岩本 慈能 先生(関西医科大学附属枚方病院 消化器外科 診療講師)
私が今年の米国臨床腫瘍学会で注目していた演題は、FIRE-3試験とnew EPOC試験の2演題でした。1st-lineの分子標的治療薬はBevacizumabなのか、抗EGFR抗体薬なのか。肝転移切除における術前術後化学療法に対するCetuximabの上乗せはあるのかといった、今まさに現場に直結しているclinical questionへの回答となるべき臨床試験だったからです。結果は、さらなる疑問が湧き立つような…、今まで思っていたことと違うような…ものとなり、やはり臨床試験を行わなければわからない、ということを実感しました。また、少し地味ではありますが、FACS試験ではCEAとCTによる術後サーベイランスはあまり有効ではないという結果でしたが、今後、日常診療はどう変わるのでしょうか。さらに、今年は日本からの演題がとても多く、やっと日本が追い付いてきた感もあります。
さて、私がGI cancer-netのレポートを担当させていただくのは今年で3回目となりますが、化学療法と臨床試験の奥深さを毎回再認識させられております。最後になりましたが、ご指導・コメント執筆をいただきました大村先生、スタッフの方々に厚く御礼申し上げます。
中島 貴子 先生(聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 准教授)
今年の米国臨床腫瘍学会では、消化器領域における新薬のpositive dataはありませんでしたが、実臨床において我々が普段感じているclinical questionにヒントを与える試験がいくつも報告され、実りの多い学会でした。大腸癌の領域ではFIRE-3試験、TRIBE試験、new EPOC試験、BRAF変異症例に対するBRAF阻害剤 + MEK阻害剤の報告 (#3507) など興味深い報告が多かった一方で、胃癌の領域ではまたもや分子標的治療薬(Lapatinib)のnegative data (#LBA4001) が報告されました。日本からも、大腸癌に対するSOFT試験、EAGLE 試験、ACTS-CC試験、膵癌に対するJASPAC-01試験、胃癌に対するSAMIT試験、SOS試験など新たな知見が報告され、日本人として非常に印象深い学会でありました。
昨年に引き続きこのレポートを担当させていただき、体力と頭の限界に挑戦いたしました。関係者の皆様とディスカッションしながら内容を検討できたおかげで、なんとか数多くの演題を消化することができましたが、日本の皆様に正確かつフェアに情報を伝えることの難しさを改めて実感したレポートでした。監修の先生方、レポーターの先生方、編集スタッフの方々にこの場を借りて深く感謝申し上げます。
谷口 浩也 先生(愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 シニアレジデント)
2012年のレポーター体験記に山崎健太郎先生が、「来年の米国臨床腫瘍学会では抗EGFR抗体薬とBevacizumabの直接比較の試験結果の報告や、新規バイオマーカーに関する報告を期待したいです」と書かれていました。今年の米国臨床腫瘍学会は、まさに山崎先生の予言どおりであったと思います。PEAK試験、FIRE-3試験では、1st-lineから抗EGFR抗体薬を使用することによりBevacizumab併用療法と比較して大きくOSが延長するpopulationの存在が示唆され、新しい「RAS 野生型」の概念に関する発表(#3511, #3631)はそれを裏付ける内容でした。また、BRAF 変異型大腸癌に対してもFOLFOXIRI + Bevacizumab療法の有用性が示唆された(#3505)一方、新規分子標的薬剤同士の併用療法に関する演題発表(#3507)など、治療成績改善への期待を感じました。
来年発表されるであろうCALGB80405試験の結果次第ですが、RAS 野生型大腸癌に対する1st-lineは抗EGFR抗体薬併用療法に完全に置き換わるかもしれません。1年の猶予が与えられたと考え、この1年で国内でのRAS 変異検査法の確立と、抗EGFR抗体薬の毒性マネジメントのさらなる改善をはかることが腫瘍内科医に突きつけられた宿題です。
速報レポートは早く正確に情報を提供する必要があり苦労しましたが、ご指導いただいた小松先生を始め、監修の先生方、スタッフの方々に助けていただき、何とか任務を終えることができました。本当にありがとうございました。
坂東 英明 先生(国立がん研究センター東病院 消化管内科 がん専門修練医)
本年度初めて、米国臨床腫瘍学会の演題速報のレポーターを担当させていただきました。米国臨床腫瘍学会に参加できない年はこのサイトで情報収集をしていたので、依頼をいただき大変光栄でした。今年の米国臨床腫瘍学会では、大腸癌肝転移症例に対する術前術後化学療法 + Cetuximabの有効性をみたnew EPOC試験や、胃癌に対するCapeOx + Lapatinibの有効性をみたTRIO-013/LOGiC試験がnegativeな結果に終わり、残念ながら今後の臨床を大きく変える報告とはなりませんでした。しかし、既にCetuximabの解析で報告されていた、negative predictive markerとしてのNRAS mutationの意義がPanitumumabの複数の試験の解析で再現されたこと(#3511, #3617, #3631)や、1st-lineで併用する薬剤としてBevacizumabと抗EGFR抗体薬を直接比較する前向き試験であるFIRE-3試験の結果が報告されるなど、意義深い報告が多数ありました。
これらの報告を現地で直接取材し、他のレポーターの先生とディスカッションし、監修の先生に指導を受けながらまとめていくことは、自分にとって他に得がたい非常に貴重な経験でした。また、現地の時差と直前に迫る締め切りと戦いながら期日までに報告をまとめることは、これまでとは別の経験をさせてくれるものでした。今回の取材で得た知識、経験を胸に臨床に戻り、それらを患者さんに還元していきたいと思います。最後になりましたが、私の書いたレポート原案をほぼ瞬時にチェック、コメントしてくださった寺島先生、どうもありがとうございました。