論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

3月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

大腸癌および胃癌におけるcapecitabine vs 5-FUの有効性:6,171例のデータのメタアナリシス

Cassidy J. et al., Ann Oncol. 2011; 22(12): 2604-2609

 経口capecitabineの有効性はこれまで6件の第III相非劣性試験で継続的に研究されており、いずれにおいてもcapecitabineを含む化学療法は5-FU/LVを含むレジメンと少なくとも同等の有効性を示すことが認められている。このことから、5-FU/LVを含むレジメンの代替治療としてcapecitabineを含むレジメンが標準治療として使用可能であるという仮説が成立するが、いずれの試験でも主要評価項目はOSの代わりとしての奏効率やPFS、無病生存期間(DFS)などである。OSは癌治療の効果を判断するのに最も有意義な臨床ツールであるが、これらの試験ではcapecitabineの非劣性を示すには検出力が不足していた。そこで、消化器癌のOSに対するcapecitabineを含む化学療法の効果をより強力に評価するため、これら6試験のpost hocメタアナリシスを行った。
 解析対象として選択したのは、大腸癌または胃癌患者に対してcapecitabine単剤またはcapecitabineを含むレジメンと5-FU/LVまたは5-FU±LVを含むレジメンとを前向きに比較したオープンラベル無作為化非劣性試験6件である。年齢、性別、ベースライン時のECOG PS、治療、生存期間に関する個々の患者データを6試験すべてから抽出した。OSは無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間とし、生存例の観察は最終追跡時に打ち切った。
 各試験の詳細を示す。M66001試験(1,987例)は切除後ステージIII結腸癌に対する術後補助化学療法として、capecitabine群vs 5-FU/LV群を比較、SO14695試験(605例)とSO14796試験(602例)は遠隔転移を有する大腸癌患者に対するfirst-line治療としてcapecitabine群vs 5-FU/LV群を比較、NO16966試験(2,034例)とNO16967試験(627例)は各々遠隔転移を有する大腸癌患者に対するfirst-line治療とsecond-line治療としてXELOX±bevacizumab群vs FOLFOX4±bevacizumab群を比較、ML17032試験(316例)は進行胃癌に対するfirst-line治療としてcapecitabine+CDDP群vs 5-FU+CDDP群を比較検討したものであった。
 6試験の患者合計は6,171例、うち、ステージIII結腸癌は1,987例、遠隔転移を有する大腸癌は3,868例、進行胃癌は316例であり、3,097例がcapecitabineを含む化学療法(cap群)を、3,074例が5-FU±LVを含む化学療法(FU群)を受けていた。
 未補正の解析で対象の異なる腫瘍タイプ別に各試験におけるOSの中央値とcap群のFU群に対するHRをまとめると、M66001試験では生存期間は両群とも中央値に達せず、HR 0.86、SO14695およびSO14796試験はcap群12.9ヵ月vs FU群12.8ヵ月、HR 0.95、NO16966およびNO16967試験は17.6ヵ月vs 17.6ヵ月、HR 0.97、ML17032試験は10.4ヵ月vs 8.9ヵ月、HR 0.85であった。これを6試験全体でプール解析すると、生存期間の中央値はcap群23.1ヵ月vs FU群22.4ヵ月、HR 0.94となった(p=0.0489)。
 OSの予後因子について多変量解析を行ったところ、非層別化解析では女性(p<0.0001)、治療前のECOG PS良好(p<0.0001)が治療群の違いにかかわらずOS良好因子であり、試験で層別化すると治療前ECOG PS良好のみがOS良好因子として残った(p<0.0001)。
 以上のように、消化器癌患者のOSに対し、capecitabineを含む化学療法は5-FUを含む化学療法と少なくとも同等の効果をもつことが明らかになった。本メタアナリシスの対象となった患者の腫瘍タイプは様々であったことから腫瘍タイプ別に解析したところ、capecitabine群は5-FU群に比べ同等またはわずかに良好な効果を示した(HR 0.85-0.97)。メタアナリシスの結果とも合わせるとcapecitabineの5-FU療法に対する非劣性は本解析のすべての患者群に拡大して考えることができよう。本解析は文献の系統的レビューではないため、試験選択にバイアスがかかったのはやむを得ない。また、本解析の検討項目はOSのみであるため、奏効率など他の評価項目にこの結果を当てはめることはできないが、OSに関してみれば、臨床の場で経口capecitabine療法と静注5-FU療法を互換的に用いることは可能であると考えられる。

監訳者コメント

第III相臨床試験の研究者側に求められる患者個々のデータの共有によるメタアナリシスを意識した試験計画

 癌化学療法の第III相非劣性試験では全生存期間は臨床上最も重要であるが、これを主要評価項目におくと膨大な対象患者を必要とするため、二次評価項目にとどまっていることが多い。したがって、本論文のように質の高い第III相非劣性試験から個々の患者データを集めて各々の二次評価項目として得られた全生存期間をメタアナリシスした結果から、経口capecitabine療法がこれまでの静注5-FU療法と互換的に使用可能と判断できたことは臨床的に非常に有意義と思われた。
 併用療法も含めた経口capecitabine療法と静注5-FU療法の比較試験では予後には差がなく、capecitabineは低コストで健康指標は優れているとの報告が散見されるが、手足症候群や血小板減少が多いことも指摘されている。
 本研究のように個々の患者データが得られた場合、多変量解析も可能となるため、共有される患者情報が多ければこのような手法によって治療効果の期待できる対象患者の絞り込みや副作用や費用に対する効果などの検証が可能となることが期待できると思われた。
 一方、今後第III相臨床試験を組む場合に他の関連した試験との個々の患者データによるメタアナリシスを意識して、積極的にデータを共有できるように準備しておくことが臨床試験の研究者側に求められる姿勢であろうと感じられた。

監訳・コメント:横浜市立市民病院 高橋 正純(消化器外科・部長)

論文紹介 2012年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場