論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

初回診断時に切除不能肝転移を有する結腸・直腸癌患者:治癒の可能性はあるか?

Adam R, et al., J Clin Oncol. 2009; 27(11): 1829-1835

 結腸・直腸癌肝転移の約80%は診断時に切除不能である。新規化学療法レジメンの導入により生存期間は延長しているものの、成績は治癒的肝切除に及ばない。転移が進展している患者は転帰が不良であることが知られているが、外科切除による長期生存例の報告は増加している。しかし、特に初回診断時切除不能肝転移患者の治癒の可能性については明確ではない。
 現時点では、治癒の評価は手術を受けた患者のみで実施されており、また治癒の判定には長期DFSが最適であるにもかかわらず、OSが使用されることが多い。そこで本研究では、初回診断時切除不能結腸・直腸癌肝転移患者に対する化学療法による腫瘍縮小後のrescue surgeryの長期転帰を、DFSを指標として評価するとともに、治癒の予測因子を判定した。治癒の定義は、最終的な肝切除または肝外転移切除からのDFSが5年以上であり、かつ最終追跡時に無病生存していることとした。
 1998年2月から2002年7月に、連続184症例に上述の治療を実施した。年齢中央値58.3歳、男性55%、平均転移数5.3、腫瘍径中央値50mm、両葉性転移76%であった。74%が1 lineの化学療法で手術可能になった。5年OS 33%、10年OS 27%、5年DFS 19%、10年DFS 15%であった。
 肝切除後5年以上の追跡が可能であったのは148例で、このうち24例(16%)が追跡期間中央値121.2ヵ月で「治癒」と判定された。「非治癒」は112例で、12例は判定条件に適合しないため除外した。治癒群の16例は初回肝切除で治癒に到達し、6例は肝再発に対する切除後に治癒した。12例がDFSを10年以上継続し、現在も追跡中である。
 治癒群と非治癒群で腫瘍特性等を比較すると、転移の腫瘍径が30mm未満の症例は治癒群30%、非治癒群12%(p=0.03)、転移数が3を超える症例は33% vs 63%(p=0.02)、肝切除前の化学療法を2 line以上実施した症例は13% vs 33%(p=0.05)、病理学的CR率は21% vs 1%(p<0.001)であった。多変量解析による治癒の独立予測因子は、転移の診断時最大径30mm未満、肝切除時転移数3以下、および病理学的CRであった。
 以上のように、初回診断時に切除不能であった結腸・直腸癌肝転移患者に対する化学療法による腫瘍縮小と肝切除により、16%が治癒に至ることが示された。これらの患者については、数年前までは緩和的化学療法が考慮されるのみであり、長期生存の望みはなかったことから、今回の結果は非常に重要である。今後はさらに効果的な化学療法や分子標的治療が開発され、治癒切除と併用することによって、より多くの患者で治癒を達成できるようになると考えられる。

監訳者コメント

術前化学療法によって切除不能大腸癌肝転移を治癒可能にする

 本論文は、化学療法によって切除不能から切除可能となった大腸癌肝転移に対し肝切除を行うことで、真の治癒がどれほど得られたかを論じている。主な評価項目は5年無病生存率(Disease free Survival)とし、治癒の予測因子も判定した。
 切除不能の肝転移の基準を「肝切除後の残肝量が30%未満、徹底した術前化学療法の既往がある場合は残肝量40%未満と予測される場合」としている。しかし、化学療法後も肝切除後の残肝量が不十分と予測される場合には、門脈塞栓術、ラジオ波によるアブレーション、二期的肝切除などを考慮している。初回肝切除でR0が治癒群:48%、非治癒群:34%と目立って低い。術後化学療法は、治癒群:92%、非治癒群:93%に行われた。注目されるのは、治癒群の46%がR1であることである。このことは術後化学療法と再肝切除の有用性を示唆しているといえよう。
 本邦では、進行・再発大腸癌肝転移症例に対して行う術前mFOLFOX6とその後の肝切除を組み合わせた治療の第II相試験(ROOF試験)が進行中である。現在の標準治療の中心であるmFOLFOX6を術前化学療法として、その有効性、安全性を評価することを目的としている。この結果が、今後さらに効果的な抗癌剤や分子標的薬での術前化学療法と切除術との併用治療の、評価の基盤となるであろう。

監訳・コメント:社会保険中京病院 東島 由一郎(外科・部長)

論文紹介 2009年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場