監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
切除可能局所進行食道癌に対する術前化学放射線療法とcetuximabとの併用療法:多施設共同第IB/II相前向き試験(SAKK 75/06)
Ruhstaller T, et al., J Clin Oncol. 2011; 29 (6): 626-631
術前化学放射線療法は局所進行食道癌に対する標準療法として認められているが、予後はなお不良で新しいアプローチが求められている。Cetuximabは、放射線療法ベースのレジメンの効果を増強し、化学放射線療法との併用において忍容性にも優れるとの報告もあるが、全身治療の有害事象は放射線治療や手術などの局所治療を実施した場合に予期しない有害反応を示す場合があるため、その副作用を無視することはできない。そこで、本SAKK試験では多施設共同第IB/II相前向き試験のプロトコルを作成し、cetuximab+化学放射線療法の安全性を中心に有用性を検討した。
本試験では18〜70歳の未治療の胸部下部食道および食道胃接合部の扁平上皮癌または腺癌(Siewert type I)を有する患者で、切除可能な局所進行(T3N0、T1-3N+、T4Nx)、転移なし、WHOのPS 0-1を対象とした。
2007年4月〜2008年11月に登録された28例(年齢中央値62歳[範囲45〜70歳]、男性24例、腺癌15例、リンパ節陽性23例)に対し、まず寛解導入療法[CDDP 75 mg/m2 day 1、docetaxel 75 mg/m2 day 1、cetuximab 250 mg/m2 day 1、8、15(初回用量400 mg/m2:1コース目day1):3週ごとに2コース]を実施した。その後、27例に対し、放射線線量45Gyを5週間で照射する放射線療法に免疫化学療法を加えた免疫化学放射線療法(CIRT)を実施した。免疫化学療法は7例がCDDP 25 mg/m2、cetuximab 250 mg/m2投与を受け(コホート1)、用量制限毒性(LT)が認められた症例が3例未満であった場合に次の7例がCDDP 25 mg/m2、docetaxel 20 mg/m2、cetuximab 250 mg/m2投与を受けた(コホート2)。さらにLTが3例未満であった場合、残りの13例(コホート3)にコホート2と同じ治療を実施した。治療スケジュールはいずれのコホートも週1回5コースとした。CIRTの終了後に手術を実施した。
主要評価項目は、プロトコルに規定されたCIRT中のLT発現、副次評価項目は、本法実施可能性、病理組織学的奏効率、event-free survival(EFS)、OS、およびfeasibility rateとした。
LTはいずれのコホートにおいても認められず、コホート2および3の20例がLTなしにCIRTを完遂したことから、CDDP 25 mg/m2、docetaxel 20 mg/m2、cetuximab 250 mg/m2の週1回投与がCIRTの推奨レジメンと考えられた。
手術までの全過程を完遂したのは24例(86%)、手術は25例で実施した。手術不能の原因は、心疾患およびCIRT後のPDであった。
グレード3/4の有害事象で最も頻度の高かったものは、導入療法では発熱性好中球減少(6例、21%)、CIRTでは食道炎/嚥下障害(7例、26%)であった。発疹は導入療法中に3例(11%)、CIRT中に1例(4%)で認められたが、照射野で悪化することはなかった。手術の合併症では感染症が最も多く10例(40%)で生じた。3例(12%)で縫合不全を認め、1例は再手術を要したが、2例は保存的に治癒した。治療関連死は認められず、術後30日時点で全例が生存していた。
病理学的完全縮小/ほぼ完全縮小(Mandardの基準でTRG [tumor regression grade] 1/2)は、intention-to-treat解析で68%(19例)、手術実施例では腺癌群86%(12例)、扁平上皮癌群64%(7例)であった。
追跡期間中央値18.2ヵ月で28例中8例(29%)がPD(遠隔転移7例、うち2例は遠隔および局所進行)、6例が死亡した。EFSは6ヵ月で93%、12ヵ月で82%、OSはそれぞれ96%、86%であった。
以上のように、局所進行食道癌に対しCDDPとdocetaxelを含む術前化学放射線療法にcetuximabを併用する治療法は安全で、実施可能なものであった。一方、食道腺癌に対し術前化学放射線療法にcetuximabを併用したECOG 2205試験は毒性のために中止されたが、線量とcetuximabの用量は本試験と同様であり、化学療法としてL-OHPと5-FU静注を用いたことが中止の一因であると考えられる。本試験は安全性と実施可能性に主眼を置いたものであり、規模も小さいため、cetuximabの追加効果については現在第III相試験にて検討中である。
食道癌に対する分子標的治療薬
Cetuximabは、分子量151,800のIgG1サブクラスのヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体であり、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした分子標的治療薬である。リガンドのEGFRへの結合をブロックすることでEGFRを介したシグナル伝達を阻害したり、また抗体依存性細胞障害活性(ADCC)を介し腫瘍の増殖を抑制したりすると考えられている。
大腸癌や頭頸部領域扁平上皮癌並びに非小細胞肺癌ではすでに有用とされているcetuximabは、本試験によって進行食道癌においても有効性と安全性についての可能性が示された。今後はKRAS、BRAFなどのバイオマーカー研究が癌腫を超えて行われ、個別化治療の可能性が示されるだろう。
本試験では、治療に対して奏効を示した(pCRおよびPR)症例が、68%(腺癌:86%、扁平上皮癌:64%)と良好な成績であった。本試験の追跡期間の中央値は18.2ヵ月と短期解析だが、EFSは6ヵ月で93%、12ヵ月で82%、OSも96%、86%と良好であった。今後の食道癌領域の治療において遺伝子解析を参考にしながら個別化し、このような分子標的薬と化学放射線療法を組み合わせた、高い治療奏効率を示す治療レジメンがさらに開発されるだろう。
監訳・コメント:慶應義塾大学病院 落合 大樹(一般・消化器外科・助教)
高橋 常浩(一般・消化器外科・助教)
和田 則仁(一般・消化器外科・助教)
竹内 裕也(一般・消化器外科・講師)
北川 雄光(一般・消化器外科・教授)
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