●医療費や疼痛について
大村:手術手技と安全性以外に何か違いはありますか。
OC-4:大きな違いはコストです。腹腔鏡下手術のコストは開腹手術の2倍近くかかるので、それに見合うだけのメリットがある患者さんに対して行うべきです。再手術で腹部にたくさん傷がある患者さんは、わざわざ高い医療費を払って結果的に少し傷が小さいだけというのでは意味がないと考えます。
LAC-2:コストが高くなるのは事実ですが、傷があった人に腹腔鏡下手術をすると、「前回はきつかったのに、今回は楽だった」と言って喜ばれます。それは患者さんとの話し合いで決めることで、傷があっても希望があれば腹腔鏡下手術でいいと思います。
OC-4:手術が楽かどうかは、手術方法の違いよりも、術後に硬膜外麻酔が効いていたかどうかのほうが大きく影響します。傷が小さくても、麻酔が効いていなければ痛みます。もちろん、血栓症の問題で硬膜外麻酔を使わない施設も増えているので、その場合は傷が小さいほうが痛みは軽いでしょう。
大村:コスト面に関しては、高額療養費制度があるので患者さんは負担増にはなりませんが、医療者側には医療費を効率よく使うことが求められています。
OC-4:腹腔鏡下手術では医療機器のコストに加えて、手術時間が長いぶんだけ麻酔医や看護師の人件費、手術室の電気代など、総合的にコストがかさみます。医療費削減が叫ばれる時代ですから、コスト意識は必要です。
LAC-1:腹腔鏡下手術による手術時間は短縮してきて、開腹手術との差がなくなってきています。入院期間は明らかに短いので、その分で機器等にかかるコストがある程度相殺できるのではないかと思います。
●それぞれの手術に適した症例とまとめ
大村:最後に各派から、開腹手術と腹腔鏡下手術に適した症例を挙げてください。
OC-4:再手術、腹壁に創の傷がたくさんある症例、肥満症例、巨大腫瘤、隣接臓器浸潤が著明なもの、そしてstage IVの症例は、開腹手術が優先されると思います。
大村:では、腹腔鏡下手術はそれ以外ということになりますか。
LAC-2:そうですね。ただ、巨大腫瘤の程度にもよると思います。
LAC-1:骨盤を占めるようなものは、切除後に取り出す際に創が広がってしまいます。エキスパートが集まっている施設以外は、あまり進行していない症例が望ましいと思います。
大村:ありがとうございました。腹腔鏡下手術は数々の臨床試験で安全性を示し、多くの施設で導入されていますが、腹腔鏡下手術が導入されたことで開腹手術の質も高くなり、互いに高め合っていると言えます。また、再発や巨大腫瘤など、開腹手術が適している症例があるのは確かですので、開腹手術の技術も磨いておくべきだということでした。どうもありがとうございました。