Point 3:術前化学放射線療法と術前補助化学療法
消極派3:確かに、側方郭清をしっかり行っても手術だけでは限界があるので、何らかの補助療法が必要だと思います。そのなかで、放射線療法を重視するのか、術前補助化学療法 (NAC) を重視するのかで、術前化学放射線療法の積極派と消極派に分かれるのでしょう。ただ、これまではNACのデータが少ないため、術前化学放射線療法の消極派は手術単独になっていましたが、今後はNAC積極派になっていくのではないかと考えています。
日本には、放射線療法を行った症例は肛門機能障害など長期のデメリットがあるという印象があるため、放射線療法に踏み切れない医師が多いのも現実です。OSの改善はあまり期待できない放射線療法を積極的に行うよりは、長期のデメリットがなく、OSを改善する可能性のあるNACを積極的に行うほうがいいという考えです。また、放射線療法を行うと、NACをフルコースで施行しにくくなる可能性があります。したがって、術前化学放射線療法ではなく、NAC + 側方郭清によって局所再発を抑え、生命予後も改善するというのが、現在の方向性の1つだと思います。
大村:NACについて、積極派の意見はいかがでしょうか。
積極派1:放射線療法は放射線科医の不足、側方郭清は腹腔鏡下手術への対応と、いずれも問題を抱えているのに対して、NACはほとんどの施設で施行可能なので、今後はNACが広がっていくかもしれません。ただ、NACは局所再発率の抑制において術前化学放射線療法に匹敵するエビデンスはないので、術前化学放射線療法が必要な症例と、NACだけでいい症例とを明らかにしていく必要があると思います。
消極派4:直腸癌のTMEにおける術前化学放射線療法としてのXELOX + 放射線療法に対するCetuximabの上乗せ効果を検討したEXPERT-C試験では、主要評価項目のCRはXELOX群9%、XELOX + Cetuximab群11%と有意差はみられませんでしたが (p=1.0)、3年OSはXELOX群81%、XELOX + Cetuximab群96%と、Cetuximab併用により有意な改善を示しました(p=0.035)10)。今後は、このように分子標的薬を併用する治療が主流になっていくのでしょう。ただ、日本において放射線療法を施行できる施設は限られており、手間もかかるので、現時点において利用するのは難しいと思います。また、術前化学放射線療法を行う場合は、手術まで3ヵ月近く待つことになります。有効性がみられない患者は、術前化学放射線療法を選択したことが悪影響を及ぼすこともあり得ることは、考慮に入れるべきです。
消極派3:放射線療法もCTガイドで照射野を決めるなど、技術的に進歩していますが、晩期障害への影響などはまだ明らかになっていません。QOLが本当に改善していることが示せていない現状では、NAC + 側方郭清を選ぶことになると思います。将来的には、術前化学放射線療法 ± 側方郭清やNAC ± 側方郭清などの臨床試験を日本で行って、結論を出していくべきでしょう。