坂本(以下太字):今回の「Big Oncologistに聞く」では、前回に引き続き、米国オーランドにて開催中のASCO 2005の機会をとらえ、お二人目のゲストとしてドイツUniversitätsklinik HalleのGrothey先生をお迎えしました。Grothey先生は米国Mayo Clinicで、前回のGoldberg先生らと共同研究も行っていらっしゃいます。日本の臨床腫瘍医に向け、結腸直腸癌に対する化学療法の展望を中心に語っていただきます。
LV/5-FUとCPT-11またはL-OHPの併用でOSの延長が可能に
先生が昨年「Journal of Clinical Oncology」(JCO)に発表された論文――進行結腸直腸癌に対して、LV/5-FU、CPT-11、L-OHPの3剤すべてを治療過程のどこかで使用すると、OSが著明に延長する――という論文には大変感銘を受けました(JCO 2004; 22: 1209)。まず、そのお話を少し聞かせてください。
結腸直腸癌に対して私たちは長年、5-FUまたはUFT、LV/5-FUという事実上1種類の化学療法薬しか持ち合わせていませんでした。しかし、近年新薬が登場し、現在ではCPT-11、L-OHPを加えた3剤が中心的薬剤となっています。
LV/5-FUにCPT-11またはL-OHPを併用することによって、進行結腸直腸癌のOS(中央値)を従来の12ヵ月から延長することが可能になり、特にLV/5-FUとCPT-11の併用では20ヵ月以上にまで延長できるようになりました。ただし、その一方で私たちの知る限り、3つの試験においてFOLFOX regimen(LV/5-FU+L-OHP)がLV/5-FU単独よりも奏効率およびPFSは有意に改善しているものの、OS延長については、統計学的に有意な差は認められていません。
一連の治療を全体的に評価する解析が必要
Second line治療やthird line治療の影響によるものではないでしょうか。
おっしゃる通りです。使用できる薬剤が増え、有効なsecond line治療やthird line治療まで可能になったことで、first line治療による生存の差を明確にするのが難しくなりました。すなわち、first lineやsecond lineというふうに、ある段階の治療として比較している限り、私たちはこれらの新しい薬剤のOSに及ぼす効果を過小評価してしまう可能性があるのです。
そこで私たちは、ある段階の治療としてではなく、患者さんが受ける一連の治療を全体的に評価する解析が必要と考えました。たとえば、first lineとしてL-OHPベースの治療を行ったら、second lineとしてCPT-11ベースの治療を行う、あるいはその逆のパターンで治療する、というのが現実的であり、そのようなクロスオーバーを評価したTournigand studyでは、非常に長いOSが得られています(JCO 2004; 22: 229)。
確か、どちらを先にしても20ヵ月を超えるOSでしたね。
その通りです。当時達成されていたOSとしては最長でした。そこで、もし治療のいずれかの段階でLV/5-FU、CPT-11、L-OHPを使い、結果として3剤すべてを使うことがOSの延長に結びついているならば、それを明確に示すことこそ非常に意義深いと考えたのです。私たちは、Goldberg先生が昨年JCOに発表したN9741試験も含め、進行結腸直腸癌に対する7件の第III相試験の結果をメタアナリシスしてみました。その結果、一連の治療のなかで3剤すべてを使用することによってOSを最も延長できることが明らかになったのです。
3剤使用率とOSの関係を明らかに
使用した薬剤が3剤か2剤か1剤かは、どのようにして検証したのですか。
個々の患者さんの記録に戻ることはせず、より簡便な方法をとりました。どの試験もsecond line治療やthird line治療について報告していたので、それに基づいて解析したのです。
たとえば、IFL regimen(bolus LV/5-FU+CPT-11)の試験では、first lineとしてIFLで治療された患者さんのうち、second lineとしてL-OHPベースの治療を受けたのはわずか5%未満でした。一方、ドイツにおける私たちの試験では、first lineとしてL-OHPベースの治療を受けた患者さんのうち、60%がsecond lineとしてCPT-11ベースの治療を受けました。このようにfirst lineで併用療法を行った群では、3剤すべてを使用した患者さんの割合がわかりますので、その割合とその群におけるOSとの関係から、3剤使用の有効性を導き出したというわけです。
英国で実施されたFOCUS試験(ASCO 2005 #3518)が一連の治療を評価する手法をとっていて、その考え方が私たちの解析の基本にあります。また、ASCO 2005ではこのインタビューの後で、NCCTGとMayo ClinicからN9841試験(ASCO 2005 #3506および#3519)の結果が発表されることになっており、やはり一連の治療の有効性が明らかになるはずです。私はすでにその結果を承知しているわけですが、FOCUS試験およびN9841試験における3剤使用率とOSとの関係も、私たちがJCOに発表した回帰直線に一致することがわかっており、私たちは現在、これらのデータも加えて、論文をアップデートしているところです。
適切なsecond line、third lineが重要 ― 分子標的製剤の導入でOSはさらに延長
最初に先生の論文を見たとき、先生方の解析にはバイアスがあるのではないかと思いました。OSの短かった患者さんでは3剤の使用にまで至らなかった可能性があるからです。
研究そのものの方法論に内包されたバイアスがあるかということですね。そいういったものはないと考えています。ただし、興味深いことは、たくさんの患者さんがthird lineの治療を受けてはいるものの、それが適切なものとは限らなかったということです。
私たちは不適切なthird line治療を受けた患者さんについても調べました。たとえば、単に5-FUの投与法を変えただけのような治療を受けている患者さんもいて、これではsecond line、third lineの治療といっても必ずしもOSの延長には結びつきません。重要なのは、どのような投与法であれ、異なる作用機序を有する5-FU、L-OHP、CPT-11がすべて使用されているかどうかということなのです。
さらに、私たちは昨年のASCOでIFLにbevacizumabを併用する試験についても発表しましたが、そこでは4剤を使用した患者さんのOSを検討したことになります(ASCO 2004 #3517)。IFL+bevacizumabですでに3剤であり、これにL-OHPベースの治療が加われば4剤です。そして、4剤すべてを使用した患者さんのOSは25.1ヵ月にも及びました。
驚くべき結果です。論文としての発表はいつごろになりますか。
できれば今年中にJCOに発表したいと思っています。分子標的製剤の登場により、従来の3剤による治療はさらに進んで、今やbevacizumab、cetuximabを加えた5剤が結腸直腸癌に有効であることがわかっています。米国のIntergroupは現在、こうした化学療法と分子標的製剤による抗体療法のいかなる組み合わせが有効かを検討する試験を実施しており、27ヵ月以上のOS達成を目指しています。
5-FUと支持療法のみだった時のOSが8〜9ヵ月だったことからすれば、25ヵ月への進歩は、20〜30年前に白血病や骨肉腫で経験したような大きなブレークスルーといえますね。
はい。ただ問題は、私たちはまだ患者さんを根治させているわけではない、ということです。私たちはまだ進行を遅らせているだけですので、もっと長期間にわたって患者さんの予後を改善するのが大きな目標です。
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