監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
転移性胃癌患者に対するTS-1+CPT-11+L-OHPによる3剤併用療法の第II相試験:臨床成績および遺伝薬理学的成績
Park SR et al., Ann Oncol. 2011; 22(4): 890-896
転移性胃癌治療においては近年capecitabine+CDDPの2剤併用、またはepirubicin+CDDPまたはL-OHP+capecitabineの3剤併用療法が広く用いられている。しかし転移性胃癌の生存期間中央値は12ヵ月にも満たず、より効果的なレジメンが求められている。TS-1は、CDDPとの併用で5-FU+CDDPに匹敵する効果が認められ、さらに安全性は有意に優れていることが最近の第III相試験により報告されている。そこで、転移性胃癌のfirst-line治療としてのTS-1+CPT-11+L-OHP(TIROX)療法について第II相試験を実施し、臨床成績、および臨床成績とUDPグルクロン酸転移酵素(UGT)1A遺伝子多型との関連を検討した。
対象はECOG PS 0〜2、18歳以上、転移を有する胃腺癌患者とした(転移/再発に関して未治療。ただし本試験登録の少なくとも12ヵ月前に完了しているL-OHPまたはCPT-11を除く術後補助化学療法歴は許可)。2007年6月〜2007年12月に44例を登録し、TIROX療法を3週ごと最大12コース実施した。TS-1はday 1-14に40 mg/m2を1日2回経口投与、CPT-11はday 1に150 mg/m2を90分で静注、L-OHPはday 1に85 mg/m2を120分で静注した。
主要評価項目は奏効率、副次評価項目はtime to progression(TTP)、OS、安全性、UGT1A遺伝子型と臨床成績との関係とした。以下に主な解析結果を示すが、期間はすべて中央値である。
44例の年齢中央値は54歳(範囲27〜66歳)、95%がECOG PS 1であった。
ITT解析による奏効率は75%(CR:14%、PR:61%)であり、不確定PR 9%、SD 5%、PD 7%であった(2例は1コース後にlost follow-up)。画像評価された42例のうち、1例を除く41例で腫瘍径の減少が認められた(ベースラインからの腫瘍径変化中央値は−75.3%、範囲−100〜3.5%)。奏効期間は9.9ヵ月(範囲2.8〜23.5ヵ月)であった。
追跡期間23.8ヵ月でTTPは10.2ヵ月、OSは17.6ヵ月、2年生存率は47.7%であり、解析時点で19例が生存していた。CR到達例は非到達例と比較して、TTPが17.2 vs 9.1ヵ月(p=0.004)、OSが24.5 vs 15.8ヵ月(p=0.039)と有意に優れていた。
胃原発腫瘍を有する39例中10例(26%)は生検にて局所の完全消失(gastric CR)が確認された。Gastric CR例は非gastric CR例に比べてTTP(14.4 vs 7.4ヵ月、p=0.006)とOS(24.5 vs 12.9ヵ月、p=0.004)がともに有意に優れていた。
安全性は44例全例で評価可能であり、グレード3/4の血液毒性では好中球減少が66%と最も頻度が高く、グレード3の発熱性好中球減少は16%に認められた。非血液毒性ではグレード4は認められず、グレード3では腹痛(18%)、食欲不振(16%)、下痢(14%)が多く認められた。末梢神経障害は、グレード3/4は認められなかったものの、グレード1は73%、グレード2は11%に認められた。グレード1の手足症候群は18%に認められた。
UGT1A遺伝子型と初回コースで認められた毒性プロフィルとの関係を検証したところ、遺伝子多型と副作用発現頻度には有意な正の相関が認められた。UGT1A1*6は白血球減少、好中球減少(以上グレード4)、発熱性好中球減少(グレード3/4)、食欲不振、悪心(以上グレード2/3)、腹痛(グレード3)と、UGT1A6*2またはUGT1A7*3は好中球減少(グレード4)と有意に関連していた。しかしUGT1A1*28、UGT1A1*60は、いずれの有害事象とも関連していなかった。
以上のように、外来で実施可能なTIROXレジメンは、原発巣と転移巣ともに抗腫瘍効果が高く、生存を改善する可能性があり、毒性プロフィルも管理可能なものであり、転移性胃癌の治療法として有望であると考えられる。CR率も高く、本レジメンは緩和化学療法としても術前補助化学療法としても期待がもてる。今回の結果はpreliminaryではあるものの、本法の副作用を予測する上でUGT1A遺伝子多型の遺伝子型決定が重要であることが示唆された。今後、より大規模な試験で以上の知見が検証されることが望まれる。
進行胃癌において3剤併用は2剤併用に置き換わるか?
本試験は、進行胃癌に対してTS-1、CPT-11、L-OHPの3剤併用療法の有効性と安全性を検討した第II相試験である。結果として75%と高い奏効率と10.2ヵ月と極めて長い無増悪期間が報告されており、本レジメンの高い有効性が示唆されている。毒性について軽視はできないが、12サイクル完遂例が48%、増悪中止が41%であり、一定の忍容性が示唆されている。UGT1A1*28(11%)より、*6のアレル発現頻度(19%)が高く、*6と好中球減少の関連が示唆されており、既報通りアジア人種における本多型の重要性が示唆されたと考えられる。
さて本レジメンの今後であるが、OSは17.6ヵ月と良好な結果であるが、TS-1とL-OHPの併用療法の本邦の第II相試験においても16.5ヵ月とほぼ同等のOSが示されている。本邦のように2次・3次治療投与の割合が高い状況における緩和的治療として3剤併用療法が2剤併用に勝るか?という点に関してはやはり第III相試験の結果なくしては結論づけられないであろう。切除に移行した症例数が報告されていないが、本レジメンの高い奏効率は今後大腸癌のようにconversion chemotherapyの考え方が胃癌に導入された場合には期待されるレジメンと考えられる。CDDPよりも消化器毒性が少なく外来で投与可能なL-OHPは是非今後本邦でも使用可能となってほしい薬剤であり、現在TS-1+CDDPとTS-1+L-OHPの比較試験が進行中である。また、本邦においてはCPT-11の代わりに5-FU系、プラチナ製剤に加えた3つ目の薬剤としてdocetaxelを上乗せした3剤併用療法の有効性が複数の臨床試験で報告されており、今後大規模な臨床試験で検証される予定である。
監訳・コメント:愛知県がんセンター中央病院 設楽 絋平(薬物療法部・医長)
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