トップページ
寄せる期待
スタッフ略歴
演題速報レポート
レポーター体験記
座談会
どうなる!?今年の注目演題ダービー 結果発表

このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。

座談会

大腸がんに関する注目演題
#3502 MRC COIN試験
改めてcetuximabの上乗せ効果を問う

瀧内:次の演題はAbstract #3502 MRC COIN試験です。COIN試験はESMO 2009、2010年 消化器癌シンポジウム、そして2010年 米国臨床腫瘍学会年次集会と続けて報告が行われてきました。本報告は2nd-lineからの解析も含めた最終結果です。引き続き、松阪先生にご紹介いただきます。


松阪:COIN試験は、FOLFOX/XELOX療法に対するcetuximabの上乗せ効果を検討した試験で、1次エンドポイントはKRAS野生型におけるOSです。1,630例が登録され、KRAS野生型は729例でした。両群間のOSおよびPFSに有意差は認められず、奏効率にのみ、cetuximabによる上乗せ効果がわずかに認められました。
 全体的にはnegativeですが、サブグループ解析では「KRAS野生型でかつ転移数が1以下であり、FOLFOXと併用した症例」においては、ハザード比が0.55と、PFSにおけるcetuximabの上乗せ効果が認められました(図2)



瀧内:全体の解析ではcexutimabの上乗せ効果がまったくないという結果でしたが、吉野先生はどのように解釈されましたか。


吉野:COIN試験は、英国の医学研究評議会(MRC : Medical Reserch Council)という政府所管団体による研究者主導試験です。OPUS試験やCRYSTAL試験とは異なり、GCP(Good Clinical Practice)にも対応しておらず、試験の質には疑問があります。やはり研究者主導では、きちんとした薬効の評価を行うのは難しいという印象です。症例数は集まっていますが、インパクトのない試験になってしまっています。
 英国のNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)では、cetuximabを肝転移限局例にのみ推奨しており、このサブグループ解析の結果はNICEを支持するデータになっています。しかし、試験自体はnegativeで質にも問題があるので、臨床へのフィードバックは難しいと思います。


佐藤(武)先生
佐藤(武):正直なところ、このデータのみを外科医の目から見ると、「肝転移限局や転移数0-1個の症例に対して、本当にcetuximabを使う必要があるのか?」「他の薬剤を使っても変わらないのではないか?」と思ってしまうようなデータです。今回の結果でBevと比較することはできませんが、「慣れていないcetuximabを使うか、それとも慣れているBevを使うか」と考えてしまう外科医も結構いるのではないかと思います。


寺島:こうしてデータを見ると、1st-lineのcetuximabとoxaliplatin(L-OHP)ベースの化学療法の併用は、irinotecan(CPT-11)ベースに比べて効果が弱い印象がありますね。


山ア:今回、ドイツのAIOグループが1st-lineとしてのXELOX+cetuximab vs. XELIRI+cetuximabの第II相試験を報告していました6)。彼らにとってはXELIRIもXELOXも使い慣れたレジメンですが、それでもPFSはKRAS野生型のXELOX群で7.2ヵ月、XELIRI群でも6.3ヵ月程度だったので、capecitabineとcetuximabの相性に問題があるのではないでしょうか。


大津:おそらくcetuximabと、capecitabine、L-OHPの両方の相性が悪いのだと思います。ですから、その両方が入っているXELOXでは不良で、FOLFOXのほうが少しよいのだと思います。


佐藤(温):CetuximabもXELOXもそれぞれは決して悪くない治療法なので、やはり両者の相性の問題だと思います。PRIME試験(FOLFOX±panitumumab、次項参照)の結果を一緒に見れば、抗EGFR抗体との相性がわかるのではないでしょうか。


瀧内:冒頭で吉野先生からMRCの試験の質についてのコメントがありましたが、坂本先生はどう思われましたか。


坂本:確かに試験の質には問題があるのですが、治験における外挿性という点では、今回のような試験を行わないと、各国の医療環境で実際に使った場合にどうなるかはわからないのです。英国では多くの施設が試験に参加しますが、その全員が経験豊富なドクターというわけではありません。ですから英国の試験では、今回のようにすっきりしない結果が出る可能性は高いです。


大村:坂本先生のお話の通り、COIN試験はコミュニティプラクティスに近いので、承認申請のための試験に比べて分子標的薬の上乗せ効果が小さくなるのは仕方ないと思います。ただ、ここまで差がつかないというのは、少し意外でしたね。


瀧内:試験の解釈、薬剤の相性、臨床試験の質など、興味深いご意見を拝聴することができました。次は同じ抗EGFR抗体であるpanitumumabの演題に移りたいと思います。


Lessons from #3502
FOLFOXおよびXELOXに対するcetuximabの上乗せ効果は認められなかった。
研究者主導試験で試験の質自体に懸念があり、CRYSTAL試験やOPUS試験と同等には解釈できない。
「転移数が0-1の場合」「FOLFOXとの併用」では有用性があるというサブグループ解析結果もあるが、今後の検証が必要である。