予兆となる変化を認めたという経験はありますか。

小松 首の辺りのかゆみや発赤などですね。その次の回の投与は怖いです。

久保田 L-OHPは、ちょっとしたエピソードがあった次の回に大ショックを起こすことが多いと聞いているので、気をつけたほうがいいですね。

佐藤 それでは、FOLFIRIではどんな副作用がありますか。

斎藤 下痢などの消化器毒性と脱毛、全身倦怠感ですね。先ほどのお話でもありましたが、一番大切なのは、あらかじめ「こういう副作用が出る可能性がありますよ」ときちんと説明して、患者さんに理解していただくことですね。そうすれば、副作用が出てもいたずらに不安に思うことはないですし、むしろ「先生が言ったとおりになった」といって、信頼してくれるようになります。

佐藤 全身倦怠感は対処に苦慮することが多いのですが、よい方法はありませんか。

 全身倦怠感への対処は難しいですね。投与した週は家でぐったりしていることが多く、体重も2〜3kg減ってしまい、翌週に回復するという患者さんが多いようです。そのような吐き気とだるさがある患者さんには、デキサメタゾンを4日間ほど経口投与すると軽減されることがあります。また、投与中や投与直後に腸蠕動の亢進や発汗などのコリン作動性反応が起こることもあるため、そのような場合は予防的に硫酸アトロピンやブスコパンなどの薬剤を使用したりします。

吉野 FOLFIRIの副作用が強い患者さんには、GISCAD試験で行われた2ヵ月投与・2ヵ月休薬を繰り返す方法3) をお勧めしています。「この投与法でも、通常の方法と同等の治療効果が得られている」と成績をお示しして、休みながらでも続けるようにお話しします。

小松 吉野先生のおっしゃるとおり、倦怠感の強い患者さんには、GISCAD試験の方法は非常にいいですね。吐き気止めや下痢止めはあっても、倦怠感止めはありませんから。私は投与期間を2ヵ月と限定せず、1ヵ月でも2ヵ月でもよしとしています。

佐藤 倦怠感の強い患者さんに対して無理強いして治療を継続すると、患者さんは「もう嫌だ」という気持ちになってしまいます。そのような場合は、途中でいったん休止して、ご本人がやる気になったときにもう1回行うのはよい方法ですね。

 
   
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