論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

進行胃癌・食道胃接合部癌に対するfirst-line治療としてのweekly docetaxel+CDDP+5-FU療法

Overman MJ, et al., Cancer. 2010; 116(6): 1446-1453

 進行胃癌および食道胃接合部癌に対するdocetaxel+CDDP+5-FU(DCF療法)の3週毎投与は高い有効性が示されている一方、グレード3以上の治療関連有害事象が高率に認められる。したがって本レジメンは、特に高齢者やPSが不良な患者に対しては適用が制限されている。本試験ではこの問題を回避するため、DCFをweekly投与に変更し、転移性または進行胃癌、食道胃接合部癌、または食道癌に対するfirst-line治療としての有効性と安全性を後向きに評価した。
 University of Texas M. D. Anderson Cancer Center(MDACC)で2002年11月〜2006年10月にweekly DCFを受けた117例のうち、適格症例95例(胃癌28例、食道胃接合部癌37例、食道癌30例)のデータを解析した。適格条件は、転移性または局所進行切除不能癌に対するfirst-line治療としてweekly DCF投与を受けたこと、分子標的治療を受けていないこと、weekly DCFを3週以上受けたことなどとした。95例の年齢中央値は62歳で、うち21例は70歳以上、18例はECOG PS 2であった。
 Weekly DCF投与法は、docetaxel 20mg/m2 30分静注+CDDP 20mg/m2 1時間静注+5-FU 350mg/m2 15分bolus投与を毎週1回、6週連続後に2週休薬する8週を1コースとした。
 主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は安全性(特に血液毒性)、OS中央値、time to progression(TTP)中央値とした。
 投与週数中央値は全例では10週であり、70歳以上の症例10週、PS 2症例6週であった。RECISTガイドラインに基づく評価可能80例のORRは34%(CR 1例、PR 26例)、SD 41%、PD 25%であった。グレード3/4の血液毒性としては貧血9%、好中球減少4%が認められたが、グレード3/4の血小板減少は認められなかった。好中球減少性発熱が発現した患者はなかったが、非好中球減少性発熱が8例にみられた。非血液毒性は、疲労53%、悪心・嘔吐54%、下痢29%であった。化学療法施行中の有害事象により入院を要したのは23%、また8%で用量減量、20%で治療延期または中止を必要とした。治療関連死は認められなかった。
 追跡期間中央値9ヵ月(範囲1〜53ヵ月)で95例中82例が死亡した。1年OSは36%、2年OS 13%、TTP中央値(非試験治療を追加した症例を除く)4.1ヵ月、OS中央値8.9ヵ月であった。70歳以上の症例のTTP中央値は6.8ヵ月、OS中央値10.9ヵ月、PS 2症例のTTP中央値1.6ヵ月、OS中央値5.59ヵ月であった。多変量解析からは、OSに関連する有意な因子はECOG PSのみであり、ECOG PS 2症例はOSが有意に不良であった(HR 2.88、p=0.001)。
 本試験は後向きデザインではあるものの、weekly DCFは進行胃・食道癌患者に対するfirst-line治療としての新規の緩和的化学療法レジメンであることが示唆された。しかしECOG PS 2の患者では、忍容性が改善されたとはいえ本法の効果を得にくいことが判明した。したがって、今後はこの3剤による新たな投与スケジュールの前向き試験が望まれる。

監訳者コメント

標準的化学療法とするには第III相試験が必要

 V325 studyの結果、従来の進行再発胃癌汎用治療法(widely used regimen)であるCDDP/5-FU療法にdocetaxelを上乗せしたDCF療法が米国における標準的化学療法(standard regimen)になっている。V325 studyでは同時にQOL評価も行いDCF療法の有用性も証明している。一方、グレード3/4の好中球減少は82%と高率であり厳重な管理が必要とされている。本研究は、V325 study公表前からの症例を含み、対象はおのずからPS不良、腹膜播種、前治療ありなどのDCF療法に何らかの理由で適応外となった症例であろう。ORRも34%、血液毒性も少ないことから、現在米国でのclinically accepted regimenになっているが、DCF療法を凌駕する成績ではなく、後向きな成績であり、筆者も述べているように第III相試験を行わなければstandard regimenとして認知されない。わが国ではTS-1/CDDPが標準化学療法とされているが、low doseあるいはsplit dose CDDP/TS-1が汎用されている。その主な理由は原法のCDDPが入院を要するためであり、科学的ではない。治療成績も原法を凌駕する成績はなく、非劣性の第III相試験を行わなければstandard regimenとして認知されない。

監訳・コメント:駿河台日本大学病院 藤井 雅志(消化器外科・部長)

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