大村:最後に各派から、術前化学放射線療法を行うべき症例と、行うべきでない症例の条件を提示してください。
消極派3:現時点では、基本的に術前化学放射線療法は行わない方針です。大腸癌に対する放射線療法の問題点は、本当の意味でのCRがないことです。扁平上皮癌のように、放射線療法によるCRが2〜3割もあると、もっと積極的に放射線療法をしたいと思いますが、放射線療法の技術が向上していくらピンポイントに照射できても、副作用を減らすだけで、生命予後を改善できるわけではありません。
消極派4:術前化学放射線療法が出てきたときには、肛門機能を温存できるのではないかと思っていましたが、実際は、むしろ人工肛門のほうが楽だったという患者さんもいます。したがって、放射線療法は極力避けたほうがいいと考えています。強いて言えば、肛門を残さずにAPRを施行する症例でしょうか。
大村:では、積極派の先生はどうでしょう。
積極派1:予防的に側方郭清を行う症例では、術前化学放射線療法を行うことで予防的郭清を省略できる可能性があるので対象になります。また、周囲への浸潤の可能性があるT4症例では、術前化学放射線療法によって局所コントロールが期待できます。一方、側方に明らかな転移がある症例には、術前化学放射線療法を行いません。この場合は手術も期待できないので、局所コントロール目的で側方郭清をしたうえで、術後補助療法を検討することになります。
大村:手術単独では効果が期待できないので、術前化学放射線療法をして手術をするということは考えられませんか。
積極派1:既に転移があるので、術前化学放射線療法によって手術まで待つ3ヵ月が惜しいと思います。それよりも、先に切除をして、放射線療法は再発した場合に備えて残しておくことも考えておかなければなりません。
積極派2:症例選択を考えると、やはりバイオマーカーがポイントになると思います。効果的なバイオマーカーが見つかれば、より積極的に術前化学放射線療法を施行できるのではないでしょうか。
大村:バイオマーカーは10年以上前から検討されていますが、なかなか再現性のあるものが見つかっていません。
積極派1:術前化学放射線療法としてS-1 + CPT-11と45 Gyの照射を施行した症例における、生検の免疫染色とresponderとの関連についての検討では、Ki67、Bax、Grp78、TS、DPD、CD34の活性が術前化学放射線療法の感受性と有意に相関していることが報告されています11)。
消極派3:Dutch trialではstage III症例で術前放射線療法の効果が高いということでしたね。これらを利用して術前に症例が絞られるようになれば、術前化学放射線療法を行うことに同意できます。
大村:今、我々が一番欲しいデータはバイオマーカーということでしょうか。
積極派1:Good responderはもちろんですが、これまであまり探索されていない、non-responderを予測できるバイオマーカーが見つかれば、状況は大きく変わると思います。
消極派3:KRAS 遺伝子もnon-responderを探索したものと言えます。有効な症例よりも、有効性がみられない症例を探索するほうが、正しいバイオマーカー探索なのだと思います。
大村:ありがとうございました。こういった基礎的研究を含めて、さらなる検討が必要ですね。治癒を目指しつつ、QOLも保つために、今後も我々は努力をしていかなければならないと思います。本日はどうもありがとうございました。