監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
結腸癌に対する腹腔鏡手術と開腹手術による生存比較:無作為化試験の長期予後
The Colon Cancer Laparoscopic or Open resection Study Group, Lancet Oncol. 2009; 10(2): 44-52
腹腔鏡手術による結腸切除は開腹手術と比較して回復が早く、合併症のリスクが低いことが示されている。しかし、ポート部位の再発率が高いとする報告があることから、大腸癌に対する腹腔鏡手術の適応を妥当化するためにはDFSの非劣性を証明する必要がある。そこで、今回のColon Cancer Laparoscopic or Open Resection(COLOR)試験では、結腸癌に対する腹腔鏡手術と開腹手術の長期予後を比較した。
1997年3月〜2003年3月に欧州の29病院を受診したBMI 30 kg/m2以下、18歳以上の孤立性結腸腺癌患者1,248例を、治癒切除として腹腔鏡手術をおこなう群(L群、627例)、開腹手術をおこなう群(O群、621例)に無作為に割り付けた。主要評価項目は3年DFSとし、両群の差(O群−L群)の95%CIが事前に規定した非劣性の境界である7%を超えない場合に、O群に対するL群の非劣性が示されたとした。副次評価項目は短期の合併症発生率と死亡率、断端陽性率、原発部位・ポート部位・創部の再発率、遠隔転移発生率、OS、輸血、QOL、費用などとした。
解析対象とした適格症例数はL群534例、O群542例であった。L群の102例は開腹手術に変更されたが、本試験はintent-to-treat解析を採用しているため、これらの患者はL群として解析した。追跡期間中央値はL群52ヵ月、O群55ヵ月であった。
3年DFSはL群74.2%、O群76.2%(p=0.70)で、その差は2.0%(95%CI −3.2〜7.2、HR 0.92)であり、95%CIの上界が7%を超えたため、開腹結腸切除の3年DFSが良好であることを否定できなかった。3年OSはL群81.8%、O群84.2%(p=0.45)、その差は2.4%(95%CI −2.1〜7.0、HR 0.95)であった。開腹手術に変更された患者をO群として解析した場合の3年DFSはL群74.3%、O群76.0%(p=0.51)、その差は1.7%(95%CI −3.5〜6.9)であった。
術後28日以内の合併症発症率はL群21%、O群20%(p=0.90)、術後28日以内の死亡率1% vs 2%(p=0.47)、断端陽性率2% vs 2%(p=0.96)であり、いずれも同等であった。
以上のように、本試験では主要評価項目である結腸癌切除患者の3年DFSにおいて、開腹手術に対する腹腔鏡手術の非劣性を証明することはできなかった。しかし、両群の差はわずかであり、また、術前に開腹手術に変更された腹腔鏡手術群の患者を開腹手術群として再解析すると、事前に規定した非劣性の基準に合致することから、腹腔鏡手術を日常的に実施することは臨床的な観点からは妥当であると考えた。
本試験の問題点として、世界的に肥満が増加しているにもかかわらず、BMI 30 kg/m2を超える症例を不適格としたことが挙げられるが、これには、登録を開始した1997年当時は肥満患者に対する腹腔鏡手術の症例が限られていたため、患者の安全性を考慮したという背景がある。また、T4症例の約半数が腹腔鏡手術から開腹手術に変更されたが、これは術前画像診断を主にバリウム注腸と大腸内視鏡に基づいて実施したためであり、腫瘍の大きさや浸潤状態に関する詳細な情報を得るためにはCTまたはMRIが推奨される。
今後は腹腔鏡手術のほうが優れていることを示すための研究が求められよう。
腹腔鏡手術は結腸癌の標準手術となるか?
― Quality Controlの重要性を示唆したRCT ―
本論文は、The aim of the Colon Cancer Laparoscopic or Open Resection(COLOR)試験の報告である。結腸癌に対する腹腔鏡手術(L群)が開腹手術(O群)に非劣性であることを証明することを目的として、主評価項目は3年無病生存率(Disease free Survival; DFS)であった。
今まで発表されたLacyらの報告や、COST試験、CLASICC試験では、L群のO群に対する優越性や、非劣性が証明されているが、COLOR試験ではIntent-to-treat(ITT)での解析で、3年DFSにおけるL群の非劣性は証明できなかった。論文中では、ITT解析での3年DFSの差は2%であり、腹腔鏡手術から開腹手術にコンバートした症例をO群として解析すると、3年DFSは1.7%の差となり、統計学的にも非劣性となるとしている。しかし、解析対象の約20%にあたる102例が開腹手術にコンバートされており、このコンバート率は非常に高い。また、本邦と欧米ではリンパ節郭清の方法に差はあるが、郭清個数がL群、O群ともに中央値が10個(3-20)と少ない。さらには、T4症例の約半数が腹腔鏡手術から開腹手術に変更されており、術前診断、手術技量のQuality Controlがどの程度であったかが問題である。3年DFSの差は少なく、腹腔鏡手術を日常的におこなうことは問題ないとしているが、この結論を受け入れるとRCTを行う意味が薄まることとなる。本試験で非劣性が証明できなかったことは、多施設共同研究におけるQuality Controlの重要性を示唆したものと捉えると良いと考える。
本邦では、進行結腸癌に対する腹腔鏡手術と開腹手術のRCT(JCOG0404)の症例登録が先日終了した。JCOG0404試験はQuality Controlが厳格な試験であり、この結果が、進行結腸癌に対する腹腔鏡手術の位置づけを決定すると言っても過言ではないであろう。
監訳・コメント:北里大学医学部 佐藤 武郎(外科学・講師)
北里大学医学部 渡邊 昌彦(外科学・教授)
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