監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
ステージIII結腸癌に対する術後補助化学療法としての5-FU持続静注+LV±CPT-11隔週投与の無作為化第III相試験:PETACC-3試験
Van Custem E, et al., J Clin Oncol. 2009; 27(18): 3117-3125
進行結腸・直腸癌に対する術後補助化学療法には、長年にわたり5-FUベース+LVによる化学療法レジメンが用いられている。5-FUはbolus投与が広く行われてきたが、持続静注の方が、効果が高く、毒性が少ないことが示されている。切除不能進行結腸・直腸癌に対するfirst-line治療として5-FU持続静注+LV+L-OHP(FOLFOX)または5-FU持続静注+LV+CPT-11の効果はほぼ同等と考えられることから、これらのレジメンによる術後補助化学療法の様々な試験が実施されてきた。今回のPETACC-3試験ではステージIII結腸癌(一部の施設ではステージIIを含む)を対象として、5-FU持続静注+LVによる術後補助化学療法にCPT-11を追加した場合の効果改善を評価した。
2000年1月〜2002年4月に、18〜75歳、WHO PS<2のステージII/III結腸腺癌または腹腔内直腸癌の完全切除症例3,278例を無作為化し、LV5FU2レジメン群3,048例のうちLV5FU2群(LF群)1,497例、LV5FU2+CPT-11群(LFI群)1,485例に試験治療を実施した。LF群はLV 200mg/m2 2時間静注後に5-FU 400mg/m2をbolus投与し、次いで5-FU 600mg/m2を22時間持続静注した(day 1、2)、LFI群はこれにCPT-11 180mg/m2 30〜90分静注(day 1)を追加した。投与は1コース2週として12コース実施した。また、上記以外にArbeitsgemeinschaft Internische Onkologie(AIO)レジメン群259例に高用量5-FU持続静注+LV±CPT-11投与を実施した。
主要評価項目はステージIII症例のDFSのLF群とLFI群との比較、副次評価項目はステージIII症例のRFSのLF群とLFI群との比較、ステージIIIの全症例(LV5FU2レジメン群とAIOレジメン群)のDFS、ステージII/III全症例のDFS、OS、安全性、遺伝子マーカーおよび遺伝子発現マーカーとDFSまたはOSとの関連とした。
追跡期間中央値は66.3ヵ月、ステージIII症例の5年DFSはLF群54.3%、LFI群56.7%で、いずれの時点のDFSもLFI群のほうが高かったものの有意差は認められなかった。またAIOレジメン群も含めたステージIIIの全症例、AIOレジメン群のステージIII症例、およびステージIIを含む全症例の解析でも、CPT-11追加によるDFSの有意な改善は認められなかった。ステージIII症例の5年RFSはLF群57.2% vs LFI群61.0%、5年OSは71.3% vs 73.6%であり、いずれもLFI群が高いものの有意差はなかった。しかしT分類(T4 vs T1+T2+T3)、N分類(N2 vs N1)の不均衡を補正すると、ステージIII症例のDFS(リスク補正HR 0.86、p=0.021)、RFS(HR 0.84、p=0.009)、OS(HR 0.83、p=0.022)のいずれもLFI群が有意に良好であった。
グレード3/4の治療関連非血液毒性は、LV5FU2レジメン群(31%)と比較してAIOレジメン群(55%)、LF群(24%)と比較してLFI群(38%)で頻度が高かった。すべての群で消化管関連の有害事象が多くみられた。血液毒性で最も多かったのは好中球減少であり、特にLFI群で頻度が高かった。
以上のように、本試験ではステージIII進行結腸癌の術後補助化学療法として5-FU+LVにCPT-11を追加してもDFS、RFS、OSに有意な改善はみられなかった。LFI群にはLF群と比較してT4症例が多く、また相対用量強度が低かったためにCPT-11追加による効果がマスクされた可能性があるが、本試験では術後補助化学療法でのCPT-11を含むレジメンの使用は支持されなかった。
今後、結腸癌に対する術後補助化学療法はL-OHPを中心に展開される
本論文は、ステージIII結腸癌に対する術後補助化学療法として、LV5FU2に対するCPT-11の上乗せ効果を検証した第III相比較試験の報告である。CPT-11はこれまでにbolusあるいはinfusional 5-FU+LVとこれにCPT-11を加えたレジメンとを比較した第III相試験(CALGB89803 [Saltz LB., J Clin Oncol. 2007;25(23):3456-3461]、ACCORD2 [Ychou M., Ann Oncol. 2009; 20(4):674-680])が報告されている。結果はいずれもnegativeであり、有害事象はCPT-11併用群で高頻度であった。本試験は両群で評価対象症例2,094例と過去2つの試験より大規模に行われたが 主要評価項目であるDFSに有意差を得ることができなかった。これは同じく進行・再発大腸癌のkey drugであるL-OHPがbolusあるいはinfusional 5-FU+LVとの併用(FLOX、FOLFOX)においてDFSを延長し、欧米において標準治療と位置付けられていることとは対照的な結果である。また、直近のESMO2009では、経口FU製剤capecitabineとL-OHPの併用によるDFSの延長が報告されている(NO16968試験:XELOXA)。今後の結腸癌に対する術後補助化学療法はL-OHPを中心とした検討が進められるものと考えられる。
監訳・コメント:九州大学大学院 江見 泰徳(がん先端医療応用学・准教授)
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