LV/5-FU、L-OHP、CPT-11の3剤同時併用は至適用量が使えない
ところで先生は、FOLFIRI regimenにおいても5-FUのbolus投与は行っていらっしゃらないのですか。
行っていません。CPT-11ベースの治療で特に問題となるのは下痢ですが、最も気をつけなければいけないのは、下痢と好中球減少の併発です。下痢だけなら水分補給で対処できますが、好中球減少を併発して発熱すると、それによって死亡しかねないからです。
LV/5-FU、L-OHP、CPT-11を同時に使うregimenもありますが、それについてはどのようにお考えですか。
実際、私も3剤併用regimenの第II相試験に参加しましたが、問題は、3剤同時併用としてしまうと、必ずしも各薬剤の至適用量を使えないということです。主に下痢のために用量を調節せざるをえません。
今年の欧州癌学会議(第13回ECCO)では、FOLFOXIRI regimenとFOLFIRI regimenを比較する第III相試験の成績が、イタリアから発表される予定となっていますので、注目しています。ただし、同じregimenを比較したギリシャの試験の中間解析が昨年発表されており、3剤同時併用してもOSに有意なメリットはありませんでした。
Cetuximabやbevacizumabといった分子標的製剤が登場した今、LV/5-FU、L-OHP、CPT-11を同時に使うregimenにあまり説得力はないとお考えですか。
はい。転移性結腸直腸癌の患者さんに対して、私たちがまず最初に考えるのが、その患者さんを根治させられるかどうか、ということです。転移癌でも切除術で根治させ、長期のOSを達成することは不可能ではありません。そのため、根治が見込めるならば、転移巣を縮小する奏効率の高い術前補助化学療法が必要です。
現在、私が奏効率が最も高いと考えているのは、FOLFOX+cetuximab±bevacizumabです。First line治療としてFOLFOX+cetuximabを検討した欧州の第II相試験では、81%の奏効率が得られており、私はこれにbevacizumabを加えたいと思います。しかし、これにCPT-11を加えるとなると、L-OHPや5-FUを減量せざるをえなくなり、至適用量を投与できれば得られるはずの効果が期待できなくなってしまうのです。
根治の見込めない患者さんでは、奏効率よりPFSやOSの延長を重視
最初から根治が見込めない患者さんに対しては、どのようなアプローチをとりますか。
その場合には奏効率に固執する必要はなくなります。大事なのは患者さんの長期生存ですから、PFSやOSの延長を重視することになります。私だったら、FOLFOX+bevacizumabで開始し、毒性が現れる前にFOLFOXをLV/5-FUまたはcapecitabineに変更します。蓄積性の毒性がある薬を使い続けるのは得策ではありません。従来の3剤にbevacizumabとcetuximabを加えた5剤を逐次投与し、QOLを保ちながら、できるだけ長期間、安定・不変の状態を維持することを目指すべきです。
根治できるのであれば、患者さんは一時期QOLが損なわれようとも、強力なregimenを受容するでしょうが、根治できないのであれば、良好なQOLをできるだけ長く保ちたいと望むでしょう。また、医療資源の有効利用にも目を向ける必要があります。Cetuximabは年間10万ドル以上かかる最も高額な治療選択肢であり、根治できる患者さんに対してはfirst lineになりますが、根治の難しい患者さんに対してはlast lineになります。
Bevacizumabは終始使い続けるのですか。
FOLFOX+bevacizumabから始めてFOLFIRI+bevacizumabまで、bevacizumabを常に維持すべきかどうか、それはまだわかりません。
Stage III 結腸癌の補助化学療法において、L-OHPを減量できる可能性
なお、今回のASCOで発表される、stage II・III結腸癌の術後補助化学療法を比較したNSABP C-07試験については、どのように見ていらっしゃいますか(ASCO 2005 #LBA3500)。アブストラクトによると、FLOX regimen(bolus LV/5-FU+L-OHP)がRPMI regimenよりも、3年DFSにおいて有意に優れているようです。
私はあそこまでポジティブな結果が出るとは予想していませんでした。もちろん、多少ポジティブな結果が出るだろうとは思っていたのです。しかし、5-FUのinfusionをベースとしたLV5FU2 regimenと、これにL-OHPを加えたFOLFOX 4 regimenとを比較したMOSAIC試験(ASCO 2005 #3501)と同程度の差がつくとは予想外でした。
FOLFOX 4は現在、ステージIII結腸癌の標準的補助化学療法になっていますが、L-OHPの目標投与量は、6ヵ月(12サイクル)で1,020mg/m2になります。一方、FLOXにおけるL-OHPの目標投与量は、6ヵ月(3サイクル)で765mg/m2です。FLOXのほうがL-OHPの投与量は少なく、神経毒性の発現も少ないはずです。その点ではFLOXのほうが有利ともいえます。しかし、見方を変えれば、FOLFOX 4において本当に6ヵ月も治療が必要なのか、という疑問もわいてきます。L-OHPの投与量から考えれば3〜4ヵ月でもよいのかもしれません。累積投与量を抑えることで毒性も低下し、それで同じ効果が得られるならすばらしいと思います。こうした点をめぐって、どのような議論が繰り広げられるのか、今から楽しみです。
化学療法と分子標的療法をいかに組み合わせるか
では、まとめの質問になりますが、結腸直腸癌の臨床試験は今後、どのような方向に進むとお考えですか。
まず、直近の未来について言うと、現在、新しい分子標的製剤の試験が進行中であり、焦点は化学療法から分子標的療法へと大きく移行しつつあります。それはもうすべての腫瘍に共通して言えることであり、乳癌、肺癌、膵癌、腎癌などでも分子標的製剤の応用が進んでいます。したがって、臨床試験の目的も、最良の化学療法は何かということから、化学療法と分子標的療法をいかに組み合わせるか、ということに変わりつつあります。
私たちは現在米国で、結腸直腸癌の術後補助療法におけるcetuximabやbevacizumabの有用性を検討する試験を2件実施しています。また、進行結腸直腸癌に対しては、前述の通りIntergroupが、first line治療として、化学療法にcetuximab、bevacizumab、またはcetuximab+bevacizumabを組み合わせる試験を実施しています(Intergroup trial CALGB/SWOG 80405)。
これらの有効な治療が利用できるようになって、今後、課題となってくるのは、新しい分子標的製剤が登場してきたときに、その効果を臨床で証明するのがますます難しくなっていくことです。なぜなら、私たちはそれを最初にthird lineあるいはfourth lineで試さなければならず、そのような遅い段階で有効性を示す薬など、ほとんどないからです。
肺癌で分子標的製剤の応用が早く進んだのは、それまでの治療が良好ではなかったためですが、結腸直腸癌では現在、すでに2つの分子標的製剤が応用されており、そのなかで今後、新薬の有効性を証明するのは容易なことではありません。もし、有効性が期待できる新薬を、患者さんのためを思って治療に組み入れたいなら、いわゆる“window of opportunity”試験をデザインする必要があります。つまり、結腸直腸癌と診断したら、まずその新薬で治療し、注意深く観察を続け、少しでも進行したら、通常の化学療法を開始するのです。
薬理ゲノム学的治療は試験デザインが複雑
最後に、遺伝子診断に基づくテーラーメード治療についても、ご意見をお聞かせください。
薬理ゲノム学ですね。私は、5年以内には次々と臨床試験が開始されると思います。まず、各患者さんの薬理ゲノム学的情報を記録することから始まり、次にそれが治療法や薬剤の用量を決める上で適切な手段になるかどうかを検証することになるでしょう。しかし、薬物療法の多くは併用療法ですから、ことはそう簡単ではありません。
たとえば、L-OHPの神経毒性については、ある種の酵素に関するpolymorphismが関連している可能性があり、私はそれをこのASCOで発表する予定です(ASCO 2005 #3509)。また、CPT-11の毒性についても、あるpolymorphismの関連が指摘されていますし、ほかの薬剤の毒性についても同様に遺伝的背景が明らかになってくるでしょう。
しかし、これらの知見を利用した薬理ゲノム学的治療が、通常の治療よりも優れていることを統計学的に証明するには、臨床試験をどのようにデザインすればよいでしょうか。しかも、乳癌のように、治療の有効性を左右する腫瘍の分子構造の違いということにも注目していかなくてはなりません。将来的にはこうした複雑な問題を解決する臨床試験のデザインが考案されなければなりません。
患者さんの薬理ゲノム学的背景、薬剤の毒性、有効性などの情報を基に、各患者さんに最も適した治療がコンピュータによって選ばれる――そんな時代も来るかもしれませんね。本日はご多忙のなか貴重な時間をインタビューに割いていただき、ありがとうございました。
こちらこそ、大変重要なご質問で論点を整理していただき、ありがとうございました。皆さんのご参考になれば幸いです。
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