論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

[18F]フルオロデオキシグルコースポジトロンCT(FDG-PET)でステージ分類された食道癌患者の予後:化学放射線療法後のFDG-PETは切除の有用性を予測するか

Monjazeb AM, et al., J Clin Oncol. 2010; 28(31): 4714-4721

 局所進行食道癌に対する化学放射線療法(CRT)後の切除術は、多くの試験により手術単独療法に比べて支持されているが、CRT後の切除術による死亡や合併症の増加など有効性が不明確なため、CRT後に直ちに手術を受けなくてもよい患者を同定することに注目が集まっている。
 局所進行食道癌患者においてFDG-PETが病理学的効果と予後を予測できることは、著者らの研究をはじめ、多くの研究により示されている。本試験では、FDG-PETでステージ分類された患者にCRTまたは CRT+切除術を行い、FDG-PETによるステージ分類の予後予測への役割と、CRT後に切除が不要な患者の同定に対する役割を検討した。
 対象は組織学的にI〜IV期と確認され、CRT単独(CRT群)またはCRT+切除術(trimodality:TM群)が行われた食道癌患者163例で、CRT前後にPETを施行した。PETでFDGの集積(SUV)が3以下をPET-CRとし、CRに到達しなかった群(<PET-CR)と予後を比較した。またTM群では手術標本の病理学的所見から残存腫瘍のないものおよび顕微鏡的に残存腫瘍の疑いのあるものを病理学的レスポンダーとした。生存例の追跡期間の中央値は30ヵ月である。
 TM群は88例、CRT群は75例であった。CRT群はTM群に比べ治療前の背景因子が不良であり、医学的に手術不適応(50%)やCRT後に切除不能または転移と判断された(36%)症例などである。CRT後にFDG-PETによる効果判定が可能であった症例は105例(TM群55例、CRT群50例)であった。
 コホート全体の生存期間の中央値は16.6ヵ月、2年生存率は39%、無遠隔転移(DMF)期間の中央値は29.7ヵ月、無局所再発(LFF)期間は中央値に達しなかった。TM群とCRT群を比較すると、OS(中央値23.1 vs 13.9ヵ月、p<0.01)、LFF(中央値未到達 vs 24.5ヵ月、p<0.01)、DMF(中央値41.7 vs 12.3ヵ月、p=0.02)のいずれもTM群が優れていた。
 CRT後のPET評価が可能であった105例中、31%でPET-CRが得られた。PET-CR と<PET-CRを比較すると、コホート全体ではPET-CRは生存期間(中央値29.7 vs 15.9ヵ月、p<0.01)、およびLFF(中央値未到達 vs 38.8ヵ月、p=0.01)が予測可能であった。またCRT群でも同様にPET-CRは生存期間(38 vs 11ヵ月、p<0.01)、2年生存率(71% vs 11%、p<0.01)およびLFF(中央値未到達 vs 10ヵ月、2年LFF75% vs 28%、p<0.01)が予測可能であったが、TM群では有意でなかった。またPET-CRに到達したCRT群の全生存期間ならびにLFFはTM群と同等であった。
 多変量解析にてPET-CRが独立した予後因子かどうかをしらべたところ、CRT群では生存期間(HR=9.82)とLFF(HR=14.13)の有意な因子であった。TM群についてはFDG-PETによる効果判定と病理学的効果判定とを対比したが、有意な関係はみられなかった(病理学的レスポンスはPET-CR53%、<PET-CR33%、p=0.18)。
 PET-CR到達に影響を与える因子は腫瘍の組織学的分類のみであり、腺癌は扁平上皮癌に比べてPET-CRが得られにくいことが単変量・多変量解析から明らかになった(58% vs 24%、p<0.01)。ただし組織型によらずPET-CRは予後良好であった。
 以上のように、CRT群においてPETでCRと判定された症例はTM群に比べて治療前の背景因子が不良であるにもかかわらず、同等の生存期間および局所制御が得られた。一方TM群ではPETによるCR判定のbenefitはみられなかった。PET-CRはCRT後に切除しなくても予後が良好であるため、CRT後に切除術を追加することによるbenefitが見出せないものと考えられた。今後、食道癌治療におけるFDG-PETの有用性を検証する前向き試験が望まれる。

監訳者コメント

食道癌のCRT後切除術の可否判定に18F-FDG PETは有用

 FDG-PETはブドウ糖の18F標識体である18F-FDGが腫瘍細胞に高く集積することを利用して癌のステージングや再発診断のみならず治療効果判定にも有用とされている。固形癌の治療効果判定にはRECISTが用いられているが、大きさの変化による判定が必ずしも治療効果を反映しないことがあり、PETによるいわゆるMetabolic Responseの有用性が提唱されている。術前CRTの効果判定にPETを利用する試みは以前からされており、病理学的な効果や予後と相関することが報告されている。
 本論文でPETによりCRと判定された症例は切除術を行わなくても予後良好であり、背景因子が不良にもかかわらず切除術が施行された群と同等の生存期間や局所制御が得られた。またPETはCRT後の転移など切除不適例の検出にも役立ち、PETによるステージ分類とCRTの効果判定に基づく治療選択の有用性が示された。

監訳・コメント:群馬大学医学部附属病院 織内 昇(核医学科・准教授)

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