監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
進行胃癌のfirst-line治療としてのoxaliplatin+S-1の第II相試験(G-SOX Study)
Koizumi W, et al., Ann Oncol. 2010; 21(5): 1001-1005
日本では進行胃癌の治療はJCOG9912試験およびSPIRITS試験の結果に基づき、S-1+cisplatin併用が標準療法とされているが、この併用療法は副作用の面で多少問題があり、より安全性の高いレジメンが求められている。Oxaliplatinを含むレジメンがcisplatinを含むレジメンより安全性に優れることを様々な試験が報告している。そこで本試験では、進行胃癌に対するSOXレジメン(S-1+oxaliplatin)によるfirst-line治療の有用性と安全性とを検討した。
対象は組織学的または細胞診により切除不能進行または再発胃癌と診断された患者で20歳以上、ECOG PS 0〜2、化学療法歴がなく(ただし、登録180日前までに術後補助化学療法を完了した症例は適格)推定余命2ヵ月以上の者とした。食道癌および食道胃接合部癌は除外した。
2007年4月〜12月に登録された対象患者55例にPD、忍容不能の毒性の発現、および同意の撤回までSOX療法を3週ごとに実施した。Oxaliplatin 100 mg/m2はday 1に静注投与し、S-1 80 mg/m2/day(分2)は14日間経口投与、その後7日間の休薬期間を設けた。
主要評価項目はRR、副次評価項目はOS、PFS、time to treatment failure(TTF)、安全性とした。
有効性の評価可能例数は51例で、CR 0%、PR 59%、SD 26%、PD 10%、RRは59%(95%CI 44.2%-72.4%)、疾患制御率(CR+PR+SD)は84%(95%CI 71.4%-93.0%)であった。
追跡期間16.5ヵ月での生存期間は16.5ヵ月(95%CI 13.2-22.3ヵ月)、PFS 6.5ヵ月(95%CI 4.8-11.2ヵ月)、TTF 4.8ヵ月(95%CI 4.0-5.6ヵ月)(すべて中央値)、1年生存率は70.6%(95%CI 58.1%-83.1%)と優れていた。データのカットオフ日には8例で治療が継続されており、治療を中止した46例中41例(89%)はsecond-line治療を受けた。治療中止の主な理由は、PD(63%)、副作用(28%)、および同意の撤回(2%)であった。
安全性の評価可能例数は54例で、うち33例(61%)にグレード3/4の有害事象がみられた。主なものは白血球減少4%、好中球減少22%、血小板減少13%、貧血9%、食欲不振6%、疲労6%であった。
全グレードの血小板減少は中央値42日後に発現し、血小板数の最小値は113日目に認められた。血小板減少の期間は全グレードで21日であった。Oxaliplatinの毒性として特徴的な感覚性神経障害は48例(89%)に認められたが、グレード3/4は2例(4%)のみであった。治療関連死は認められなかった。
以上のように、SOXレジメンはS-1+cisplatinやREAL-2試験におけるepirubicin+oxaliplatin+capecitabineに匹敵する有効性を有していた。グレード3/4の血小板減少の頻度はSOXレジメンのほうがS-1+cisplatinと比較して高かった(13% vs 5%)ものの、oxaliplatin 100 mg/m2を用いたSOXレジメンは高い有効性および優れた忍容性を有することが示された。生存期間の中央値が16.5ヵ月と優れていたのは、PFSに加えて安全性プロファイルが良好であり、89%という高率でsecond-line治療が受けられたことによると考えられる。これらのことから進行胃癌に対するSOX療法によるfirst-line治療は現行のS-1+cisplatinや5-FU+cisplatinに代わり得るものであると考えられる。今後もSOXレジメンのさらなる研究が望まれる。
SOXはS1+cisplatinを凌駕するか?
REAL-2においてはoxaliplatinがcisplatinに対する非劣性を証明しており、ドイツの臨床試験FLO vs FLPにおいてもoxaliplatinは有意差がないものの生存期間は長く、65歳以上のサブセットでは有意に生存期間の延長を報告している。SPIRITS試験のサブセットでは高齢化するに従いS-1とS-1+cisplatinの差がなくなってきていることから、高齢者にはcisplatinよりもoxaliplatinが向いている可能性がある。Oxaliplatinは末梢神経障害が多少高頻度であるがcisplatinに比べて入院の必要がないこと、悪心、嘔吐、食欲不振が少ないことなどのメリットが多い。本試験では山田らが報告している結腸直腸癌に対するSOX療法の血小板減少(グレード3/4)28%を回避する目的で、oxaliplatin 130 mg/m2を100 mg/m2に減量することにより、血小板減少(グレード3/4)を13%まで減少させることができている。このdose-intensityの減弱にもかかわらず、高い奏功率と長いPFS、OSを記録することに成功している。安全性の高さはsecond-lineへの移行率の向上に寄与しているものと思われる。現在SOX vs S-1+cisplatinの比較試験が行われており、結果によってはSOXはS-1+cisplatinを凌駕する可能性がある。試験の結果が楽しみである。
監訳・コメント:北里大学医学部 小泉 和三郎(消化器内科学・主任教授)
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