坂本 最後に、今回の米国臨床腫瘍学会年次集会について、先生方のご意見をうかがいたいと思います。
大津 一言でいうと、やはり今年は少し低調だったように思いますが、先ほどのCRYSTAL試験の報告のように、だんだんと治療の個別化に向かっている印象を受けました。
また日本の臨床試験については、胃癌では先ほどのRAD001の試験も含めて、最先端の開発に加わっています。大腸癌も今度のcetuximabの承認によって、ようやくスタートラインに立つことができました。国際的な開発も徐々に増えつつあり、世界の新薬開発ラインに入ってきているという実感があります。今後は、海外と同時に承認されるようになること、また、国内のさまざまな臨床研究グループで臨床応用研究が進められることを期待しています。
瀧内 大津先生と同じく、腫瘍内科医としてはdrug lagをなくすべく、さまざまな薬剤開発に関わっていくべきだと改めて感じました。
少し残念だったのは、日本では肝癌で亡くなる患者さんが非常に多いにもかかわらず、アジア太平洋地域でのsorafenibの試験(#4509)にまったく参加していなかったという点です。今後は国際共同治験に積極的に参加し、承認された暁には、さまざまな臨床グループで日本の患者さんにとってのoptimal
choiceをつくっていくよう努力していきたいと思います。
寺島 K-RASについては今年の消化器癌シンポジウムで発表がありましたが、それから半年ほどの間にほとんどのスタディでデータが揃っているという、そのスピードに感銘を受けました。どのデータも再現性が高かったですし、医学の進歩を実感しました。
私も以前からバイオマーカーの探索に取り組んできましたが、今後も臨床試験の付随研究のような形で基礎研究を組み込んで、探索を続けていきたいと考えています。
大村 私はFirst BEAT試験が印象に残りました。これまでは学会発表された成績に対して、果たして実臨床でもここまでよい成績が得られるものか、懐疑的な面があったのです。しかし今回、標準的化学療法にbevacizumabを投与することで、実臨床でも優れた成績が得られることが発表されました。臨床腫瘍医にとっては非常にうれしいデータです。
また、分子標的治療薬以外の化学療法は頭打ちの感があります。分子標的治療薬に関しても、従来どおりの使用法ではこれ以上の伸びは見込めないでしょう。今後の消化器癌治療には、抗癌剤や分子標的治療薬を、単に延命だけではなく、QOLを上手く保ちながら効果的に使うことが求められると思います。
坂本 それでは、今回レポーターとして参加いただいた先生方に学会の感想をおうかがいしたいと思います。まずは、今年初の参加となった野澤先生から。
野澤 最初はレポーターとしての重責に緊張し、巨大な学会会場の雰囲気に飲み込まれそうだったのですが、大規模臨床試験の発表が数多く行われる場を身近に感じることができ、日ごとにワクワクする気持ちでいっぱいでした。私自身は外科医ではありますが、今後は内科医とも協力をとりながら、積極的に臨床試験に参加していきたいと思います。
佐瀬 昨年、今年とレポーターを担当させていただきました。やはり米国臨床腫瘍学会年次集会の消化器癌領域では大腸癌の発表が多いのですが、そのなかで日本からいくつか胃癌の発表が報告されていて、今後も日本独自の発表をどんどん続けていくべきだと感じました。また、普段は腫瘍内科の先生とお話しできる機会があまりないのですが、今日は大津先生と瀧内先生のお話を直接お聞きすることができ、非常に有意義でした。
高石 CRYSTAL試験におけるK-RAS解析により、今年の米国臨床腫瘍学会年次集会が、消化器癌個別化医療の始まりとなることが期待されます。分子標的治療薬は作用機序がある程度はっきりしているため、治療効果が事前に予測できるようになっていくのではと思います。今後は治療効果の少ない人に対する治療戦略を考えていきたいと感じました。
坂本 今回の米国臨床腫瘍学会年次集会は一見地味なようですが、テーラーメイドセラピーへ向かう方向性が確立したことと、臨床試験における国境を越えた協力が当たり前のように論じられるようになったという意味で、大きな転換期になったのではないかと思います。本日はどうもありがとうございました。
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