瀧内:今回は、内科と外科のエキスパートにお集まりいただき、「進行再発大腸癌治療における内服薬の組み込み」と題し、FOLFOX派とXELOX派に分かれてプロコンを展開してまいりたいと思います。最初にそれぞれの派から、エビデンスに基づいたプレゼンテーションをしていただきます。

仁科:FOLFOXは、1996年ごろより、フランスをはじめとする多数の第III相試験によって、その有効性が立証されています。FOLFOXとXELOXを比較した第III相試験では、有効性に関するXELOXの非劣性が示されていますが1)-3)、2008年にJournal of Clinical Oncology(JCO)に発表されたArkenauらによる3,494例のメタ解析4)では、FOLFOXを中心とした5-FU/LV+oxaliplatin(L-OHP)レジメンの奏効率が有意に優っていることが報告されました。このメタ解析ではPFSやOS に有意差はありませんでしたが、多数例のメタ解析で奏効率に有意差が認められたことは重要と考えます(図1)。
また、2009年のASCOで発表された経口フッ化ピリミジンと静注5-FUを比較したメタ解析5)では、capecitabineを用いたレジメンに比べ、持続静注5-FUレジメンにおいてOSが有意に良好でした。以上のことから、FOLFOX派としては、有効性の面でFOLFOXが優っていることを強調したいと思います。
一方、副作用の面ではFOLFOX、XELOXそれぞれに特徴があります。FOLFOXの最大の副作用は好中球減少で、前出のメタ解析でもcapecitabineを用いたレジメンに比べて明らかに高率に発現しています4)。また、複数の第III相試験において、発熱性好中球減少症(febrile neutropenia; FN)が3〜4%ほど報告されていますが、日常臨床で好中球減少が問題となる症例は稀です。Grade 3〜4の好中球減少も経験しますが、患者さんに「風邪に気をつけてください」と注意を促す程度で、治療の延期や減量などの措置で十分に対処でき、QOLの低下に直結することは少ないと思います。それに対し、XELOXのcapecitabineによる手足症候群は、Grade 2でもQOLに影響します。下痢に関してはさほど変わらない印象がありますが、欧米の第III相試験では、capecitabineレジメンにおいてGrade 3以上の下痢が10数%〜20%ほど報告されており1)-3)、やはりFOLFOXのほうが頻度は少ないと思います。
江見:FOLFOXは日本では2005年から使われているため、医師が使い慣れているという利点があります。手術をしながら外来で進行再発癌の治療をしている外科医にとっては、慣れている治療が一番です。また、切除不能癌を手術に持ち込むことを念頭にしたconversion therapyを考慮すると、FOLFOXには多くのデータがあり、有効性が確かで使い慣れたFOLFOXと分子標的治療薬の併用療法を選択したいところです。

山ア:先ほど仁科先生が示されたArkenauらのメタ解析4)では、確かにXELOXの奏効率はFOLFOXに少し劣ります。しかし、患者さんの多くが求めているのは生存期間であり、生存期間についてはFOLFOXとほとんど変わりがありません。したがって、効果に関するXELOXの非劣性は立証済みと認識しています。
Palliative chemotherapyとして考えたときには、利便性は重要です。XELOXではシュアフューザーやポンプを使用する必要がなく、またポートの留置も原則不要となるため、患者さんにとってはメリットが非常に大きいと思います。また、ポートには合併症の可能性もあります。当院では 670例にFOLFOX、FOLFIRI用のポート造設を行いましたが、その約1割にポート関連のトラブルが生じています。これらのトラブルは軽度のものが多く治療の継続にはほとんど問題はありませんでしたが、経口薬に変えることでこうしたトラブルを確実に避けられるのは大きなメリットだと思います。
安全性に関しては、capecitabineは手足症候群の頻度が高いのですが、手足症候群は減量や支持療法によって十分に管理可能です。また、術後補助化学療法としてcapecitabineを使った経験では、手足症候群を嫌って5-FU/LVを選択される患者さんは稀で、簡便性を重視してcapecitabineを選ばれる方が多数でした。
下痢もFOLFOXより発現頻度は高いと報告されていますが、重篤な下痢の頻度は少なく、通常の支持薬などで対応可能と考えます。また、capecitabineの適切な減量によっても管理しやすくなります。TREE-1試験におけるXELOX(CapeOx)レジメンでは、下痢が多く認められましたが、capecitabineを減量したTREE-2試験では、下痢の頻度が減少しています6)。
橋:岐阜大学では、主に外科医が化学療法を行っています。外来化学療法室のベッド数が少なく、より多くの患者さんを治療するために努力しているところです。現在FOLFOXからXELOXへの移行を進めていますが、XELOXへの移行により、患者さんにも、外来化学療法室のスタッフにも、また外科医にとってもメリットがあります。まず、患者さんは2週間に1回の受診だったのが、3週間に1回で済みます。また、外来で使用する薬剤や点滴の時間が減り、外来化学療法室の運営にも余裕が出てきます。さらにポート造設が不要であり、ポートに伴う合併症も回避できます。
当院では、ポート関連の合併症が約13%に認められており、ピンチオフやポート周囲の血栓症なども経験しています。今後、bevacizumabなどを使うことを考えると、ポートは入れないに越したことはありません。
また、手足症候群は確かにありますが、術後補助化学療法でのcapecitabine投与の経験では比較的軽度のものが多く、コントロール可能です。FOLFOXと効果が同等であれば、今後は利便性が高く、QOLに優れたXELOXが増えていくと思っています。
・複数のメタ解析により、奏効率はFOLFOXのほうが優れていると報告されている。
・日本では2005年よりFOLFOXを導入しており、医師やスタッフも使い慣れている。
・肝切除の可能性を考えると、化学療法後の肝切除に対する有用性が確立されたFOLFOXが優位である。
・好中球減少はXELOXよりも多いが、QOL低下に直結するケースは少ない。
・手足症候群の発現頻度はXELOXよりも低い。
・XELOXに比べて下痢の頻度が低い。
・Arkenauらのメタ解析
4)ではXELOXの奏効率はFOLFOXに少し劣るが、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)はほぼ同等であり、有効性についてのXELOXの非劣性は立証済みである。
・ポート/ポンプが不要で通院回数も減るため、患者、医師、コメディカル(外来化学療法室のスタッフ、薬剤師)の三者にとって利便性が高い。
・術後補助化学療法でのcapecitabineの使用経験から、手足症候群や下痢は、支持療法や減量によって十分に管理可能である。