監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
転移性結腸・直腸癌に対する化学療法+bevacizumab+cetuximabと化学療法+bevacizumabの比較
Tol J, et al., N Engl J Med. 2009; 360(6): 563-572
転移性結腸・直腸癌に対する現在の標準的なfirst-line治療は、fluoropyrimidineをベースとした化学療法と抗VEGFモノクローナル抗体bevacizumabとの併用である。CPT-11抵抗性患者に対しては、抗EGFRモノクローナル抗体cetuximabの単独投与またはCPT-11との併用が有効であることが示されている。今回の無作為化オープンラベル第III相試験では、転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line治療として、capecitabine+L-OHP+bevacizumabにcetuximabを追加した場合の効果をプロスペクティブに評価した。
対象は治癒切除不能な転移巣を有する18歳以上の結腸・直腸癌で、WHO PS 0〜1、測定可能病変、転移巣に対する全身化学療法歴なし、無作為化から6ヵ月以内の補助化学療法歴なし、骨髄・肝・腎機能良好などを適格条件とした。2005年6月〜2006年12月にオランダ内の79のセンターで755例の患者を無作為化し、378例をcapecitabine+L-OHP+bevacizumab群(CB群)、377例をcapecitabine+L-OHP+bevacizumab+cetuximab群(CBC群)に割り付けた。CB群はcapecitabine 1,000mg/m2を1日2回、day 1〜14に経口投与+L-OHP 130mg/m2をday 1に静注+bevacizumab 7.5mg/kgをday 1に静注した。CBC群はこれらに加えてcetuximabをday 1に400mg/m2、それ以降は250mg/m2を毎週静注した。両群とも1コース3週として、L-OHPは最大6コース投与、capecitabineは7コース目から1,250mg/m2に増量した。
主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、安全性、奏効率、QOLのほか、転帰の予測因子としての腫瘍組織中のKRAS変異状況およびEGFR発現状況とした。
追跡期間中央値は23ヵ月、PFS中央値はCB群10.7ヵ月、CBC群9.4ヵ月でCB群が有意に優れていたが(p=0.01)、OS(20.3 vs 19.4ヵ月)および奏効率(50.0% vs 52.7%)には有意差がみられなかった。死亡は193例 vs 214例であった。
KRAS変異状況と転帰との関連については、CBC群の変異型例と野生型例を比較すると、PFS(8.1 vs 10.5ヵ月、p=0.04)および奏効率(45.9% vs 61.4%、p=0.03)は変異型例が有意に不良であった。変異型例をCBC群とCB群で比較すると、PFS(8.1 vs 12.5ヵ月、p=0.003)およびOS(17.2 vs 24.9ヵ月、p=0.03)はCBC群が有意に不良であった。
EGFRは496腫瘍で評価され、315腫瘍(63,5%)で陽性であった。EGFR陽性腫瘍のPFSはCBC群で有意に不良であった(9.8 vs12.2ヵ月、p=0.003)。
グレード3/4の有害事象はCB群73.2%、CBC群81.7%に発現したが(p=0.006)、cetuximabによるグレード3の皮膚障害を除外すると有意差はみられなかった(73.2% vs 74.3%、p=0.74)。Overall QOLおよび全般的健康は、ベースライン時は両群で同等であったが、治療期間中の改善は両項目ともCB群がCBC群と比較して有意に顕著であった(それぞれp=0.007、p=0.03)。
以上のように、転移性結腸・直腸癌に対する標準的なfirst-line治療であるcapecitabine+L-OHP+bevacizumabにcetuximabを追加したところ、PFSが短縮し、QOLが低下した。Cetuximab追加例では、KRAS遺伝子の変異状況が転帰の予測因子であると考えられた。現在、多くの分子標的治療薬が利用可能であり、併用療法が妥当な戦略であると考えられているが、今回の結果は、転移性結腸・直腸癌に対しては、抗VEGF抗体および抗EGFR抗体の両者を化学療法と併用することには否定的なものであった。
転移性結腸・直腸癌に対するL-OHP併用化学療法+bevacizumabにcetuximab付加の上乗せ効果は期待できない
本試験は転移性結腸・直腸癌に対する現在の標準的なfirst-line治療の一つであるcapecitabine+L-OHP+bevacizumab(CB群)にcetuximabを付加した場合(CBC群)の上乗せ効果を期待した検討であるが、主評価因子のPFSはCBC群で有意に不良であった。これはPFS不良と副作用のために途中で中止されたCPT-11もしくはL-OHP併用化学療法+bevacizumabに抗VEGFモノクローナル抗体panitumumabを付加したPACCE trialのL-OHP併用群の結果と類似するものである。PFS不良の原因が、L-OHP併用に起因するものか、bevacizumabとcetuximabのnegative interactionによるものか、他の理由によるかはこれからの検討を待たねばならないであろう。しかし、KRAS変異別でも野生型例でCB群とCBC群に差がなく、変異型例でもCBC群でPFSおよびOSが有意に不良であった。これらの結果から、cetuximab関連の副作用が結果に影響した可能性が示唆されようとも、cetuximab付加の上乗せ効果には期待できない結果と言えよう。
監訳・コメント:藤田保健衛生大学医学部 前田 耕太郎(消化器外科・教授)
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