監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
進行胃癌または食道胃接合部癌に対するCDDP+TS-1 vs CDDP+5-FU静注の多施設共同第III相試験:FLAGS試験
Ajani JA, et al., J Clin Oncol. 2010; 28(9): 1547-1553
進行胃癌/食道胃接合部癌の治療にはほとんど進歩がみられない。一般にはCDDPと5-FUの併用療法が最もよく使われるが、副作用が強く簡便性に欠けることから、より有効で安全な治療法が必要とされていた。進行胃癌に対する有効性に関してTS-1は5-FU持続静注との比較で非劣性を示し、CDDPとの併用を検討した第II相試験からはその効果、安全性が期待された。こうした成績に基づき、本試験ではTS-1+CDDPがCDDP+5FUに比較して有用性に優れるとの仮説を立て、検証した。
対象は18歳以上、化学療法歴のない切除不能、局所進行/転移性胃癌または食道胃接合部癌患者で、病理学的に腺癌が確認されたPS 0または1の症例とし、2005年5月〜2007年3月に登録された1,053例をCDDP+TS-1(TS-1群:527例、実際に治療を受けた例は521例)またはCDDP+5-FU(5-FU群:526例、実際に治療を受けた例は508例)に無作為に割り付けた。対象患者の内訳は、白人86.0%、アフリカ系アメリカ人1.2%、アジア人0.8%、アメリカ先住民/アラスカ先住民1.0%、その他11.1%である。
TS-1群にはTS-1 50mg/m2/day(分2)を21日間経口投与、CDDP 75mg/m2を28日ごとに3時間以内で静注投与し、5-FU群には5-FUを1,000mg/m2/24時間を120時間静注投与、CDDP 100mg/m2を28日ごとに3時間以内で静注投与した。CDDPは両群とも6コースで中止し、TS-1と5-FUは病勢の進行または忍容不能の毒性が発現するまで継続した。
主要評価項目はCDDP+TS-1のCDDP+5-FU静注に対するOSの優越性、副次評価項目は奏効率、PFS、time to treatment failure(TTF)、および安全性とした。
OS中央値はTS-1群8.6ヵ月 vs 5-FU群7.9ヵ月(HR 0.92、95%CI 0.80-1.05、p=0.20)、奏効率29.1% vs 31.9%(p=0.40 ; 評価可能症例はTS-1群402例、5-FU群385例)、奏効期間の中央値6.5ヵ月 vs 5.8ヵ月(HR 0.77、95%CI 0.57-1.03、p=0.08 ; 評価可能症例はTS-1群117例、5-FU群123例)、PFS中央値4.8ヵ月 vs 5.5ヵ月(HR 0.99、95%CI 0.86-1.14、p=0.92)で、いずれも両群に有意差はみられなかった。TTFの中央値は両群とも3.8ヵ月であったが、全体としてはTS-1群が有意に優れていた(HR 0.87、95%CI 0.77-0.99、p=0.03)。
安全性の面ではTS-1群が優れていた。少なくとも1つの治療関連有害事象(20.5% vs 29.7%、p≦0.05)、治療関連死(2.5% vs 4.9%、p≦0.05)は5-FU群で有意に多くみられ、血液毒性ではグレードIII/IVの好中球減少(32.3% vs 63.6%)、血小板減少(8.3% vs 13.5%)、白血球減少(13.7% vs 33.2%)、全グレードの発熱性好中球減少/好中球減少を伴う感染(5.0% vs 14.4%、以上p≦0.01)、好中球減少関連死(0.8% vs 2.8%、p≦0.05)の5-FU群での頻度が有意に高かった。非血液毒性も、肝機能の低下がTS-1群で多くみられた(全グレードで16.9% vs 7.7%、p≦0.01)ことを除いて、グレードIII/IVの口内炎(1.3% vs 13.6%)、低カリウム血症(3.6% vs 10.8%、いずれもp≦0.01)など全体に5-FU群で多かった。
現在、未治療の進行胃癌/食道胃接合部癌患者に対する治療法開発に際しては、患者にとってより安全性および簡便性が高く、かつOSを延長させるという点が重視されている。本試験では、OSに関してはCDDP+TS-1群が有意に優れる点は立証できなかったものの、CDDP+5-FU静注に対する、安全性および簡便性の高さが示された。OSについては、患者の居住地区の医療環境および医療従事者の経験的な習熟度に強く関連していると考えられている。しかし、OSを損なうことなく安全性および簡便性が改善されたことは患者にとって有益なことであるため、CPPD+5-FU静注にかわってCDDP+TS-1の実施が考慮されてよいものと考える。本併用療法をプラットホームとしたさらに効果的なレジメンの開発も望まれるところである。
FLAGS試験からみたグローバル試験の難しさ
FLAGS試験の結果は、改めてグローバルトライアルとは何かを考えさせられる結果となった。サブセット解析の結果をみてみると治療成績に地域格差があることがわかる。北米のデータが極めて良好で、南米のデータが逆に極めて悪かった。その原因として何が考えられるであろうか?1つにはTS-1という経口剤に対する慣れがあげられる。欧米におけるTS-1+CDDP併用療法に関する第I/II相試験は米国で行われている。M.D. Anderson Cancer Center等、G.I. Cancerの臨床試験に精通したハイクオリティの施設で行われた。その試験結果は極めて有望で、まさしくFLAGS試験でのサブセット解析(北米エリア)と同じような結果が報告されている(JCO & Cancer)。正直第I/II相試験で、TS-1の使い方を手の内にいれていたとも考えられる。その一方で他の地域の施設は、その多くはCROが選んだ施設であり、施設クオリティの確認がどこまでなされていたのか不明である。TS-1は経口剤であり、治療コンプライアンスが治療結果に大きな影響を及ぼすと考えられる。それを考慮すると厳しい施設選定や薬剤に対するある程度の使用経験は必要だったのかもしれない。
残念ながら今回の結果で、TS-1+CDDPは世界共通レジメンにはなりえなかった。そしてわが国と欧米その他の国々との間に、標準的治療に大きな違いができたといえる。新薬開発においてグローバルトライアルは必須な状況である。その際、ベースラインレジメンをどうするか、エンドポイントをどうするのか、地域における医療格差(セカンドラインの違い)等々、近年新たな問題点が明らかとなってきた。今後グローバルトライアルの進め方について十分な議論が必要であることをこの試験は教えてくれていると思われる。
監修・コメント:大阪医科大学 瀧内 比呂也(化学療法センター・教授)
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