各施設における抗体医薬の位置づけ
瀧内:2008年7月、cetuximabが「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対する適応を取得、同年9月に発売され半年が経過しました。本日はcetuximabの使用経験と現状での位置づけ、さらには今後の方向性について、さまざまな角度からお話をうかがいたいと思います。
まず、先行の抗体医薬としてbevacizumabがありますが、先生方の施設におけるbevacizumabとcetuximabの位置づけをお聞かせいただけますか。
永田:現時点では、cetuximabは1st-lineとしての有効性と安全性が確立していませんので、bevacizumab不応例に使用しています。
植竹:1st-lineにbevacizumab、2nd-lineでもBeyond PD*でbevacizumabを使います。cetuximabは、3rd-line以降でイリノテカン(CPT-11)耐性となった症例に対して、CPT-11との併用で使います。
山口:私も基本的に1st-lineはbevacizumab+FOLFOX、2nd-lineはbevacizumab+FOLFIRI、そして3rd-lineにcetuximab+CPT-11と考えています。
佐藤:当院ではcetuximabは3rd-lineでレジメン登録されているので、1st-lineはbevacizumab+FOLFIRIあるいはFOLFOX、2nd-lineはそれに交差するレジメン、3rd-lineではcetuximabです。
渡邉:私も1st-lineがbevacizumab+FOLFOXで、2nd-lineはBeyond PDでFOLFIRIなどとbevacizumabを使い、3rd-lineでcetuximab+CPT-11というパターンが多いです。
瀧内:想像以上に、bevacizumabはBeyond PDで使われているのですね。現時点でのcetuximabの位置づけは、各施設とも3rd-lineということで一致していることがわかりました。
Cetuximabの主要臨床試験から2nd-lineを考える
瀧内:では、ここからは先生方にcetuximabの主な臨床試験についてご紹介いただきながら、新たな治療戦略について考えていきましょう。
永田:BOND試験1)は、CPT-11耐性のEGFR陽性転移性結腸・直腸癌患者における2nd-lineとして、cetuximab単独とcetuximab+CPT-11を比較した第II相試験です。cetuximab単独群の奏効率が10.8%であったのに対し、CPT-11併用群では22.9%。無増悪期間(Time to Progression)中央値はそれぞれ1.5ヵ月と4.1ヵ月、disease control rate(CR+PR+SD)も32.4%と55.5%で、併用群において優れた成績が得られました。ただ、全生存期間(OS)は6.9ヵ月と8.6ヵ月であり、有意差はみられませんでした。これには、cetuximab単独群においてcetuximabが不応になった場合、後治療にCPT-11を加えてもよいという試験デザインが関係しています。
瀧内:この結果から、CPT-11が耐性になった症例には、CPT-11とcetuximabの併用が有用だといえると思います。では、その他の試験はいかがでしょうか。
植竹:NCIC CTG CO.17試験2)は3rd-lineにおけるcetuximab単剤と best supportive care を比較しており、私の敬愛する腫瘍内科医の先生の言葉をお借りすれば“そもそも毒か、薬か”という試験でしたが、cetuximab群で大幅な無増悪生存期間(PFS)とOSの延長が得られ、“薬”であることが証明されました。
また、オキサリプラチン(L-OHP)ベースの治療に耐性となった症例に対する2nd-line でのcetuximab+CPT-11とCPT-11単独を比較したEPIC試験3)でも、奏効率とPFSでは有意差が認められましたが、一次エンドポイントのOSでは有意差がみられず、その理由として後治療でのクロスオーバーが多かったことが挙げられています。
これらの試験の成績から、cetuximabは2nd-line、3rd-lineのいずれかでCPT-11と併用すると、患者さんにメリットがあるといえると思います。
瀧内:先生方のご施設ではcetuximabの位置づけを3rd-lineとされているというお話でしたが、EPIC試験ではPFSがCPT-11単独群2.6ヵ月、cetuximab併用群4.0ヵ月と明確な上乗せ効果が示されています(p<0.0001)。そのため、ある患者層においては2nd-lineという位置づけもあり得ると思うのですが、いかがでしょうか。
佐藤:分子標的治療薬の1st-lineと3rd-lineにおける有用性は明確になりつつあるのですが、2nd-lineは未だ議論の余地があり、何とも言えないところです。cetuximab投与がよい症例や、分子標的治療薬を追加しないほうがよい症例、あるいはBeyond PDでbevacizumabを続けたほうがよい症例など、さまざまです。例えば、大学病院では1st-line、2nd-lineの治療を他施設で終えてから来る患者さんもいます。そのなかには、1st-lineでbevacizumabですら使っていない症例も含まれます。そうした症例1つ1つに対応していくと、2nd-lineはいろいろなパターンが出てきます。
瀧内:ケース・バイ・ケースということですね。
佐藤:ええ。例えば、1st-lineでbevacizumab+FOLFIRIを行い、CPT-11耐性になった場合は、cetuximab+CPT-11も選択肢の1つになりますし、基礎疾患のためにbevacizumabが使いにくい場合も、cetuximabが積極的に使用されることは十分にあり得ます。
瀧内:Bevacizumabが適応とならない症例は、早期からcetuximabを使って分子標的治療薬の恩恵を受けるという考え方もありますね。例えば、1st-lineのbevacizumab+FOLFOXであまり効果が得られず、「PFSが半年以内」と考えられる腫瘍の増殖スピードが速い症例などはcetuximabのよい適応になると思います。
佐藤:そうですね。1st-lineで効果が実感できる症例には、Beyond PDの概念を適用しますが、効果がまったく得られない症例に対してはcetuximab+FOLFIRIあるいはcetuximab+CPT-11のように、治療を一新したいですね。
瀧内:山口先生は、どのような症例に対して2nd-lineのcetuximab投与を考慮しますか。
山口:腫瘍の増殖スピードが速い症例、symptomaticな症例、それから2nd-lineでも切除可能に持ち込めそうな症例でしょうか。
瀧内:KRAS statusによる2nd-lineの選択についてはいかがでしょうか。
山口:ESMOで報告されているEPIC試験のKRAS status別の解析4)は、患者数が少なすぎて明確な差が出なかったので、安易に2nd-lineに導入すべきではないと考えています。
3rd-lineへの移行率を高めるために
瀧内:私は、3rd-lineに移行できない患者のなかにも、cetuximab適応のよいポピュレーションが一部あるのではないかと思います。EPIC試験での3rd-line移行率は60%前後でしたが、実臨床では、どの程度の患者さんが3rd-lineへ移行していますか。
山口:当院では、80〜85%の患者さんが3rd-lineへ移行します。
植竹:ラインを「L-OHPが入って1つ」「CPT-11が入って1つ」と数えた場合は50%程度。UFT/LVから始めた症例やPSが悪かった症例も含めると70%程度ですね。
瀧内:先生方のご施設では、高い割合で3rd-lineに移行するということですね。ただ、本日お集まりの先生方は抗癌剤治療に精通された方ばかりですから、全国平均はもう少し低い割合だと推察されます。
山口:「3rd-lineに移行できない」という先生方の話を聞くと、画像検査の間隔が開きすぎている場合が多いように思います。当院ではおおよそ2ヵ月に1回は画像で評価しながら治療しますが、画像検査の間隔が3〜4ヵ月に1回の施設や、symptomaticになって改めてレジメンを変える先生もおられるようです。レジメンの切り替え時を画像で評価しないと、3rd-lineまで到達するのは難しいのではないかと感じています。
2nd-lineへのcetuximab導入を考える前に、まずは、実臨床において適切な間隔で画像評価を行った上で、日本の臨床成績がどのように変わるのかを見る必要があるのではないでしょうか。
瀧内:画像検査については、2ヵ月間隔の実施は難しい施設もあるかもしれませんが、最低でも3ヵ月間隔で行ってほしいですね。