研究者主導型臨床試験(IIT)


瀧内:次に、研究者主導型臨床試験(Investigator Initiated Trials:IIT)の話題に移ります。日本では、新薬の承認が遅れているのでIITを実施しなければなりません。そこで室先生、最近のIITの現状を聞かせてください。

室:大腸癌領域ではIITはあまり普及していません。日本の医師はオリジナリティを好む傾向があり、各地域、各大学レベルのサンプルサイズの小さな試験が多いことが問題です。この状況を変えなければいけません。まず、欧米諸国にならってグローバルなエビデンスを受け入れ、それから意義のある戦略的なオリジナル試験を行うべきだと私は思います。

瀧内:Köhne先生、EORTCやAIOなどのスタディグループの現状を教えてください。

Köhne:EUは2004年8月に、患者の安全性を高める目的で臨床試験の実施における新指針を出しましたが、それにより運営上、財政上の負担増となったのです。そのため、IITは支援してくれるスポンサーがいなければ不可能です。臨床試験の費用を支払う独立機関がないため、製薬会社と綿密に話し合わなければなりません。治療に関する学術的な疑問・課題が何でも研究できるわけではないのです。それでも、我々は重要な問題を検討する国際間共同多施設臨床試験を実施しており、通常は製薬会社がスポンサーになっています。AIOとEORTCは小規模のランダム化第II相試験しか行えなくなりました。

大津:それは本当に大問題ですね。癌化学療法に関するIIT試験は減ってきていると思います。臨床試験を行うための必要条件は増えており、質の高さを保つにはそれだけ費用がかかります。大規模な国際間共同ランダム化試験が行えるのは大手の製薬会社に限られます。多くのエビデンスが製薬会社のリードでつくられるので、我々はIITで大きな力をもたなければならないのですが……。日本には、EORTCと同じように政府の資金援助を受けているJCOGという研究グループがありますが、研究者の多くは承認済みの薬よりも新薬に興味があり、新薬の臨床試験は製薬会社の主導で行われていますので、非常に難しい状況です。

わが国大腸癌化学療法の将来展望

瀧内:日本のみならず、ヨーロッパにおいてもIITを行うのが困難な状況になってきたということですね。最後に大津先生、日本における大腸癌化学療法の将来展望をお聞かせください。

大津:これまでの“drug lag”が解消されて欧米に追いつき、2〜3年以内にbevacizumab、cetuximab、panitumumabといった分子標的治療薬が使えるようになると思います。有効性に関しては日本人と欧米人で差がないと思うので、海外で得られたエビデンスを日本人に当てはめるべきです。我々は、新薬開発において国際間共同臨床試験を実施する予定で、それによって新薬承認における時間のずれが解消するものと期待しています。近い将来、細胞傷害性抗癌剤の数は減少し、分子標的治療薬が増えると思います。

Köhne:全く同感です。現在の化学療法はプラトーに達したと思います。抗癌剤に特有の毒性がない新薬をすべての人が望んでいます。別の毒性はあるかもしれませんが、化学療法と併用することができます。それが今後の開発の方向性だと思います。もう1つは治療の個別化、つまり必要のない薬剤の投与を避けるため個々の患者に適した治療法を選択するという方向性ですが、実現するまでには相当量の作業が必要になると思われます。

瀧内:Köhne先生から日本の腫瘍内科医に、メッセージをお願いします。

Köhne:私が最初に来日したときは、腫瘍内科医には1人も会わず、お会いしたのは外科医ばかりでしたが、ここ数年の日本の癌薬物療法の進歩には驚かされます。もはや、日本の先生方にアドバイスすることなどありません。社会の高齢化に伴い、また治療の進歩により癌患者の生存期間が延長したことで、癌患者は今後ますます多くなると思います。化学療法は今、劇的な進歩を遂げている最中であり、それは癌専門医によって臨床に反映されなければなりません。

瀧内:どうもありがとうございました。本日はKöhne先生ならびに日本のオピニオン・リーダーの先生方のお話を通して、日本およびヨーロッパの大腸癌化学療法をめぐる現状がとてもよく理解できました。大変有意義な時間を過ごすことができました。本当にありがとうございました。

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