分子標的薬剤とinternational study

瀧内:分子標的薬剤のbevacizumabやcetuximabは現状では日本で使えませんが、現在日本でも臨床試験が行われていますね。

朴:我々の施設ではcetuximabのphase I が終わり、phase II を開始するところです。

大津:BevacizumabもLV/5-FUとの併用によるphase I の登録が終わり、phase II をLV/5-FUとの併用で継続するか、それとも他のregimenと併用するのか検討中です。

瀧内:その他の薬剤の開発状況はどうでしょうか。

朴:皆さんご存じと思いますが、PTK/ZKは、最終的には蓋を開けてみないとわからないのですが、非常に灰色な結果だったそうです。その他SU-11248が開発中です。今回分子標的薬の研究について感じたのですが、欧米ではSWOGやCNBGなどの研究グループが、bevacizumabとcetuximabは同時に投与するほうがよいのか、クロスオーバーするほうがよいのかという治療戦略についてしっかり検討しています。欧米は役割分担が、企業の役割と承認試験と、本当に現場でどのように使ったらよいかということについてまできっちり研究して臨床試験を組んでいます。日本も見習わなければと感じています。

大津:先日NCIでお話を聞いてきましたけれども、アメリカはNCIが全てスポンサーとなってかなりの承認申請試験を進めています。日本では適用拡大も全て企業がやらなければなりませんが、海外は1つ大きな承認が通れば、後の細かいところは研究者主導の承認申請試験として進んで行きます。

瀧内:ちょうど昨年の座談会で欧米と日本との間の格差が大きいとのご発言があり、大津先生からも、将来的にはinternational trialに参画していくことが我々の1つの大きな目標だというご意見をいただいたと思います。今後日本から参画していくべきtrialというのは、申請のためのtrialですか。それともinvestigators trialでしょうか。

大津:各医師の属する施設や立場によってそれぞれ違うと思います。我々は開発を中心にやらなければならない立場にいますので、どちらかといえば申請試験に参画していくべきだろうと思っています。もちろん、将来的にはアメリカのさまざまなstudy groupとコラボレーションしてやっていきたいと思っています。ただ胃癌、大腸癌については、今までのように海外のphase III が終わってから日本でphase I が始まるということはなくなってきていますので、遅れはかなり解消されていくのではないかと思っています。

瀧内:昨年の座談会のときは非常に絶望的な現状と思いましたが、この1年でだいぶ差が埋まったと考えてよろしいですか。

朴:去年は5周遅れだったのが、今は3周遅れで背中が見えたという感じでしょうか。

大津:治験とセットで考えると、FOLFOX/bevacizumab、FOLFIRI/cetuximabという併用パターンができますので、そうすると今年の終わりから来年ぐらいには、治験実施施設では欧米のpracticeと変わらないレベルになるかと思います。

Adjuvant療法

瀧内:今回のL-OHPの承認でadjuvant療法に関するコメントがありまして、特にMOSAIC trialでは有効性・安全性がまだ確立されていないという記載になっていたと思います。実はIFLのstudyが全くのnegativeな結果に終わりましたので、今後oxaliplatin based regimenにかかる期待感も大きいと思いますが、adjuvant療法に関して、何かご意見はありませんか。

藤井:日本では経口剤がadjuvant療法として一般的に使われていますが、それもUFT止まりです。Adjuvant療法の試験は、症例集積が2年、follow-upが5年、解析が1年と、合計8年かかります。そうすると、結果が出た時にはその薬剤は既にこの世の中にないということが起こり得ます。Adjuvant療法をした方がいいというきちっとした成績が出れば、そのとき最強の化学療法剤をadjuvant療法のinductionなりに使って、その後に維持療法をするという方法がいいのではと思っています。結果が出るのは何年先になるかわからないとなると、その時点では一般的にadjuvant療法はできなくなります。

大津:我々内科医の多くは海外のエビデンスをそのまま受け入れています。International studyに参画するというのも、世界のエビデンスをつくる一翼を担いたいと思っているからです。藤井先生に外科医としての見解をお伺いしたいのですが、adjuvant studyに関して海外のpositiveなエビデンスは日本でそのままstandardと認めるのか。それとも海外は別という考えでいかれるのでしょうか。

藤井:日本が欧米と決定的に違うのは「外科医の腕がいい」の一言に尽きますね。海外で有意差の出た試験を日本で追試しても有意差が出ません。例えば直腸癌に関していえば、日本はradiationをしないですね。それでも海外のradiation実施とほぼ同等の成績が出ています。

大津:現在、結腸癌ではJCOGがLV/5-FU vs LV/UFTを評価しています。その試験のコントロールはLV/5-FUという考えですし、しかも対象はステージIII 全体ですよね。一応practiceとしてはIIIbを対象にしていますが、日本の成績がよいといったときに、海外はステージIII がスタンダードだということを日本も受け入れて、III 全部で考えるのか、その辺りのコンセンサスは得られているのでしょうか。

藤井:きちんとしたデータはありませんが、我々外科医の感覚としてステージIII はやろうということです。今はむしろII をどのように治療するかが焦点であり、海外へ行ってもII をどのように治療するかという話が必ず出てきます。ただそのエビデンスを得るためにrandomized studyを組むとなると、時間がかかって効率が悪いということです。結果が得られるのが7年先、8年先になるとそれはあまり現実的ではありません。

大津:ある意味、現在のように次々と新しい薬剤が開発される時代に、日本だけで臨床試験を実施しても、どうしても遅れてしまいます。

藤井:我々はAsian studyを考えているのですが、これがまた結構難しいのです。例えばdocetaxelをTS-1と併用する場合、日本では40mg/m2が毒性を抑えるためのぎりぎりの上限量です。ところが韓国でphase I 、II をやると、50mg/m2、60mg/m2といってしまいます。理由はわかりませんが隣の国でさえ違うのです。International studyは、用法、用量が異なるとstudyとして成立しなくなりますので、そこをどうやって統一していくかが大きな問題です。

瀧内:外科医はinternational studyには積極的に取り組みづらいということでしょうか。

藤井:そうですね。やるとすれば、日本だけの全国studyにします。

瀧内:それでも十分な症例数は得られると思いますか?

藤井:そのためには、臨床医にアピールできるプロトコールを示して、どのようなエビデンスを求めたいのかを積極的に言わないとだめですが、制約の多いstudyになってしまうと逆に参加できなくなってしまうと思いますので難しいところです。

瀧内:今後は対象患者や使用薬剤を充分検討していただいて、価値のある術後補助化学療法のtrialを日本で、そしてinternational trialとして、計画・実施していただきたいですね。

肝動注

瀧内:肝動注の領域でもinternational studyは難しいのでしょうか。

荒井:技術レベルが全く違うので、international studyは当面ないでしょう。大切なのは、肝動注を実施してきた医師にとっては、少なくとも手技の点から言えば、FOLFIRI、FOLFOXは決して難しい治療法ではないという点です。標準的治療というのは言い換えればminimum requirementですから、よほど特殊な例を除き、まずエビデンスが確立したFOLFIRI、FOLFOXを実施すべきであって、それがfailした時に肝転移が問題なら、ここが本当に肝動注の出番なのだと思います。日本には肝動注をできる医師がたくさんいるわけですから、そういう場面でこそ、堂々と肝動注をすればよいし、実際に、そういう場面は少なくないと思います。

瀧内:今回のL-OHPの承認を受けても、現時点では肝動注の位置づけは大きく変わらないということですね。

荒井:変わらないと思います。

瀧内:そうしますと、現状ではmetastatic diseaseでsystemic chemotherapyの分野のみが、欧米と同様の臨床試験が可能だという理解ですね。日本と欧米は手術の質も違うし、肝動注の質も違うということで、他の治療法については難しいと。

瀧内:本日は、3月のL-OHP承認を受けまして、承認後の現況も含めて先生方にお話をいただきました。昨年の座談会で朴先生が5周遅れの状態とご発言があったのが、この1年で3周遅れに改善したということで、来年にはほぼ1週遅れぐらいにその差が縮まればいいなという淡い期待感も出てきました。本当に先生方のご努力でここまでこれたと思いますし、今後も是非先生方が引き続きリーダーシップを取っていただいて、日本の大腸癌治療の向上に向けて努力していただけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。

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