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ASCO 2008 | American Society of Clinical Oncology 44th Annual Meeting 2008 May 30th - Jun 3rd at Chicago,Illinois

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レポーター体験記

高石官均 先生

 今年の米国臨床腫瘍学会年次集会では画期的な新薬の発表はなく、例年のエキサイティングな雰囲気よりも、淡々と開催されていた感じがありましたが、それでも今後の臨床の現場に大きな影響を与えるであろうと思われる発表がいくつかありました。
 最も印象に残ったのは、K-RASの変異に着目したCRYSTAL試験のレトロスペクティブな解析です(#LBA2)。大腸癌患者に対するcetuximabの上乗せ効果がK-RAS wild typeの患者に認められるのに対し、K-RAS mutation患者には認められませんでした。K-RAS wild typeの患者にはEGFR阻害剤を使用し、K-RAS mutationの患者にはEGFR阻害剤を使用せず副作用を避けることが可能になり、テーラーメイド治療の幕開けとなる可能性があります。ただし、今後はcetuximabによる上乗せ効果がないとされたK-RAS mutation患者に対する治療を考えなければならないと感じました。
 また、JCOG 9907試験(#4510)の結果により、stage II/IIIの食道癌に対しては、術前補助化学療法が標準的治療法になる可能性が高く、今後は術前補助化学療法を内科で施行し、手術を外科でするケースが増えてくると感じました。がん治療は○○内科、○○外科などの縦割りの区別ではなく、がん治療全体をセンター化して横断的に診ていくことが必要になると考えていますが、横の連携をつくるための一つのきっかけとなるかもしれません。
 注目演題を選択して毎日レポートを作るのは、今年も大変な作業でした。願わくは来年は1日延泊して、オンコロジーだけではなく、人生の豊富な知識とご経験があり、お話が大変面白い大村先生、寺島先生とゆっくり飲み明かしたいと思いました。3年連続で米国臨床腫瘍学会年次集会に参加させていただきましたことを関係者の皆様に感謝申し上げます。

野澤寛 先生

 ChicagoのO'hare空港が近づき着陸態勢に入るころ、摩天楼は徐々にその大きさを増して待ち望んでいた学会への期待感を高めてくれました。主要な大規模臨床試験の結果が公開される学会とあって、各国からの参加者も多く、巨大な会場は熱気に包まれていました。
 さて、米国臨床腫瘍学会年次集会を振り返ってですが、今回は一般に「大腸癌領域は低調であった」と評されています。裏を返せばこれまでの進歩が異常なほどであったので、落ち着きを得た状況と感じました。
 なかでも特に印象に残ったものは、cetuximabとK-RAS mutationの話題です。本年中には本邦での発売を控えているといわれていますが、すでに数年先を走る欧米の臨床試験の場ではK-RAS mutation患者への投与は禁忌と考えるに相応しいデータが発表されています。魔法の薬ではないことをよく知って、主役が揃った後のキャスティング・順序に配慮する必要がありそうです。
 また、術後補助化学療法のNSABPは、第II/III期結腸癌に対して、C-07試験に次いでC-08試験と、進歩の過程を終えません。当然ながら全ての結果を外挿するのは危険ですが、特に第III期ではoxaliplatinを上乗せした術後補助化学療法はほぼコンセンサスが得られており、本邦での認可が待たれます。また、肝切除後の補助化学療法ではCPT-11の5-FU/LV療法への上乗せ効果が否定されていました。術後補助化学療法は有害事象と治療効果のバランスが特に重要であり、今後は分子標的薬がどのような立場を得るのか注目されます。
 この季節のChicagoは比較的過ごしやすい季節とあって、日曜日ともなると会場の横に広がるLake Michiganには無数のヨットが繰り出して、優雅な休日を楽しんでいる様子でした。何事にもON/OFFをきっちり使い分けることは重要です。今回のレポートは私にとって大変に有意義なものでした。機会を与えてくださった各位、とりわけ今回の長旅で常にアドバイスをくださいました大村健二先生には、心より感謝申し上げます。

佐瀬善一郎 先生

 昨年に引き続き、本年もレポーターとして米国臨床腫瘍学会年次集会に参加させていただきました。昨年同様、
Chicagoで行われた米国臨床腫瘍学会年次集会は、日本の学会ではなかなか体験のできない巨大なお祭りでした。
 本年の発表で注目されたのは、やはりK-RASでしょうか。K-RASのmutationの有無により、mutation群ではcetuximab上乗せ効果が得られないとの発表が多数ありました。K-RASが大腸癌治療においてテーラーメイド治療のマーカーとなり、医療費の削減にもつながるのではと思われました。
 米国臨床腫瘍学会年次集会ですので、消化器癌の発表は結腸・直腸癌がメインになるのは致し方ないことと思いますが、胃癌を専門とする身からすると、今後はもう少し上部消化管疾患の発表が盛んに行われることを期待します。
 また、座談会におきましては、日ごろなかなか接することのできない著名な先生方とディスカッションする機会が得られ、緊張しつつも有益な時間を過ごすことができました。
 今回も米国臨床腫瘍学会年次集会に参加させていただき、大変貴重な経験が得られました。今後も米国臨床腫瘍学会年次集会の動向に注目しつつ、この経験を日常臨床にも活かしていきたいと存じます。

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