日本において何がfirst lineなのか、second lineなのか
瀧内:日本におきましてもL-OHP、CPT-11、5-FUと、keyになるtoxic
agentがようやく3種類出揃ったわけです。そうするとどれがfirst line regimenで、どれをsecond lineにするのかということだと思いますが、大津先生のご意見はいかがでしょう。
大津:海外のエビデンスとしてはTournigand studyがあり、FOLFIRI
かFOLFOXという方向性ですので、我々も基本的にはそのどちらかということで考えております。海外ではbevacizumabがスタンダードになりつつあり、アメリカではfirst lineとしてFOLFOX/bevacizumab併用が一般化しつつありますが、日本の現状では、FOLFOX かFOLFIRI という話になると思います。
瀧内:FOLFIRI とFOLFOXはどちらも同等というお考えですね。
大津:エビデンス的には効果は同等だと思います。FOLFOXに関しては我々の施設に導入してから日が浅いのですが、L-OHPとCPT-11とではどちらかというとL-OHPの方が使いやすいという印象です。
瀧内:それはfirst lineで使われたのですか。
大津:はい。しかし、ヨーロッパではどちらかといえばFOLFIRI
をfirst lineに選ぶ傾向があるようです。
瀧内:それはtoxicityの点からですね。
大津:その通りです。ただ、FOLFOXの4と6とでは4の方がL-OHPの投与量が少ないので、患者さんが受け入れやすいのは多分FOLFOX 4のほうではないかという印象はありますね。
瀧内:どちらをfirst lineにするかに関して、朴先生はどのようにお考えですか。
朴:エビデンスとしては大津先生が言われたとおりだと思います。我々の病院では現在FOLFIRI
をfirst lineとして統一しています。その理由は、1つめは国内でもFOLFORI についてphase I / II を行いましたので、日本国内において現時点でFOLFIRI
の方が信頼度は少し高いこと、2つめはFOLFOXからFOLFIRI に切り替えた後もL-OHPによる神経毒性は残るので、毒性の残る期間は短いほうがいいからFOLFIRI
firstの方がよいというstudyがあること、3つめは患者さんの状態が悪くなってからCPT-11を使用するのは難しいからです。つまり状態のいいうちにCPT-11を使って後からL-OHPを使う方が、総合的にみるとやりやすいと考えています。
瀧内:Medical oncologistの間でも少し意見が分かれるようですが、藤井先生はどう思われますか。
藤井:エビデンスの面からは、まずFOLFIRI を実施し、次にFOLFOXという順番でよいと思います。例えば最初にTS-1、その後TS-1/CPT-11、それで効かなくなったらFOLFIRI、それも無効になってきたらLV/UFTというふうに、そうすると4段階の薬の使い分けができるわけです。また、CPT-11に関しては、将来的に経口剤との組み合わせも考えなければいけないと思います。
瀧内:経口剤の組み合わせに関しては、安全性ならびに有効性がどうか検討が必要ですね。
藤井:FOLFOXは日本での経験が少なく、安全性や有効性がまだよくわかっていない状態ですから、現段階ではfirst
lineにFOLFIRI、second lineにFOLFOXがよいと思います。実際に患者さんを治療する場合、日本では経口剤も使いますので、どこかで経口剤が入ってくるのではと思います。ところがFOLFIRI
を最初に実施してしまうと、その後TS-1を実施してもLV/UFTを実施してもあまり反応してくれません。
瀧内:荒井先生はいかがお考えですか。
荒井:これまではFOLFIRIで無効になると次の治療選択肢がないという悲惨な状況でしたので、L-OHPが承認されて、もう1つ救いができたというのが正直なところだと思います。現状のエビデンスからすればどちらが先でもいいと思いますが、大腸癌の患者さんでは病状の進行に伴い腸管の通過障害が発生しやすいという点を考慮すべきだと思います。すなわち、期を失するとCPT-11が使えない訳で、この点では制約のより大きい薬剤を、使えるうちに使っておく、というのが重要な点だと思います。この点からは、FOLFIRIをfirst
lineにすべきと思います。
瀧内:毒性の点でFOLFIRI を採りたいということですね。
荒井:そうです。腸管の通過障害が出て使えなくなってしまうというリスクは無視できませんから。
瀧内:Tournigand studyを見ると両者に差はないと思いますので、どちらをfirst
lineとするかは医師の感触によるところが結構大きいというのが私の感想です。さて、外科医はbolus LV/5-FU regimenであるRPMI
も結構実施していると思いますが、今回のL-OHPの承認によってbolusからinfusional LV/5-FUに流れが大きくシフトしたと思います。そうなると、日本においてRPMI の位置づけはどうなるのでしょうか。
荒井:First lineに置いておく根拠はすでにないと思います。今はまだRPMIを実施している医師も結構多いと思いますが、エビデンスに基づいて考えれば、FOLFORI、FOLFOX以降のthird
lineの選択肢として以外には、RPMIを選択する根拠はないと思います。
瀧内:朴先生のご意見はいかがでしょうか。
朴:切除不能や再発大腸癌に対しては難しいでしょう。ただ、現在IFLでコントロールできている患者さんをFOLFIRI に切り替えることはしません。Adjuvant療法としては、まだ使っています。
瀧内:大津先生はいかがでしょうか。
大津:現在、我々の施設では、RPMI を導入する患者さんは今は非常に少ないですけれども、選択肢としてはまだ残しております。NCCNのガイドラインでもintensiveなchemotherapyをできない人へのregimenとして推奨されていますので、決して切り捨ててよい治療法というわけではないと思います。
瀧内:藤井先生はいかがですか。
藤井:我々の施設では、元々経口剤が多く、bolus投与は全く実施していないに近い状況です。
経口剤の位置づけは 〜併用療法も含めて〜
瀧内:外科医は、LV/5-FUを経口剤に置き換えて治療されることも多いと思いますが、L-OHPが登場してくると経口剤の位置づけは非常に難しくなるのではと私自身は思っています。大津先生はどのようにお考えですか。
大津:我々の施設では、FOLFIRI、FOLFOXをfirst lineに位置づけています。経口剤をfirst lineで使う場合は、高齢の方、PSが悪い方、あるいは副作用の強い治療を好まない方などが対象になります。Third line以降に経口薬を使う場合もありますが、残念ながらFOLFIRI regimenの無効例に使ってもほとんど効果は得られていません。しかし、ある程度エビデンスが整ってくれば経口剤+CPT-11かL-OHPがfirst lineになる可能性はあると思います。
瀧内:First lineで使う場合は、現状は高齢者とか、そういった特殊なpopulationに使われているということですね。Third lineでは効果は期待できないかもしれないけれども、1つの選択肢として位置づけられると思いますが、朴先生も同じお考えですか。
朴:そうですね。僕は経口剤に関しては今もthird lineで使っています。あとPSが悪い方や高齢の方に対しては、治療法として2剤併用、経口剤、無治療の3種類を説明します。我々の施設で検討したところ、IFL無効例におけるTS-1の奏効率が約10%位でした。FOLFIRI 無効例に対する奏効率についても今後検討しなければと思っています。
瀧内:外科医の立場としてはできるだけ早く経口剤を組み合わせたいお考えですか。
藤井:効果が同じであれば希望する患者さんもいるかと思いますが、TS-1やUFTに関してはCPT-11やL-OHPとの併用データが全く出ていません。FOLFOX、FOLFIRI と比べたときの経口剤のベネフィットは十分に明らかになっているとはいえませんね。
瀧内:いずれにしても今後まだまだ検討の余地があるというところですね。
大津:我々の施設に紹介される患者さんには、意外と経口剤がfirst lineという方が結構多いですね。
荒井:それは事実だと思います。というのは、頻度は少ないとはいえ経口剤で実際に効く患者さんもいるわけですから、先に経口剤を試してみて、効かなかったらportを挿入してinfusional
regimenに移行すればいいと考える現場の医師は少なくないようです。勿論、エビデンスに基づいた話ではありませんが、別にFOLFIRI、FOLFOXを否定するつもりがなくても、先により患者さんにとって楽な経口剤で始めるというスタンスが、一般の臨床現場では結構根強いのではないでしょうか。
朴:エビデンスの順番でthird lineに何もないところなので、苦しまぎれにTS-1やUFTを使っているのが現状ですから。First lineに経口剤を持っていくのにはまだまだ時間がかかるという気がします。
瀧内:経口剤の位置づけは今後難しくなると思います。経口剤を組み入れた日本独自の戦略として、今後どのような展開が考えられますか。
大津:ご承知のとおり、世界で一番エビデンスを持っている経口剤はcapecitabineで、将来的に標準薬になる可能性がありますが、それに比べるとLV/UFTはphase III が2本ありますが、十分なエビデンスがありません。TS-1はphase II までしか行われておらず、日本でしか使われていません。日本から独自にエビデンスを発信していくとすればTS-1だと思いますが、将来的にTS-1が大腸癌治療薬として日本においても残っていくためには、FOLFOXあるいはXELOXなどとの比較試験をやる必要がありますね。
瀧内:Capecitabine以外の経口剤を用いるregimen、例えばTEGAFOX、TEGAFIRI、SOXの治療成績を、日本人を対象に検討する必要がありますね。
藤井:TEGAFOX、TEGAFIRIについてはDuillardから出ています。日本はSOX(TS-1 + L-OHP)とSIRIUS(TS-1 + CPT-11)のどちらかをやらなければいけないと思います。SIRIUSに関しては、市川度先生(埼玉医科大学消化器外科助教授)がよいデータを出していますが、まだTS-1の投与期間が統一されていませんので、いずれ協議をしなければならないと思います。