このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。
瀧内:今回、2010年 消化器癌シンポジウムで発表されたPRIME試験、20050181試験の皮膚毒性についての追加解析が報告されました。ここでは皮膚毒性の解析に加えて、1st-lineおよび2nd-lineとしてのpanitumumab(Pmab)の有用性についてもご意見をいただきたいと思います。レポートを担当された山ア先生には、まず1st-lineのPRIME試験(Abstract #3528)からご紹介いただきます。
山ア:EGFR阻害剤の皮膚毒性と効果との相関については多数の報告がありますが、今回はPRIME試験という1st-lineとしてのFOLFOX±Pmab療法、20050181試験という2nd-lineとしてのFOLFIRI±Pmab療法の試験の登録患者のうち、Pmab投与群を取り出して、皮膚毒性の程度とPFS、OS、奏効率の相関を調べたものです。
PRIME試験の結果ですが、一次エンドポイントのPFSについては、KRAS野生型の皮膚毒性grade 0-1の群で中央値6.0ヵ月、grade 2-4の群では11.1ヵ月でした(表3-1)。一方、KRAS変異型では、皮膚毒性grade 0-1群で6.1ヵ月、grade 2-4群で7.6ヵ月でした。
瀧内:KRAS野生型のgrade 0-1群のPFSが6.0ヵ月であるのに対し、KRAS変異型のgrade 2-4群では7.6ヵ月と、1.6ヵ月も長くなっています。過去の抗EGFR抗体の報告と比べると不可解な感じがありますが、山ア先生はどう思われますか。
山ア:本解析はリードタイム・バイアスを最小化するために、PFSが28日以上の症例だけを解析の対象にしています。これを見る限りでは、「皮疹が出たから治療が長く続いた」というよりも、「治療が長く続いた症例から、皮疹が出た症例を後ろ向きに見た」ような印象になりがちです。しかしながら、皮膚毒性grade 2-4群における皮膚毒性の最高grade出現時期中央値とPFS中央値を比較すると(表3-2)、PFS中央値よりも比較的早期に皮膚毒性最高gradeに至っていることから、長期投与例にとりわけ皮膚毒性のgradeが高い症例が集まったとは考えにくいと思います。
瀧内:監修を担当された寺島先生はどう思われますか。
寺島:本来、KRAS変異型に対しては抗EGFR抗体の効果を期待できないはずなのに、このような現象が起きているのは疑問に感じます。何らかの相互作用があるのか、あるいは皮膚毒性の判定方法が適当でないのか、そのどちらかではないかと思います。
吉野:本解析では、皮疹を全治療期間の最高gradeで判定しています。同じgrade 3の皮疹でも、半年かけて悪化する方もいれば、2週目でなる方もいます。それを考えると、今回のデータは治療効果の指標にはならないと思います。
大津:皮膚毒性を治療効果の指標として検討するのであれば、評価期間を「何週目までの最高grade」と決めて解析しないとだめでしょうね。
山ア:KRAS遺伝子変異の有無にかかわらず、皮膚毒性grade 0-1の群はPmab非併用群(FOLFOX療法、FOLFIRI療法)と比較しても治療成績が不良です(表3-1)。皮膚毒性grade 2-4の症例で抗腫瘍効果が良好というよりも、grade 0-1の症例は予後が悪いと考えるのが妥当かもしれません。
瀧内:先生方のご意見をまとめると、本解析結果からは、皮膚毒性をPmabの治療効果の指標とすることはできないということですね。ただ、「KRAS野生型では上乗せ効果があるが、皮膚毒性grade 0-1群は予後が悪い」ということは、2nd-lineの20050181試験でも同様であり、実臨床でPmabを使う際に、頭の片隅に入れておいて損はないと思います。
吉野:私は、本報告の実地医療への最大のエッセンスは、KRAS野生型にあると思います。皮膚毒性の最高gradeを一定期間--例えば「治療開始から4週」として追加解析すれば、「4週までの皮膚毒性のgradeが0-1の人は、抗EGFR抗体の投与を続ける必要性がない」という仮説に基づいた臨床試験を立案できるようになると思います。
瀧内:なるほど。それでは、Pmabとcetuximabの違いについてはどう思われますか。投与スケジュール、infusion reactionの発現頻度などはよくいわれますが。
吉野:Pmab vs. cetuximabの第III相試験7)が始まったばかりですので断定的なことは言えませんが、横断的にみると、grade 3以上の皮疹の発現頻度はcetuximabで20%程度、Pmabでは30%で、皮疹についてはPmabのほうが少し多いのではないかと思っています。
大津:それについては、Pmabの推奨用量が高めに設定されていること、またPmabが2週間毎投与であるのに対し、cetuximabが毎週投与であることも影響しているのではないかと思います。通常は皮疹の程度を見ながら休薬を検討しますが、受診の頻度を考えると、Pmabのほうが対応は遅れがちになります。
瀧内:KRAS野生型の皮膚毒性grade 0-1群の予後が悪いことは、Pmab治療におけるクリニカルポイントではあるものの、Pmabの用量やスケジュールなどの背景もよく理解したうえで解釈する必要がありそうですね。
● | 1st-lineのFOLFOX併用、2nd-lineのFOLFIRI併用のいずれにおいても、KRAS野生型ではPmabの上乗せ効果が得られるが、皮膚毒性grade 0-1の患者では予後が悪かった。 |
● | 本解析では、全治療期間における皮膚毒性の最高gradeをみているため、予後予測因子および効果予測因子としての応用は難しい。 |