消化器癌治療の広場

切除不能進行・再発大腸癌の治療アプローチ: Aggressive or non-aggressive -患者の臨床的因子に基づいた治療選択-

Case discussion

1-2: Non-aggressive approach

腫瘍の性質がaggressiveからindolentに変化

■2011年6月

Sobrero: CASE 3の患者さんが次に受診されたのは、最終受診から4ヵ月後の2011年6月です。その間は治療を中断していましたが、画像上では進行はみられませんでした (図10)。まさに奇跡といってよいでしょう。薬物治療が腫瘍の生物学的特性 (biology) を変えたというのが私の解釈です。胸部CTは陰性、QOLは極めて良好、ただしCEAは205 ng/mLに上昇しました。
 治療を中断する前はFOLFOX + Bevacizumabを長期投与され、毒性のためにBevacizumabを休薬したところでしたが、我々はL-OHPを休薬し、Capecitabine + Bevacizumabに戻すことにしました。しばらく投与を続けるとまた関節痛が現れましたが、忍容可能でした。

■2011年9月

Sobrero: その後、状態はある程度安定していましたが、KRAS 検査を実施した結果、G13D変異が認められました。さて、再び質問したいと思います。次の3つの選択肢のうち、どれを選びますか?

どの治療を選択するか?

設楽: もしCEAが顕著に上昇しており、神経毒性が出ていなければ、L-OHPを再導入すると思います。

吉野: 私は設楽先生とは違う意見ですね。Capecitabine + Bevacizumabを継続し、もし画像検査で再発が確認されたらFOLFOX + Bevacizumabに変更します。

Sobrero先生

Sobrero: なるほど。では外科の先生にお尋ねしたいと思います。翌2012年の4月までCapecitabine + Bevacizumabを継続したと仮定します。切除不能だった時点 (2010年2月) からもう2年以上が経過しています。そして同月、肝S5およびS6に大きな病変が2個認められました。PETではその他の部位に異常はなく、CEAは1,000 ng/mLで、切除できる見込みがあります。

加藤: 手術を考慮しますね。

Sobrero: ありがとう、私は外科医からその言葉が聞きたかったのです。今日は来てよかった。私の結論も同じく手術です。CASE 3は2年前には確かにaggressiveな腫瘍でしたが、今や進行の遅い“indolent”な腫瘍に変わった。つまり、薬物治療によって腫瘍のbiologyが変化したのです。残存している2つの病変を切除すれば、この患者さんはあと1年ほど無病状態を保つことができるかもしれません。

吉野: Aggressiveな腫瘍がindolentな腫瘍に変化したというのは、非常に重要なポイントですね。Aggressiveな薬物治療によって腫瘍のbehaviorをindolentに変えることができれば、外科医は治癒の見込みが得られますから。

Sobrero: 治癒というよりは「大幅な寛解」、あるいは「ほぼ治癒」の可能性というべきでしょうか。最近はRegorafenib 26)やAflibercept 27)、そして近々発表されるであろうPerifosine 28,29)などの有望な薬が登場し、さらなる生存期間の延長が期待されます。今後はCASE 3のように、後方でも切除可能な症例が増えるかもしれません。その意味で、外科医の役割がより強くなるものと考えています。
 大腸癌の薬物療法を振り返ると、より多くの薬剤、より高い効果、より長い治療期間 (そして、より強い毒性と高い治療費) といういわばシンプルな形で進化してきました。しかし実臨床では、PDと判定されることなく治療が中断されたり、既投与の薬剤が再導入されるケースが増え、治療抵抗性の定義は曖昧化しています。また、“治療ライン”と対立する治療戦略の概念も登場しています。
 臨床試験の世界は、実臨床におけるこうした現象とはかけ離れています。我々は最新のエビデンスを正しく理解し、実臨床に応用することが求められますが、一方で患者さん1人1人の多様な臨床的因子を検討し、その人にとってのベストな治療を選ぶことも重要であることをご理解いただけたらと思います。

室: Sobrero先生、ご参加のディスカッサントの先生方、最後までありがとうございました。今回はSobrero先生のレクチャーと症例提示から、非常に多くのことを学ばせていただきました。

Sobrero: こちらこそ、私もディスカッションに参加できてよかったです。本日はお招きいただき、ありがとうございました。

会場写真

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