消化器癌治療の広場

第13回座談会 Pros and Consシリーズ BBP (Bevacizumab beyond progression) は是か非か 2010年11月22日 新横浜プリンスホテルにて

Presentation

大村:大腸癌治療においては、切除不能進行再発大腸癌に対する抗体製剤の有用性が明らかにされています。特に抗VEGF抗体Bevacizumabは、1st-lineから開発が進められた経緯もあり、1st-lineにおける化学療法併用のデータが数多く集積されています。
 そうしたなかで、2008年にGrotheyらによる大規模観察研究BRiTEにおいて、BBP (Bevacizumab beyond progression; 初回増悪確認後のBevacizumab継続投与) の有用性が報告されました1)。ただし、BRiTEは観察研究であり、エビデンスレベルとしては高いものではありません。そこで今回は、BBP肯定派と否定派に分かれてディスカッションをしたいと思います。

A:Oxaliplatin必要派

吉田:BRiTEは観察研究ではありますが、BBP群の全生存期間 (overall survival: OS) 中央値は31.8ヵ月1, 2) と非常に興味深い結果が示されています(図1)。また、ベースラインの患者背景(表1)をみると、2nd-lineにBBP以外の化学療法を行った群 (非BBP群) とBBP群では、PSおよび1st-lineの奏効率、細胞毒性抗癌剤3剤の使用率などに大きな差はなかったにもかかわらず、PD後の2nd-line以降のOSは非BBP群が9.5ヵ月、BBP群では19.2ヵ月と、約2倍の差が開いています。このOSの大きな差こそが、BBPの有用性であると考えます。
 多変量解析においても、非BBP群に対するBBP群のハザード比が0.49と非常に良好であったのをはじめ、ほとんどの因子においてBBP群が良好でした。以上より、BBPはかなり期待のもてる治療法であると考えています。
 また、ASCO 2010では、前向き研究であるARIESの結果が報告されました3, 4)。ARIESでは、2nd-lineでBevacizumabと化学療法を併用した大腸癌患者を追跡しています。1st-lineでBevacizumabを投与された群と投与されなかった群の2nd-lineにおける無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS) は、各々7.7ヵ月、7.9ヵ月であり、1st-lineでのBevacizumab投与の有無にかかわらず、2nd-lineにおけるBevacizumabの効果は同等であったことが報告されています3)。このことから、1st-lineでBevacizumabを使用した症例においても、2nd-lineでのBevacizumabの投与が有用であることがうかがえます。
 さらにARIESでは、1st-lineでBevacizumabを投与しPDに至った症例を対象に、BRiTEと同様の検討を行っています。初回PDから2ヵ月後の2nd-line以降のOSは、非BBP群の7.5ヵ月に対しBBP群では14.1ヵ月4)と、やはり2倍近い差がみられます(図3)
 BRiTE、ARIESともに観察研究であり、BBPはあくまで仮説ではありますが、2つの観察研究において再現性が認められたということは、非常に期待のできる治療法ではないかと思います。

L-OHP不要派

松本:エビデンスは、常に無作為化された研究に基づいています。無作為化比較試験 (randomized controlled trial: RCT) 以上にエビデンスレベルが高いものがあるとすれば、それはメタアナリシスぐらいであり、現時点ではBBPに関するエビデンスは存在しないといえます。
 BBPのベネフィットとしてはOSおよびPFSの延長が挙げられますが、一方でそのリスクとして、高血圧や蛋白尿、出血など、従来の化学療法では考えられなかった毒性の問題があり、また二次的には費用対効果の問題も無視できません。BBPは日本の大腸癌治療ガイドライン5)、米国のNCCNガイドライン6) のいずれにおいても推奨されておらず、現時点でBBPを行うことはガイドラインに則った治療とは言えません。
 BRiTEの最大の問題点は、初回PD後に無作為化されず、主治医の裁量によってBBPの有無が決められていることです。BBP群のOSが31.8ヵ月1, 2) というデータのみが独り歩きしていますが、このKaplan-Meier (図1) には無作為化されていないという落とし穴があることを念頭に置いて、データを理解しなければなりません。
 また、2010年のASCOで報告されたARIESでは、BRiTE を再現するようなデータが示されました4) (図3)。本試験はBRiTEとは異なり、前向きのコホート研究ですが、やはり無作為化はされていません。どちらも観察研究であり、症例選択時にバイアスがかかりやすいのが問題です。BBP群として、Bevacizumabの長期投与が可能な症例――特に、合併症のない症例やPSのよい症例、進行のスピードが遅い症例などが選択される可能性が高いため、良好な成績が得られるのは当然と考えます。
 BRiTE、ARIESともに多変量解析を行っていますが、交絡因子を完全に消すことは統計学的にも不可能と思われます。初回のPD時点における症例のバラつきが明確にされていないことも大きな問題です。
 以上より、現在行われているAIO 0504 (ML18147) 試験7) とiBET (SWOG/NCCTG S0600) 試験8) の2つのRCTの結果が明らかになるまでは、我々はBBPの結論に言及することはできないと考えます (図4)

BBP肯定派
BRiTEでは、BBP群のOSが31.8ヵ月、初回PD後の2nd-line以降のOSは19.2ヵ月であり、非常に優れた成績が得られている1, 2)
BRiTEの多変量解析では、ほとんどの因子でBBP群が良好であった1, 2)
ARIESでは、1st-lineでのBevacizumab使用の有無に関わらず、2nd-lineにおけるBevacizumabの効果は同等であった3)。また、BRiTEにおけるBBPを再現するデータが得られた4)
BBP否定派
BRiTE、ARIESは観察研究であるため、エビデンスレベルは低い。BBP群に状態のよい症例が選択されるなどバイアスがかかっている可能性がある。
Bevacizumabを用いた治療では、高血圧や蛋白尿、出血といった従来は考えられなかった毒性が生じる可能性がある。また、BBP (継続使用) においては、費用対効果の問題もある。
BBPは国内外のガイドライン5, 6)において推奨されておらず、現時点でBBPを行うことはガイドラインに則った治療とは言えない。
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