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座談会

その他の消化器癌の注目演題
#4010 膵癌/Prodige 4-ACCORD 11試験
「膵癌=Gemcitabine」の図式を揺るがすpositiveなデータ

瀧内:今年の消化器領域のoral presentationで拍手が鳴り止まなかった唯一の演題、Abstract #4010に移りたいと思います。松阪先生、ご紹介をお願いします。


松阪:転移性膵癌患者をGemcitabine(GEM)単剤療法とFOLFIRINOX(L-OHP+CPT-11+5-FU/LV)療法に無作為に割り付けた第II/III相試験です。342症例が登録され、膵頭部領域の癌は両群とも3分の1程度で、殆どがPS 0/1でした。
 Grade 3/4の有害事象はFOLFIRINOX群で好中球減少が45.7%、発熱性好中球減少症が5.4%、その他下痢、嘔吐、疲労など、GEM群に比べて多い結果になりました(表7-1)
 奏効率については、FOLFIRINOX群が31.6%、GEM群が9.4%と有意差を認めております。PFS中央値はFOLFIRINOX群が6.4ヵ月に対しGEM群3.3ヵ月、OS中央値もそれぞれ11.1ヵ月、6.8ヵ月と有意な差が認められました(表7-2)


瀧内:かつて膵癌でこれほど差の開いた試験があっただろうかと思うほどの結果でしたが、松阪先生はどう思われましたか。


松阪:今回の登録症例は通常の膵頭部領域の癌が3分の1程度と、ステント等のトラブルのない症例が多い点が好成績につながったのではないかと思います。また、PSも良好です。日本で保険が通ったとしても、grade 3/4の有害事象が高頻度で認められますので(表7-1)、症例を絞って使うことになると思います。


大津:問題は、本試験の結果で標準治療がGEM単剤療法からFOLFIRINOX療法へと変わるのか、追試が必要とされるのかでしょうね。


瀧内:結果としては非常に衝撃的ですし、PSのよい方であれば試してみたいと思うデータではないかと思うのですが、監修を担当された佐藤温先生はいかがですか。


佐藤(温)先生
佐藤(温):FOLFIRINOX群とGEM群の差が極めて大きいので、非常に驚きました。このデータからいえば、FOLFIRINOX療法が標準治療といえるのではないかと思います。ただし、日本への臨床導入については慎重に検討すべきだと思います。
 大腸癌でFOLFOXIRI療法13)(L-OHP+CPT-11+5-FU/LV)が日本に導入されなかった理由として、副作用の問題がありました。FOLFOXIRI療法ではCPT-11の用量が165mg/m2でしたが、今回のFOLFIRINOX療法ではCPT-11 が180mg/m2入っております。たとえ本試験のように良好な状態の症例だけを選択したとしても、日本人での忍容性には不安を拭いきれません。また、実臨床で診ている膵癌の患者さんの多くは、PSという尺度だけでは表しきれない病状の不安定さがありますので、導入にあたってはわが国で忍容性確認試験を行って、安全性を検証する必要があると思います。
 この試験の一番のポイントは、「膵癌に対する効果はあまりないと思われていたL-OHPとCPT-11が、GEMの入らないレジメンでGEM単剤療法に勝った」ということです。今回の結果を踏まえ、我々の頭の中もいったんリセットして、膵癌の治療戦略を再構築しなければいけないと考えています。 もちろん、現在解析が進んでいるGEST試験14)の結果も重要です。


大村:これまでGEMをベースにさまざまな治療を試してきましたが、殆どがnegativeで、OSはいずれも6ヵ月前後でした。膵癌の化学療法でOSが2桁を超えるのは初めて見たように思います。


寺島:先生方のご指摘の通り、ある程度の症例数もあってこれほどの差がありますので、わが国でも検証してみる価値があると思います。保険適応外ですので、まずは臨床試験を行ってみて、というところでしょうか。


大津:行うとすれば、高度医療評価試験になるでしょうね。研究者がどこかのグループで追試をしないと、おそらく動かないと思います。


坂本:私から先生方に1つご注意いただきたいのは、本試験が第II/III相試験だということです。Slection designや複数のscreening designの無作為化第II相試験を行うと、さまざまな結果が出ますが、そのなかで成績のよかったレジメンや症例群のarmを第III相試験に引き続いて移行することになります。ということは、FOLFIRINOX群だけ、成績のよい症例群を第III相に移行させている可能性がないとはいえません。このようにバイアスがかかる可能性もありますので、第 II/III相試験の解釈については慎重に考える必要があります。


大津:一般の承認申請試験ではこうした試験は却下されるので、おそらく本試験も治験として通るのは難しいですね。だからこそ、日本でも試験を行うべきかと思います。


瀧内:薬剤の承認や毒性の問題などはありますが、このレジメンに関してはpositiveに捉えられていて、できれば実臨床で試してみたいというところが、先生方の共通したご意見かと思います。
 今年は解釈の難しい演題も多かったのですが、先生方との議論を通して、さまざまな角度から検討することができました。本日はお忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございました。

座談会風景


Lessons from #4010
転移性膵癌に対するFOLFIRINOX療法は、GEM単剤療法と比較してOS、PFS、奏効率に大差をつけ、膵癌では稀に見る良好な成績を収めた。
ただし、本試験は第II/III相試験であり、第III相移行時にバイアスがかかる可能性を考慮すべきである。
日本ではL-OHP、CPT-11ともに膵癌に対する適応はなく、現時点では実臨床に導入することはできない。
日本でも研究者主導による、高度先進医療制度を利用した質の高い臨床試験の実施が待望される。