BRAF 変異に対するアプローチ
#3514 / #3515:BRAF V600変異に対する分子標的薬併用療法
BRAF 阻害剤 + Cetuximab ± PI3K阻害剤の検討 (Abstract #3514)
BRAF 阻害剤 + Panitumumab ± MEK阻害剤の検討 (Abstract #3515)
室:続いては、BRAF 変異に関する演題を2つ取り上げたいと思います。
谷口:BRAF V600E変異は大腸癌の5~15%に認められ、極めて予後不良です。BRAF 変異陽性メラノーマに対して有効性を示したBRAF 阻害剤が大腸癌でも試みられましたが、単剤での奏効率は低く4)、MEK阻害剤との併用でも有効性を示せませんでした5)。その理由として、MEKとBRAF を阻害したときにEGFRあるいはPI3K経路の再活性化が起こり、耐性に関係していることが基礎研究から明らかになり、抗EGFR抗体薬ならびにPI3K阻害剤を併用する第I/II相試験が行われました。
まず、BRAF 阻害剤Encorafenib + Cetuximab ± PI3K阻害剤BYL719併用療法の第I相臨床試験 (#3514) です。用量漸増しながら2剤併用、3剤併用へと進め、評価対象51例中、用量制限毒性 (DLT) としては2剤併用でgrade 3の関節痛、嘔吐、QTc延長、3剤併用群で間質性肺炎、クレアチニン上昇 (grade 4) を各1例認めましたが、忍容可能でした。
臨床効果としては、約半数の症例で30%以上の腫瘍縮小を認め、奏効率は2剤併用、3剤併用ともに約30%と良好でした (図5)。非常に期待できるため、第II相試験が行われています。
続いて、BRAF 阻害剤Dabrafenib + Panitumumab ± MEK阻害剤Trametinibの第I/II相臨床試験 (#3515) です。BRAF 阻害剤 + 抗EGFR抗体薬から始め、MEK阻害剤を追加する用量漸増試験になっています。
安全性ではDLTを認めず、皮疹と発熱がみられたものの忍容可能でした。臨床効果としては、Dabrafenib + Panitumumabの2剤併用でも15例中2例にPRを認め、3剤併用では15例中7例で30%以上の腫瘍縮小を認め (図6)、非常に期待できる結果になっています。
以上、基礎的データから耐性機序を明らかにし、これまでない3剤併用の組み合わせで良好な結果が得られました。今後、第II相部分が開始される予定です。
室:寺島先生、いかがでしょうか。
寺島:BRAF 変異型大腸癌は治療抵抗性で予後不良ですが、同様のBRAF 変異を示すメラノーマとはシグナル伝達系の活性化が異なるようです。大腸癌では、MAPK経路の他の分子やPI3K経路、EGFRなども阻害する必要があり、これらの試験が企画されました。確かに効果があり、治療選択肢が少ない腫瘍に対して期待が持たれますが、分子標的薬の3剤併用なのでコストが問題になります。今後は、効率よくERK活性を抑制する機序の検討を進めることも視野に入れるべきだと思います。
室:BRAF 変異型は稀少ですが、野生型の半分程度の予後しかありません。肺癌ではALK融合遺伝子転座が5%程度、ROS1融合遺伝子転座が1%程度の頻度で薬剤の開発が進んでいることを考えると、何らかの治療開発は絶対に必要であり、本報告はその1つの方向性だと思います。
寺島:ただ、BRAF は肺癌のようにdriver geneというわけではないですよね。
室:そうですね。単一のdriverというわけではないので、本試験のような3剤併用になってきます。
小松:今後の開発はどうなっているのでしょうか。
室:本試験の結果を受けて第II相試験が開始される予定ですが、同様の試験は本邦でも進行中です。また、BRAF 阻害剤は省いてもいいのではないかという話も出ており、MEK阻害剤 + 抗EGFR抗体の2剤併用についての検討も始まる予定です。
Reference
- 4) Kopetz S, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3534
- 5) Corcoran RB, et al.: 2012 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3528
Lessons from #3514 / #3515
- BRAF V600変異型大腸癌に対するBRAF阻害剤Encorafenib+ Cetuximab ± PI3K阻害剤BYL719の2剤あるいは3剤併用療法の効果は良好であり、期待できる治療である。
- BRAF V600変異型大腸癌に対するBRAF阻害剤Dabrafenib + Panitumumab ± MEK阻害剤Trametinib併用療法も効果が高く、期待できる。
- 大腸癌ではBRAF 変異例が5~15%であることや、分子標的薬の併用によるコストの問題もあるが、治療抵抗性で極めて予後不良なBRAF 変異患者にとっては大きな福音となると期待される。