寄せる期待

大村 健二 先生 上尾中央総合病院 外科・腫瘍内科 顧問

大村 健二 先生

 GI cancer-netのメインコンテンツである速報レポートの準備は、今年も順調に進んでいます。本学会での発表を日本に居ながらにして、わずかな時間差で知っていただくことを目的に始まったこの企画も、今年で13回目になります。十二支で数えると、二回り目に入りました。

 初めてレポートを行った2001年サンフランシスコの会では、進行・再発大腸癌に対するL-OHP/LV/5-FUのLV/5-FUに対する優越性が報告され、大変な話題となりました(2001年 米国臨床腫瘍学会 #496)。いみじくも、いわゆるSaltz regimenがその有害事象から批判を受けている最中でもありました。L-OHPを併用する場合と単独投与する場合でLV/5-FUの投与法が異なっているところからも、まだまだ手探りで新しいregimenを開発している時代であったことが分かります。その後、FOLFOXとFOLFIRIの全盛期を迎え、molecular targetingがそれに続きました。

 新薬に目を向けますと、Regorafenibは大腸癌に対して初めて有効性が確認されたsmall-molecule drugです。また、TAS-102は5-FUと全く異なった性格を持つ経口ヌクレオシド系抗悪性腫瘍薬です。本学会では、次の時代を築くnew agentsに関する発表を期待します。

寺島 雅典 先生 静岡県立静岡がんセンター 胃外科 部長

寺島 雅典 先生

 今年は、進行・再発性大腸癌においてIFLに対するBevacizumabの上乗せ効果が初めて発表されてからちょうど10年になります。この10年間でさらに幾つかの分子標的治療薬の有効性が確認されておりますが、昔多くの研究者が期待した新薬による飛躍的な治療成績の向上は、実は容易にはなし得がたい夢である事も理解できるようになってきました。

 今年も大腸癌を中心として抗癌剤と分子標的治療薬の様々な組合せによる戦略が報告される予定です。一つ一つはそれほどインパクトが大きい研究とは思えませんが、未だに霞のようなバイオマーカーの研究が今後着実に進歩していけば、治療の個別化が急速に進むものではないでしょうか。その時代を迎えるためには、現在行われている重箱の隅をつつくような緻密な研究の積み重ねとデータの解析、バイオマーカー研究が非常に大切と思われます。そういった視点からも今後の方向性を探りつつ最新の成績をレポートしたいと思います。

 また、今回はわが国で行われた膵癌の術後補助化学療法試験(JASPAC-01試験)の報告もoral sessionで予定されているとの事です。米国におけるS-1の鎖国を解かせる事ができるか大いに期待したいものです。

佐藤 温 先生 弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座 教授
弘前大学医学部附属病院 腫瘍内科 診療科長

佐藤 温 先生

 今年の米国臨床腫瘍学会では、抗VEGF抗体薬 vs. 抗EGFR抗体薬の直接対決が目玉になりそうです。Gastrointestinal Cancer Symposiumで、PEAK試験そしてSPIRIT試験と2つの抗VEGF抗体薬 vs. 抗EGFR抗体薬の比較第II相試験が報告されましたが、いずれも検証試験ではなくその解釈は新たな知見を提示するには至っておりません。今回、第III相試験である FIRE-3試験の結果報告とCALGB/SWOG80405試験の中間解析報告が予定されています。FIRE-3試験はFOLFIRIをベースとした1st-lineにおけるCetuximabとBevacizumabの比較試験ですが、主要評価項目が奏効率であり、どのような結果であれ解釈を要することになります。

 今回は、その他数多く報告される魅力ある試験の解釈にふれていきたいと思います。さらに、できれば地域医療といった視点も取り入れてみたいと思っております。

 と言いますのも、個人的な話なのですが、昨年夏に長年医師として育てて頂いた昭和大学を離れ、あらたに弘前大学に赴任致しました。医学生として勉学に励んだのは琉球大学であり、沖縄から東京、そして青森と、自身の人生を日本縦断の桜前線と重ねて考えております。桜の名所である弘前の地で、見事な桜を開花させたいものだと思っております。今後とも皆様のご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

小松 嘉人 先生 北海道大学病院 腫瘍センター 診療教授

小松 嘉人 先生

 早いもので、もう今年も米国臨床腫瘍学会の時期となりました。北海道はほんの少し前まで雪が残っており、GWの予報でさえ、降雪も注意とのことです。現時点で未だ桜も咲いておらず、とても米国臨床腫瘍学会が近づいているとは思えない状況です。

 今回は事前に大きなプレスリリースもなく、概ね穏やかな定期総会になりそうです。そんな中、やはり本サイトで注目せねばならないのは、FIRE-3試験の報告でしょう。KRAS 野生型の患者さんは、フロントラインで抗EGFR抗体薬を早期に使用すべきか、Bevacizumabでよいのか?皆が疑問に思っていた事に対して、本年のGastrointestinal Cancer SymposiumにてPEAK試験、SPIRITT試験という、それぞれ進行大腸癌の1st-line、2nd-lineにおける初めての抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬の無作為化比較試験結果が報告されました。しかし、KRAS 野生型対象であったにもかかわらず両者の間に差は無く、KRAS は本当にpredictive markerと言えるのか?という疑問すら生じてしまいました。無作為化第II相試験であり、何らかの検証がなされる結果ではないとはいえ、大いにその結果は話題になりました。

 今回のFIRE-3試験は第III相の検証試験ですので、何らかの答えが出るわけです。本当に差がないのか?差がなければ、今後の抗体薬治療はどうすれば良いのか?それらに関わる医療関係者・企業担当者も気が気でないところでしょう。実診療に関わる先生方はさらに頭を悩ますことになるかと思います。

 こうした大きな試験以外に、SOFT試験、ACTS-CC試験など、本邦からの新併用療法の報告もあり、様々な報告が期待される本学会を、私自身も楽しみにしております。

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