2012年 米国臨床腫瘍学会年次集会 特別企画座談会 切除不能大腸癌治療における分子標的薬の位置づけ

切除不能大腸癌治療におけるVEGF阻害薬を中心とした分子標的薬の役割 Short Lecture-1 / Jeffrey A. Meyerhardt, MD, MPH

1st-line治療におけるBevacizumabの有用性

IFL+Bevacizumab療法の優越性を証明したAVF2107g試験

 VEGFは内皮細胞の増殖を調節する因子であり、さまざまなVEGF受容体に結合するリガンドです。この経路で最初に開発された分子標的薬はBevacizumabですが、現在はVEGF trapであるAfliberceptのほか、数々の薬剤が開発されています。VEGFは大腸癌の進行早期に発現し、予後不良と関係しています。しかし、VEGF阻害薬によってベネフィットが得られる患者を予測するマーカーは見つかっておらず、腫瘍縮小効果も限られています。

 Bevacizumabの有効性が確認された最初の試験は、切除不能大腸癌未治療例に対する無作為化第II相試験で、OS (overall survival) 中央値はbolus 5-FU/LV群の13.8ヵ月に対し、Bevacizumab 5mg/kg併用群では21.5ヵ月、10mg/kg併用群では16.1ヵ月と延長しました3)

 一方、IFLとの併用を検討したAVF2107g試験では、OS中央値がIFL 群の15.6ヵ月に対しIFL+Bevacizumab群では20.3ヵ月 (HR=0.66, p< 0.001)、PFS (progression-free survival) 中央値はそれぞれ6.2ヵ月、10.6ヵ月 (HR=0.54, p< 0.001)、奏効率はそれぞれ34.8%、44.8% (p=0.004) であり、Bevacizumab併用によって有意に改善しました4)。毒性については、IFL+Bevacizumab群ではgrade 3/4の有害事象が有意に多く、特に高血圧が多くみられたものの、悪心・嘔吐、下痢、骨髄抑制、血栓症などの発現頻度に有意差はなく、管理可能でした。この結果を受けて、FDAはBevacizumabを迅速承認しました。

FOLFOX+Bevacizumab療法の裏付けとなったNO16966試験

 NO16966試験は、1st-lineとしてのXELOXおよびFOLFOX4の有用性とBevacizumabの上乗せ効果を比較した、2×2デザインの無作為化比較試験です。本試験ではXELOX/FOLFOX4群と比べ、XELOX/FOLFOX4+Bevacizumab群でPFSの有意な延長が示されました (8.0ヵ月 vs. 9.4ヵ月, HR=0.83, p=0.0023)5)。しかし、その差は1.4ヵ月に過ぎず、IFLとの併用時に認められた4.4ヵ月の差に比べると小さなものでした。

 その一因として、本試験ではOxaliplatin (L-OHP) による末梢神経障害のために、大半の患者がPDに達する前に治療を中止したことが指摘されています。OS中央値もXELOX/FOLFOX4群が19.9ヵ月であるのに対し、XELOX/FOLFOX4+Bevacizumab併用群では21.3ヵ月であり、Bevacizumab併用による有意な延長は示されませんでした。

 このほか、無作為化比較試験ではありませんが、一次治療としてのBevacizumabの併用効果を検討したのがBICC-C 試験です6)。本試験のOS中央値はFOLFIRI群23.1ヵ月に対しFOLFIRI+Bevacizumab 群では28.0ヵ月、mIFL群17.6ヵ月に対し、mIFL+Bevacizumab 群では19.2ヵ月でした。

Medicareデータから、実臨床におけるBevacizumabの上乗せ効果を検証

 ここで我々の研究を紹介したいと思います。我々は米国立癌研究所 (NCI) による統計データベース“SEER”に登録されたMedicareの利用患者を対象に、1st-lineにおけるBevacizumab併用の有効性――“effectiveness”を検討しました7)。ご存知かと思いますが、Medicareはアメリカの高齢者向け公的医療保険です。

 “Efficacy”と“effectiveness”は一見同じに思えるかもしれませんが、efficacyが“比較対照試験”における薬剤の効果を意味するのに対し、effectivenessは“実臨床”での薬剤の効果を意味します。実臨床では、臨床試験では不適格になるような患者も含まれますし、投与の遅延や減量なども一定していません。化学療法を先行し、後からBevacizumabを開始する場合もあります。

 我々はMedicareデータから、2002年から2007年にかけて大腸癌と診断された65歳以上の患者104,524例を抽出し、さらに「stage IV」「診断から6ヵ月以内に化学療法を施行」「5-FU/Capecitabineを使用」「フッ化ピリミジン系薬剤の初回投与から30日以内にL-OHPまたはCPT-11を併用」などの条件を満たした2,526例を対象に解析を行いました。

 その結果、化学療法 (FOLFOX / FOLFIRI / IFL) 群 のOS中央値は15.9ヵ月であったのに対し、Bevacizumab併用化学療法群では19.0ヵ月であり、有意な延長が認められました (p=0.003) [図2-A]。一方、化学療法のレジメン別では、FOLFOX群とFOLFOX+Bevacizumab群のOS中央値はどちらも19.2ヵ月で差はみられませんでしたが、FOLFIRI/IFL群では13.0ヵ月、FOLFIRI/IFL+Bevacizumab群では18.1ヵ月と有意な延長が認められました (p=0.03) [図2-B, C]

 ここで、「ほかの併用化学療法よりも効果の劣るIFLだからこそ、Bevacizumab併用のべネフィットが得られたのでは?」という疑問が生じます。我々もFOLFIRIとIFLを別々に検討したかったのですが、Medicareの請求データからIFLとFOLFIRIを正確に区別するのは困難です。そこで完璧な定義とはいえませんが、便宜的に「8週間にCPT-11を5回以上投与した場合をIFL」「4回以内の場合をFOLFIRI」とみなして比較を行いました。その結果、OS中央値はIFL群で13.0ヵ月、FOLFIRI群では13.3ヵ月とほとんど差はなく、いずれもBevacizumabの併用により18.1ヵ月に延長しました[図2-D]

 このように、我々の検討ではCPT-11ベースの化学療法では多少のBevacizumab併用の効果がみられたものの、L-OHPベースの化学療法では認められないという結果になりました。

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