消化器癌治療の広場 GIcancer-net
SHAREは,がんの告知,再発や転移の告知,積極的治療の中止など,医師から「悪い知らせ」を伝えられる際に,患者が医師に対してどのようなコミュニケーションを望んでいるのかを調査し,まとめられたもので,「悪い知らせ」を伝えられる際の患者の意向の構成要素の頭文字をとってSHAREと名付けられました.SHAREはがん医療において,医師が患者に悪い知らせを伝える際の効果的なコミュニケーションを実践するための態度や行動を示しています.
2004年9月,国立がんセンター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部の内富庸介先生を中心とするチームは,国立がんセンター東病院で,42名の外来通院がん患者および7名のがん専門医を対象とした「がん患者に悪い知らせを伝える場合のコミュニケーション」に関する面接調査を実施しました.内容分析の結果,がん患者が「悪い知らせ」を伝えられる際に,望む,あるいは望まないコミュニケーションとして70の項目があげられ,内容の類似性から,以下の4つのカテゴリーにまとめられました.
さらに,面接調査の結果で得られた70の項目を0(まったく望まない)から5(強く望む)の5件法を用いて質問票を作成し,国立がんセンター東病院外来通院がん患者529名に横断調査を実施したところ,最初の面接調査で得られたときと同様,患者が望むコミュニケーションは,4つの要素【S,H,A,RE】で構成されていることが確認されました.
2007年4月に施行された「がん対策基本法」に基づくがん対策推進基本計画には,「がん医療における告知等の際には,がん患者に対する特段の配慮が必要であることから,医師のコミュニケーション技術の向上につとめる」ことが盛り込まれています.
2007年度からはSHAREを用いたコミュニケーション技術研修会が厚生労働省委託事業として全国で開催されています.
SHARE プロトコル
S:場の設定 H:悪い知らせの伝え方 A:付加的情報 RE:情緒的サポート
準備:重要な面談であることを伝える |
プライバシーが保たれる場所(直接会って伝える),十分な時間を確保する(電話が鳴らないようにする) | 大部屋のベッド・サイドやカーテンでしきられているだけの外来はできるだけ避け,面談室を使う 忙しい外来時間を避ける 予め電話を他の人に預ける 面談の始めに患者にことわる.電話がなった場合,患者にことわってから,電話にでる |
S |
検査結果が出揃って,最終的な判断が出るのが次回の面談であることを患者に伝える | 「7日後に検査結果が出揃い,当院の呼吸器グループでミーティングした結果をお話しすることができますので,次の面接は7日後の○月○日ではいかがでしょうか」など | S |
次回の面談は重要なので,家族など他の人が同席できることを伝える | 「次回は検査結果をお伝えする重要な面談ですので,ご家族の方などどなたかご一緒にいらっしゃっていただく
こともできます」 「お一人でも結構ですが,心細いようであればご家族に 同席していただいてもかまいませんよ」など |
H |
基本:面談中常に気をつけること |
礼儀正しく患者に接する | 初対面の時には自己紹介する 面談室に患者が入ってきたら挨拶をする |
S |
患者の目や顔を見て接する | S | |
患者に質問を促し,その質問に十分答える | 「ご質問はありますか?」 | H |
患者の質問にいらいらした様子で対応しない | 患者の言葉を途中で遮ること 貧乏ゆすり ペンを廻す マウスをいじる,など |
S |
STEP1:面談を開始する(患者が面談室に入ってから悪い知らせを伝えるまで) | 起 |
大事な話の前には患者は緊張しているので,患者の気持ちをやわらげる言葉をかける | 身近なことや時節の挨拶,患者の個人的な関心事などに
ついて一言触れる 表情(微笑む)などのノンバーバル・コミュニケーション 「最近寒いですが風邪を引いたりしていませんか?」 「暑い日が続いていますが,夜は眠れていますか?」など |
RE |
症状,これまでの経過,面接の目的について振り返り,患者の病気に対する認識を確認する | 「前の病院の先生からはどのような説明を受けましたか?」 「病気についてどのようにお考えですか?」 「前回お会いしたときの説明をどのようにご理解されていますか?」 「初診のときの話について,その後どのように感じましたか?」 「前回お話したことについて,おうちに帰ってからどんな風に感じましたか?」 「治療効果について,ご自分ではどのように感じていますか?」など |
H |
家族に対しても患者と同じように配慮する | 視線を向ける 家族が突然発言したときには,後で十分答える準備があることを伝えるなど 患者に家族に対して配慮していることを認識してもらうことが重要である |
RE |
他の医療者(たとえば,他の医師や看護師)を同席させる場合は患者の了承を得る | 「看護師の○○を同席させてもよろしいでしょうか? 面談後にわからないことがありましたら,なんでも結構ですので,わたしか○○にお話ください」など | S |
STEP2:悪い知らせを伝える | 承 |
悪い知らせを伝える前に,患者が心の準備をできるような言葉をかけてあげる | 「大切なお話です」 「予想されていた結果かもしれませんが・・・」 「お時間は十分ありますか」 「少し残念なお話をしなければならないのですが」 家族の同席を勧めるなど |
RE |
悪い知らせをわかりやすく明確に伝える | 「率直に申し上げますと」など | H |
患者が感情を表に出しても受け止める | 沈黙の時間をとる 患者の言葉を待つ 気持ちを聞く オープン・クエスチョン「今,どのようなお気持ちですか?」 |
RE |
悪い知らせによって生じた気持ちをいたわる言葉をかける | 「つらいでしょうね」 「それでは一緒に写真を見て行きましょう」 「混乱されたでしょうか」 「驚かれたことでしょう」 「大丈夫ですか?」など |
RE |
実際の写真や検査データを用いる | H | |
患者に理解度を確認しながら伝える | 「ご理解いただけましたか?」 後から質問ができることや看護師にも質問できることを伝える |
H |
今の話の進み具合でよいか尋ねる | 「話の進みは速くないですか?」 「速いと感じたらいつでもそのようにおっしゃってください」など |
H |
病状(たとえば,進行度,症状,症状の原因,転移の多い場所など)について伝える | H | |
質問や相談があるかどうか尋ねる | 「何かご質問はありますか?」など | H |
専門用語を用いた際は患者が理解しているか尋ねる | H | |
紙に書いて説明する | H |
STEP3:治療を含め今後のことについて話し合う | 転 |
患者の今後の標準的な治療方針,選択肢,治療の危険性や有効性を説明した上で,推奨する治療法を伝える | A | |
がんの治る見込みを伝える | 「治療は非常に厳しい状況で,今の生活を如何に保つかが 今後の目標です」 | A |
患者が他のがん専門医にも相談できること(セカンドオピニオン)について説明する | A | |
誰が治療選択に関わることを望むか尋ねる | 患者本人が一人で決める 医師にまかせる 家族,医師と一緒に決める,など |
A |
患者が希望を持てるように,「できないこと」だけでなく「できること」を伝える | 「がんをやっつける治療よりも,痛みをとる治療に重点をおきましょう」など,抗がん剤治療以外にも可能な医療行為があることを伝える | RE |
患者が利用できるサービスやサポート(たとえば,医療相談,高額医療負担,訪問看護,ソーシャル・ワーカー,カウンセラー)に関する情報を提供する | |
A |
患者のこれからの日常生活や仕事についても話し合う | 「たとえば,日常生活やお仕事のことなど,病気以外のことも含めて気がかりはありますか?」 | A |
STEP4:面談をまとめる | 結 |
要点をまとめて伝える(サマリーを行う) | H | |
説明に用いた紙を患者に渡す | H | |
今後も責任を持って診療にあたること,見捨てないことを伝える | 「私たち医療チームはあなたが良くなるように努力し続けます」 「今後も責任を持って診療にあたります」 「ご希望があれば転院先を紹介します」など |
RE |
患者の気持ちを支える言葉をかける | 「大丈夫ですよ」 「一緒にやっていきましょうね」など |
RE |
内富庸介, 藤森麻衣子: がん医療におけるコミュニケーション・スキル 悪い知らせをどう伝えるか. 医学書院, 2007
QOL向上のための多種患者支援プログラムの開発研究
平成18年度
総括・分担研究報告書
財団法人 医療研修推進財団 PMET: http://www.pmet.or.jp/
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