論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

転移または進行胃/食道胃接合部腺癌治療に対するsorafenib+docetaxel+CDDPの第II相試験 : ECOG 5203試験

Sun W, et al., J Clin Oncol. 2010;28(18): 2947-2951

 Sorafenibはpaclitaxel、CPT-11、CDDPなどの化学療法剤と併用してもそれらの薬剤に関連する毒性を増強することなく安全に投与することができ、さまざまな癌のモデルにおいて、その抗腫瘍効果が期待されている。またsorafenibのdocetaxel+CDDPとの併用については、epirubicin+CDDP+5-FUまたはdocetaxel+CDDP+5-FUといった3剤併用と同等の効果がみられると考えられる。本試験は転移または進行胃/食道胃接合部腺癌に対するsorafenib+docetaxel+CDDPの有用性と安全性とを検討した第II相オープンラベル単一群試験である。
 対象は、組織学的に転移または進行胃/食道胃接合部腺癌と診断された、測定可能病変を有する18歳以上、ECOGのPS 0または1の患者44例である。治療歴については術後補助化学療法または放射線化学療法歴以外は不適格、その他の癌については非メラノーマ皮膚癌、子宮頸部上皮内癌、および癌治療後無病生存期間(DFS)を5年以上維持している場合以外は不適格とした。
 Sorafenibは400 mgを1日2回、21日間連続経口投与、docetaxelは75 mg/m2をday 1に1時間で静注投与、CDDPは同じく75 mg/m2をday 1のdocetaxel投与30〜60分後に1〜2時間で静注投与した。21日を1コースとし、治療はPDまで継続した。主要評価項目はRR、副次評価項目はOS、PFS、安全性である。
 患者の年齢中央値は58歳(範囲28〜85歳)、男性84%、遠隔転移80%、局所進行20%、PS 0は61%、66%は低分化腺癌で、74%は食道胃接合部腺癌であった。
 44例中18例(41%)がPRに達し、SDは14例、PDは3例のみであった。評価不能例は9例であったが、これは主に既定のスケジュール通りに画像診断を行うことができなかったことによる。
 データ解析時、44例中38例でPDを認め、32例(72.7%)が死亡していた。PFS中央値は5.8ヵ月(90%CI 5.4-7.4ヵ月)、OS中央値は13.6ヵ月(90%CI 8.6-16.1ヵ月、遠隔転移群11.3ヵ月、局所進行切除不能群17.6ヵ月)である。
 治療期間中40例にグレード3以上の治療関連有害事象が認められた。グレード3以上の有害事象で頻度が高かったのは好中球減少(28例)、白血球減少(18例)、脱水(9例)、手足症候群(7例)、疲労(7例)、悪心(7例)などである。グレード3の電解質異常は20%に認められた。治療関連死は2例であり、1例は治療関連死を否定できない敗血症、もう1例は腫瘍出血によるものであった。
 忍容性について評価したところ、10例は化学療法に起因する有害事象のために4コースに達する前に治療を中止していた。10例はCDDPまたはdocetaxelの用量を75%に減量した。35例で治療中のいずれかの時点においてsorafenib投与の中断または用量変更の必要が生じ、19例は1コース目でそれを余儀なくされた。Sorafenibの忍容性は単剤で用いた場合と同等であると考えられる。全例の投与コース数の中央値は4.5コース(範囲1〜28コース)であり、20例は6コース以上の治療を受けた。自らの意思により治療を中止した患者は9%であった。
 本試験の奏効率は41%であったが、これは大規模試験で報告されたdocetaxel+CDDP+5-FUあるいはepirubicin+fluoropyrimidine+プラチナ製剤の3剤併用療法の奏効率に匹敵するものであり(それぞれ37%と42〜48%)、PFSおよびOSもこれらの試験と同様であった。このことから、sorafenibは切除不能な転移または進行胃/食道胃接合部腺癌に対するdocetaxel+CDDP療法の抗腫瘍効果を増強することが示唆される。また、本療法は予期せぬ毒性を示すことはなく、高血圧、血管イベントも認められず、発症した有害事象も管理可能なものであった。本試験では骨髄抑制の評価に影響を及ぼさないよう予防的造血剤の投与は許可しなかったことを追記しておきたい。
 Sorafenib+docetaxel+CDDPの有効性プロファイルは有望なものであり、忍容性は良好であった。今後はsorafenib+化学療法併用の試験の実施が望まれる。

監訳者コメント

進行胃癌や食道胃接合部癌に対する分子標的治療導入のための開発上の問題点

 本邦では標準治療としてTS-1+CDDP療法が汎用されており、本試験で採用されたdocetaxel+CDDP療法に違和感を覚える読者が多いであろう。しかしながら米国で標準治療の一つとされるdocetaxel+CDDP+5-FU療法と無作為化第II相試験で同等の効果を示したdocetaxel+CDDP療法を採用したのは、5-FU がsorafenibの毒性プロファイルと一部重複するため併用は厳しいと判断したためと思われる。Sorafenibは多標的チロシンキナーゼ阻害剤であり、bevacizumabなどの抗体療法に比し、多くのoff-targetを有する。そのため、sorafenibなどの多標的チロシンキナーゼ阻害剤を、殺細胞性薬剤や他の分子標的治療薬との併用療法を開発する際には、毒性プロファイルの観点から重複しない薬剤を選択すること、さらに併用する「標準治療」の薬剤強度の低下がないことが成功へのカギといえる。現在、進行胃癌や食道胃接合部癌を対象にした国際共同試験が多数進行中である。今までにHER-2陽性胃癌に対するtrastuzumabの有効性が報告されているが、その多くは臨床試験で検証中である。近い将来、次々と分子標的治療薬が胃癌分野にも導入され、バイオマーカーに基づく個別化が実現されることを期待する。

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 吉野 孝之(消化管内科・医長)

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