論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

ステージII/III胃癌に対するTS-1を用いた術後補助化学療法vs.手術単独療法の第III相無作為化試験の5年間の成績

Sasako M. et al., J Clin Oncol, 2011; 29(33): 4387-4393

 胃癌治療の主体は手術であるが、ステージII/III胃癌では治癒切除後も多くの患者で再発をみる。しかしD2郭清胃切除後の補助療法として明確に推奨できるレジメンはいまだに存在しない。著者らが以前行ったAdjuvant Chemotherapy Trial of S-1 for Gastric Cancer(ACTS-GC試験)ではD2郭清胃切除歴を有するステージII/III患者に対するTS-1療法が手術単独と比較して有意にOSを改善したという中間解析結果(追跡期間の中央値3年)が得られたが、今回は同試験の5年間の成績を報告する。
 ACTS-GC試験の適格基準は、年齢20〜80歳、組織学的にステージII(T1を除く)およびステージIIIA/IIIBと診断された胃癌患者でR0切除(断端に腫瘍がないこと)、D2以上のリンパ節郭清歴を有し、肝・腹膜転移、および遠隔転移を有しない患者とした。患者は術後6週以内に登録され、TS-1療法(TS-1群)または手術単独療法(手術群)に無作為に割り付けられた。TS-1療法は、体表面積に基づきTS-1 80、100、120 mg/day(分2)のいずれかを4週投与2週休薬の6週サイクルで術後1年間投与した。手術群には再発が認められるまで抗癌療法は行わないものとした。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はRelapse-Free Survival(RFS)と安全性とした。
 2001年10月〜2004年12月に日本の109施設に1,059例が登録され、529例がTS-1群、530例が手術群に割り付けられた。
 1,059例中、死亡数はTS-1群145例、手術群199例であった。生存例のうちTS-1群352例、手術群289例が無再発、32例、42例が再発を示した。5年OSはTS-1群71.7%、手術群61.1%、手術群に対するTS-1群の死亡のHRは0.669(95%CI 0.540-0.828)で、TS-1群では手術群と比較して死亡リスクが33.1%低下していた。
 5年RFSは65.4%vs. 53.1%(手術群に対するTS-1群の再発のHR 0.653)で、TS-1群では手術群と比較して再発リスクが34.7%低下していた。
 性別、年齢、ステージ、および組織学的分類を層としてサブグループ解析を実施したが、これらの因子と治療との間に関連は認められなかった。ステージ別に5年OSをTS-1群vs.手術群でみると、ステージIIは84.2%vs. 71.3%(HR 0.509、95%CI 0.338-0.765)、ステージIIIAは67.1%vs. 57.3%(HR 0.708、95%CI 0.510-0.983)、ステージIIIBは50.2%vs. 44.1%(HR 0.791、95%CI 0.520-1.205)であった。
 同様に5年RFSはステージIIで79.2%vs. 64.4%(HR 0.521、95%CI 0.362-0.750)、ステージIIIAで61.4%vs. 50.0%(HR 0.696、95%CI 0.514-0.941)、ステージIIIBでは37.6%vs. 34.4%(HR 0.788、95%CI 0.539-1.151)であった。
 転移および再発率は手術群と比較してTS-1群が低かった。初回再発の部位は腹膜、血行性、リンパ節の頻度が高かったが、とくにリンパ節と腹膜の再発率はTS-1群で顕著に低かった。
 TS-1群におけるグレード3または4の有害事象の発現は、食欲不振(6%)を除き、すべて5%未満であった。
 D2郭清胃切除歴を有するステージII/IIIの胃癌患者に対するTS-1の術後1年投与は、5年OSおよびRFSについて手術単独療法と比較し改善することを確認し、中間報告の3年間の追跡成績が検証された。この効果が東アジア以外の患者でも認められるかどうかは、TS-1の薬物動態が白人と東アジア人とで異なるため、明確にはできない。しかし少なくともアジアにおいては、TS-1を用いた術後補助化学療法がこれらの胃癌患者に推奨されうると考える。

監訳者コメント

Stage II/III胃癌術後にはTS-1の1年間投与が推奨される

 ACTS-GCは、Stage II/IIIの胃癌症例を対象とし、術後TS-1群と手術単独群にランダムに割り付け、OS、RFS、安全性を検討した試験である。2007年のASCO-GIおよびN Engl J Med(357: 1810-20, 2007)に、中間解析の結果でTS-1によりOSが有意に改善することが確認され、今回は、5年後の追跡データを報告したものである。同様の試験としては、韓国からXELOX療法の優越性を検証したCLASSIC試験が報告されている(Lancet誌2012年1月)。3年RFSにおけるHRは0.58であり、ACTS-GCの3年時点の結果と同等かやや低い結果となっている。TS-1投与の今後の展開としては、効果の高いStageIIの胃癌症例に対して1年間の服用が必要かどうかであり、JCOG1104においてStage II胃癌に対するTS-1術後補助化学療法の期間短縮の意義を検討する第III相試験が開始されている。また、Stage IIIA、IIIBのHRはそれぞれ0.708、0.791であり、TS-1投与に何らかの治療を付加することで治療成績の改善が得られる余地があると考えられる。術前化学療法としては、TS-1+CDDP療法による第III相試験(JCOG0501)が進行中であり、術後補助化学療法としては、ASCO-GI(2012年1月)にて、TS-1とCDDP併用療法、TS-1とdocetaxel併用療法の第II相試験が発表されている。

 本論文は、Stage II/IIIの胃癌症例に対するTS-1投与は、3年のみならず5年目においてもOS、RFSを改善したことを報告しており、現時点のStage II/IIIの胃癌症例に対する推奨治療を明確にした論文といえる。

監訳・コメント:富山県立中央病院 加治 正英(外科・部長)

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