論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

高用量imatinibに抵抗性を示す進行消化管間質腫瘍患者に対するimatinib+低用量doxorubicin療法

Maurel J, et al., Cancer, 2010; 116 (15): 3692-3701

 Imatinib治療を受けた消化管間質腫瘍(GIST)患者のうち20%は治療開始後6ヵ月以内に進行する一次耐性を示し、この場合、続く治療にも抵抗性を示すことが多い。二次耐性は、典型的にはKITエクソン11変異を持つGISTの患者に見られ、その原因として1.KITの過剰発現、2.KIT或いはPDGFRA遺伝子の獲得変異、3.他のチロシンキナーゼの活性化が報告されている。KITを過剰に発現しているユーイング肉腫の細胞に対し、imatinibとdoxorubicinを併用投与するとアポトーシスが増強され、それぞれの単独療法と比較し効果が改善されるという実験結果が報告されている。このデータを基に、imatinib抵抗性GIST患者におけるimatinib+doxorubicin併用療法の臨床効果を検討する第I〜II相試験を行った。
 対象は18歳以上でdoxorubicin治療歴を有さない、ECOGがPS 0〜2、RECISTに基づきPDが認められるかimatinib 800 mg/dayに不忍容の局所進行または転移性GIST患者である。
 第I相試験では、対象を2群に分け、doxorubicin 15 mg/m2/週または20 mg/m2/週を各群少なくとも3例ずつ患者に投与し、imatinibは全例に400 mg/dayを経口投与した。第I相試験では併用療法の安全性を評価し、最大耐用量(MTD)を得た。これを第II相試験で4ヵ月間(4コース)投与し、PDを認めなかった患者には維持療法としてPDが認められるまでimatinib 400 mg/day投与を継続した。また、in vitroの実験でも併用療法の効果を検討した。
 登録症例26例のうち、有効性は22例、安全性は26例全例で評価可能であった。3例(10%)はimatinib 800 mg/dayに不耐性を示した患者である。RECISTによるPRは14%(3/22例)、臨床的ベネフィット(PRまたは6ヵ月以上のSD)は36%(8/22例)で認められた。EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)基準によるFDG-PETの判定ではPRは8例であったが、RECISTに基づいて放射線医が独立して行った判定でPRはこの内2例のみで、二つの判定の一致性は低かった。
 PFSの中央値は3.3ヵ月、生存期間の中央値は13ヵ月であった。PETで疾患がコントロールされていると評価された患者(PRまたはSD、14例)のOSは14.6ヵ月(95%CI 12.3-17ヵ月)で、PDと判定された患者(6例)の4.1ヵ月(95%CI 0.8-7ヵ月)と比較して有意に長かった(p=0.008)。
 OSの中央値をKIT変異の有無別にみると、KIT野生型群(8例)はPFS 7ヵ月(95%CI 1.7-12.3ヵ月)、OS 14.6ヵ月(95%CI 14.4-14.9ヵ月)で、非野生型群(変異10例、変異の評価せず6例)はPFS 2.7ヵ月(95%CI 1.7-3.7ヵ月、p=0.134)、OS 5.6ヵ月(95%CI 0-1.8ヵ月*、p=0.249)で、野生型群のほうが優れる傾向にあった(有意差なし)。
 Imatinib+doxorubicin併用療法は忍容性に優れており、12例(46%)が4コースすべてを受けた。投与コースの中央値は3コース(範囲1〜4コース)であった。主な副作用は脱毛、無力症、浮腫、粘膜炎で、心毒性イベントはみられなかった。
 In vitro試験では、生理濃度の場合、消化管肉腫細胞株のGIST882細胞に対するimatinib単独療法による増殖抑制またはアポトーシスなどの作用はほぼ認められなかったが、doxorubicinとの併用では高い相乗効果を示し、単独療法と比較して細胞増殖率は20〜50%低下、アポトーシス率は20〜40%上昇**した。アポトーシスに関しては両薬剤の濃度が高いほど効果が高かった。
 以上のように、imatinib+doxorubicin併用療法は安全性にも優れ、高用量imatinibの効果が認められないGIST患者、とくにKIT野生型の患者にとってきわめて期待のもてる治療法であると考えられる。今後の臨床試験では、imatinibやsunitinibに不耐性を示す患者に対し、化学療法、IGF1R阻害剤、新規のチロシンキナーゼ阻害剤(nilotinib、sorafenibなど)またはHSP-90阻害剤を組み合わせる治療法も注目されてくると考えられる。

*論文中の表記をそのまま掲載
**論文中では、20〜0%上昇と記載があるが、文面より20〜40%上昇と掲載

監訳者コメント

「イマチニブ耐性GISTに対するcombination therapy」

 標準投与量400mg/dayのimatinibに耐性を示したGISTに対し、欧州では高用量800mg/dayのimatinib治療が行われている。高用量800mg/dayへの増量imatinib治療は数%のPRを示し、PFS中央値が約3ヵ月である。現在、日本、米国、欧州等多くの国ではimatinib耐性GISTに対し、multi-tyrosine kinase inhibitorのsunitinibが投与されるが、その奏功率は5〜10%、PFS中央値は約8ヵ月と限られている。
 本研究はこの様なimatinib耐性GISTに対しcytotoxic agentであるdoxorubicinと分子標的治療薬でcytostatic effectsを持つと考えられているimatinibを組み合わせ、治療効果を上げようとする試みである。in vitroの細胞株や動物実験から、両者の組み合わせは、1.MDR等ABCトランスポーターを阻害したり、2.薬剤を血中から腫瘍組織中、更には腫瘍細胞中に移行しやすくし抗腫瘍効果を増強する、と期待されている。本研究は、phase I+II試験として行われ、両者の組み合わせの安全性は良好で、特に遺伝子変異を持たない野生型GISTに治療効果を認めている。この様に幾つかの治療薬を組み合わせて治療効果を高める手法は、GISTでもこれまで幾つかなされてきたが、現在まで明確な治療効果を認められているレジメンは無い。本研究でも、最も治療効果の期待できる野生型GISTに絞っても、PFSが211日とsunitinibと同程度である。
 現在、治療手段が非常に少ないGIST或いは肉腫に対して、今後、遺伝子解析を参考にしながら個別化し、この様な分子標的治療薬+殺細胞効果薬或いは分子標的治療薬同志を組み合わせ、治療効果の高い適切な治療レジメンが開発されることを期待する。

監訳・コメント:大阪警察病院 西田 俊朗(外科・副院長)

論文紹介 2010年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場