監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
胃癌に対するD2郭清胃切除後の補助化学療法としてのcapecitabine+L-OHP(CLASSIC試験):第III相オープンラベル無作為化比較試験
Bang Y-J. et al., Lancet, 2012; 379(9813): 315-321
局所乳癌に対するD2郭清胃切除は東アジア、とくに日本や韓国で標準的な手術療法となっており、欧米でも切除可能胃癌に対してガイドラインで推奨されている。ACTS-GC試験では手術単独療法に比べD2郭清胃切除後の補助化学療法は延命効果に優れることが示され、日本のガイドラインはこれに基づいている。しかしD2郭清術が普及するようになると、切除可能胃癌患者に対する最適な術後補助療法は何かという新たな問題が浮上してきた。
本試験は、D2郭清胃切除後のcapecitabineとL-OHPによる術後補助化学療法の有用性を検討した無作為化オープンラベル多施設共同並行群間第III相試験である。
対象は18歳以上、組織学的にステージII(T2N1、T1N2、T3N0)、IIIA(T3N1、T2N2、T4N0)、IIIB(T3N2)と診断された転移病変を有しない胃腺癌患者で、D2郭清後R0を達成したKarnofskyのPS 70%以上の患者とし、胃癌に対する化学療法歴、免役療法歴、放射線療法歴を有する例は除外した。対象患者はcapecitabine+L-OHP(化学療法群)または手術単独群に無作為に割り付けた。
化学療法群にはcapecitabine 1,000 mg/m2をday1〜14に1日2回経口投与、L-OHP 130 mg/m2をday1に静注した。これを3週ごと8コース実施した。L-OHPによる神経毒性が認められた場合はcapecitabine単独での継続を認めたが、capecitabineを中止した場合のL-OHPの単独療法は認めなかった。
主要評価項目は3年disease-free survival(DFS)、副次評価項目はOSおよび安全性とした。追跡期間中央値は、化学療法群34.2ヵ月、手術単独群34.3ヵ月であった。
2006年6月〜2009年6月に韓国、中国、台湾で登録された1,035例のうち520例を化学療法群(年齢中央値56.1歳、男性72%)、515例(55.8歳、70%)を手術単独群に割り付けた。
化学療法群で予定されていた8コースの治療を受けた患者は67%、相対用量強度中央値はcapecitabine 85%、L-OHP 98%であった。
本中間解析のカットオフ時点では、化学療法群の20%、手術単独群の32%で再発、新規胃癌の発症、死亡が認められた。3年DFSは化学療法群74%、手術単独群59%で化学療法群が有意に優れていた(HR 0.56、95%CI 0.44-0.72、p<0.0001)。
死亡は化学療法群13%、手術単独群17%で、3年OSは83% vs 78%(HR 0.72、95%CI 0.52-1.00、p=0.0493)であったが、OSに関する頑健なデータはまだ入手不能である。
サブグループ解析では、3年DFSは全疾患ステージで化学療法群が有意に優れていた。またリンパ節病変でみると、N1とN2は化学療法群が有意に優れていたがN0では有意差は認められなかった。
安全性評価集団は、化学療法群496例、手術単独群478例であった。全グレードの有害事象発生頻度は化学療法群99% vs 手術単独群53%、グレード3/4の有害事象発生頻度は56% vs 6%と化学療法群のほうが約9倍も高かった。化学療法群でみられたグレード3/4の主な有害事象は好中球減少(22%)、血小板減少(8%)、悪心(8%)、嘔吐(7%)であった。L-OHPによる末梢神経障害は全グレードでは56%で生じたが、グレード3/4は2%であった。好中球減少症、悪心、嘔吐、血小板減少症、食欲不振などにより、446例(90%)で投与量変更がなされ、10%が治療中止となった。
化学療法群では43例(9%)で化学療法による重篤な有害事象が生じ、最終投与から28日以内に2例が死亡した(1例は治療関連と考えられる敗血症、1例は試験治療には関連しない胃癌の転移)。手術単独群では1例が心不全のため観察期間中に死亡した。
以上のように、D2郭清胃切除後の化学療法は手術単独療法と比較し、再発、新規癌の発生、死亡の相対リスクを低下させ、3年DFSを有意に改善した。またサブグループ解析からは、化学療法の効果はすべての疾患ステージ(II、IIIA、IIIB)で認められることが示唆された。本稿では中間解析の結果を報告しているが、最終的にOSの改善も期待できると考えられる。本試験では有害事象のため大半が用量変更に至ったが、capecitabineは有害事象発現時に迅速に適切な用量変更ができるよう推奨用量で開始すべきである。本試験からの知見は、切除可能胃癌に対する新規術後化学療法としてのcapecitabine+L-OHP投与を支持するものであり、これを踏まえ、HER2陽性切除可能胃癌患者に対しD2郭清胃切除後のcapecitabine+L-OHP+trastuzumab投与の試験実施が望まれる。
胃癌術後補助療法において、プラチナ製剤併用が標準治療となるか?
胃癌術後補助療法に関する試験では、手術単独群の治療成績が日本と欧米で異なることを考慮する必要がある。D2郭清R0が得られ、組織学的ステージII、IIIを対象とした本試験の手術単独群の3年DFSが59%であることを考えると日本で行われたACTS-GCの3年RFS 60.1%とほぼ同様の結果と判断してよいと考える。
本試験は、capecitabine+L-OHPの併用療法の術後補助療法における有用性を検証した試験で、胃癌術後補助療法におけるプラチナ製剤の有用性をみるうえで重要である。主要評価項目は3年DFSで、OSの観察期間はまだ十分ではないが、ステージごとのハザード比においてステージII、IIIA、IIIBいずれにおいても0.5台であった。ACTS-GCでのハザード比は、ステージが上がるほど上昇していたことを考えると、ステージIIIA、IIIBにおけるプラチナ製剤併用の有用性が示唆された。一方で化学療法群では56%にグレード3/4の有害事象を認めており、併用療法を行う上では用量調節など十分に注意を払う必要がある。
現在、我が国における術後補助療法はTS-1単剤であり、韓国で行われた本試験がそのまま受け入れられるわけではないが、高再発危険群に対する治療成績向上に併用療法が有用であることを示した点で臨床的に非常に有意義であり、プラチナ製剤の選択も含め、わが国でも今後検討が必要である。
監訳・コメント:広島大学大学院 田邊 和照(第二外科・講師)
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